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あなたの名前
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風は物を運ぶ
塵や、木の葉や、噂や、思いを
小さな、小さな流れに乗せて、風は運ぶ
「お綺麗で御座いますよ」
女中にそう柔らかく言われて、鏡に写る自分をみた
白無垢に身を包んだ自分、しかいない。顔には、結婚すると言うのに喜びの欠片一つ感じられない
白粉で塗られた顔に、唇を協調するように紅が塗られていた
───────今日、私は竹中半兵衛のお嫁さんになる
匡二と会って、彼に結婚すると知られ、それから少しだけ時間が経った
彼は、結婚の話を聴いた後、私を問い詰めようとはしなかった。私が、守りたいからだよ。と言った意味を分かろうとしてくれたのか、それは、きっと彼しか分からない
そんな彼は、末席だが結婚式に参列している
兄も、勿論参列している
「ごめんなさい…」
ぽつりと呟いた、それは何に対する謝罪か
これは、きっと誰もが予想出来るだろう
襖が、開いた
―――――――――――
「コレを」
寅正は布に包まれた長物を、成実に渡した
成実はそれをシュルリと取った
現れたのは、綺麗な露草色の漆塗り、芯の終わりと始まりには水の波紋らしき物を描いてある
そして、刀で言う鍔の下に布が巻かれており、それは朱色で、結び目から流れている端には、綺麗な琥珀石が下がっていた
「刃は」
寅正は首を振った
「これは私共が丹精を込めて作った最高作です。強度も、細工も、そう自負してます。この槍の名前は」
空に成実は槍を掲げる様に持ち上げた
刃が、煌めく
「水葬蓮華」
「すいそう、れんか」
キラリ
陽の光を集める刃
不思議だ、前の槍のような刃
だけれど雰囲気が清廉な空気を纏っていた
「……」
これが新しい相棒、と小さく呟く
その時、一陣の旋風が成実の前に起きた
旋風の中から見慣れた男が現れる。猿飛佐助だ
「旦那ッ!大変だっ!」
「猿飛…?」
「凪ちゃんが…!!」
風が、運んできたものは
<center>凪ちゃんが!
竹中の……ッ!!</center>
成実の髪が、揺れた
「――――――」
竹中の正室
これは、最悪の事態で
成実は固まったままだった
けれど、瞼を伏せて、ゆっくり、ゆっくりと瞼を開けると、その瞳には焔が宿っていた
「猿飛、短刀ある?」
彼はそう言うと、佐助の方へ向いた
そして、右手を佐助に向けて出す。佐助は何をするのだろうか、と思いながらも懐から短刀を出して、成実の手のひらに収めた
成実は左手に持っていた、槍を地面に置いて己の結っている髪を持ち、揺れる髪先と頭部の隙間に
刃を入れた
「なっ…!!」
成実の高く結われていた髪が、切り取られる
ふわりと縛り上げられていた部分が、解放されて、揺れた
ザクリ・ザクリとまだ量が余分に余っている部分を刀で切っていく
そして、
「ワァオ…」
不揃い、では無いが、短髪に切られた髪
足元には成実の髪の毛が散らばっていた
「まぁ、ばっさりと…」
「これは決意さ」
左手に握られているのは、先程まで後頭部で揺れていた髪の毛
風が、吹いた
風は彼の足元の髪の毛を掬い、空へと巻き上げる
そして、手のひらにある髪の毛も、風に攫われていく
「俺は今この時から、願掛けで髪を伸ばす。その為の決意表明って所かな」
「願掛けぇ?アンタ今までそんな事の為に長くしてたの?」
「馬ぁ―鹿。あれは、面倒いから切らなかっただけ」
全ての髪が、成実の手のひらから攫われると彼は地面に置いた槍を持った
そして、ドンッ!と槍を立てる
「伊達藤五郎成実、男を見せてやる!」
だから、待ってろよ
例え誰の正室になろうと、構わない
それに変わりはないのだから
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