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―甲斐の国―
「これは酷い…」
罅の入った槍を見た幸村は、見た途端言った
同じ槍使いとして、もうこれはダメだと思ったらしい
「佐助、あの者は呼んで居るか?」
「大丈夫。あと少しすれば来ると思うよ」
佐助の誘いに乗り、ついて来た場所は上田城。聳え立つ城、の中では無く何故か城門が見える広い場所で幸村に槍を見せていた
「安心なされよ成実殿。あの者は腕は確か。きっと貴殿に合う様に、仕立ててくれましょうぞ」
「ソレだと助かるんだけど…」
何もこんな時に壊れなくても良いだろうにと思ったが、壊した原因は自分なので、何も言えない
「寅正だっけ?頼む職人ってのは」
「うん。俺様の苦無とかよく研いで貰ってるよ~」
「某の槍も時折研いで貰っておる」
幸村の槍を預ける、というのは余程信頼されているのだろう。となると腕も確かなのがわかる
「あ、来た」
門が開く
開いた隙間から、少女が見えた
「あの餓鬼が寅正?」
「違うよ…」
小柄な凪と同じ位の年齢だろう少女のあとに、頭部全てを布で隠した30代位の男が続いて入ってきた
「寅正、参りました」
「おぉ、よくぞ参った!!」
頭を下げたその男の指先を成実はちらりと見る
確かに職人の指先をしていた
「寅正殿、こちらへ」
寅正は目の前までやって来ると、持ち手に罅が入った槍を見て察した様だった
「刃の部分はまだ辛うじて生きておりますが、柄はもうダメですね…」
ちらりと寅正は成実を見た
「これをお預かりしてしまえば良いのですね?」
「使える様にしてもらえたら良い」
「かしこまりました。花」
「はいよ~」
花は布に槍を丁寧に包み込む
そして寅正は成実の前まで来て、成実の手を取った
何だろうと思いつつ、成実は寅正を見た
「あの槍の主は貴方ですね。あの槍は、相当使い込まれています。刃も…辛うじて生きている状態です。よく持った方だと思います」
辛うじて、と言う言葉に不安が胸を過ぎる
「あの槍を無事に新しい槍に生まれ変わらせられる確率は一割です。残りの九割は、言わずとも分かると思いますが…。もし期日までに出来なかったら、私共が作った刃の中でも最高の物を貴方に献上しましょう」
それはつまり
「やっぱり、ダメなのか?」
「九割は。でもこの刃は、貴方の気持ちに今も、昔も応えています。その応えようとしている気持ちに可能性があります。こんなに思いが強い刃はなかなかいませんよ。良い主なのですね貴方は」
そう言うと寅正と花は上田城から出ていった
「寅正殿らは、言った事は必ず成し遂げてみせます。それまで我等は待つしかないのです」
幸村のその言葉に成実は静かに頷いた
佐助が最初にその場から居なくなり、幸村も成実に声を掛けて城に入ろうとした
成実はその場から動かずに、ただ、寅正が消えた城門をじぃっと見つめていた
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