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─────────覚悟を決めました
佐助がやってきた翌日、日課となってる半兵衛の訪問があったおり、彼にむかって凪は静かにそう告げた
ただし、条件が
と言うと叶えられる条件だったなら。と彼は言い、二人の婚約が決まった
婚約が決まったあとから軟禁は解け、凪は一人部屋を宛てがわれた
相変わらず監視はついているが、それでも鍵付きの部屋で無くなったことは凪に、少しだけマシだなと思った
「………」
盛大な祝言は上げない。親しいものだけの、祝言にする事にした
大袈裟なものはしなくていい、大々的にすると言われたけど私がそれを断った
「着物はどうしようか。仕立てるのには時間が掛かるだろうから、呉服屋に来てもらって選ぼうか」
祝言まではまだ時間があり、半兵衛はその準備と彼本来の仕事に追われていた
「白無垢に種類も何も無いかと…」
「それもそうだけど、君は僕の正室になるんだ。普段から綺麗に着飾ってもらいたいんだよ」
半兵衛は微笑した
「はんべー、ちょっといいか」
二人の空間を破ったのは、兄の声だった
半兵衛は立ち上がり、そのまま外に出て行った
室内に残されたのは凪だけ
(成実さん…)
彼に出した条件は幾つかあった
彼は守ってくれるだろうか…
カタン…
(ん…?)
隣りの部屋から物音がした
襖を、すっと開けるとその先には誰もいない
カタン…
また音がした
また一つ襖を開ける
「あ…」
そこを開ければ、一人の女が座っていた
髪の長い、綺麗だが何処か闇を孕んでいる、女性
「あなた、誰」
「う、っと…凪って言います」
「そう、じゃあ、貴女が…」
「?」
「………長政様が死んだのは、市のせい…。だけど………」
ゆらりと彼女…市は、凪を闇深いその瞳で見たのだった
「彼らが国を攻めて来たのは……貴女のせい」
「―――――!!」
「彼らの目的…それを叶えるために……彼らは攻めた………長政様は、戦った……だけなのに」
長政、市
日本の歴史を学んでいるならば、一度は聞いた事がある
確か、市とはあの織田信長の妹
そして、長政とは多分浅井長政。市の旦那で、そして凪の世界では、織田信長に攻められ……死んだ人
浅井長政は────────
「貴女のせい…」
「……」
ぎゅぅっと手を握った
私のせい…?
「貴女の為に…彼らは……異能の一族を……葬り去っている。私達の国にも……居たけれど……皆殺されてしまった……。貴女のせいで………。貴女の、闇が見える……。貴女のせいで、周りの人が傷つくのが…見える」
「っ」
周りの人が傷つくのが、という言葉にハッとした
(匡にぃ、…成実さん……)
彼らは、自分の為に傷ついた
私の、為。私の、せいで
「市と一緒……いるだけで、何かを傷つける…」
「私は…」
「でも……一つ違う事がある……。貴女は…、「そこまでにしてもらおうか」
市の言葉を遮るものがあった
後ろを振り向けば、襖に片腕を掛けて、市を睨んでいる男がいた
「にいさ…」
「こいつが周りの人を傷つけてる?確かにそうかもしれないな」
「違うだろ北斗…」
北斗の後ろから半兵衛もやってきた
「部屋から居なくなったと思ったら、こんな所にいたんだね。市の方、やめてくれないか?変な事を言うのは」
「市、変な事なんか……言ってない」
「そう?彼女のせいだ、とか言っていたじゃないか」
「……」
「僕に言わせれば、彼女のせいじゃなくて、彼のせいだと思うよ」
「おい…」
彼を横目でみる半兵衛
「殲滅は、北斗の独自の願いの為。彼の友人が未だ起き上がらないのは、北斗が手加減無しで本気で仕留めようとして居たからだろう?北斗のせいじゃないか」
「……」
半兵衛は凪の肩を抱くと、そのまま自分の胸へ凪の顔を沈ませた
「君と彼女は違う」
「……」
「…嫁ぎ先の柴田家に早いこと行った方が良いね。どうにもこのままじゃ、誰かを傷つけそうだから」
そして、半兵衛は凪の身体を市とは反対方向に向かせ、肩を抱いたまま、市に背を向けて部屋を出る
ちらり、と兄を見やるが、表情は無表情
ただ、市をじぃっと見ていた。深淵を覗くように
部屋を出てから、ゆっくりと歩を進める
一歩一歩が凪の歩幅に合わせられており、凪はそれに気がついた
「ごめんね。責められて驚いただろう?」
右上にある半兵衛の顔の表情は、苦笑いだった
「あの方は此所に来た時からあぁなんだ。だから気に病む事は無い。僕も、長政が死んだのは僕のせいって言われたしね」
これは、この人なりの思いやりだろうか
だけど…
「でも、事実ですから。市さんが言った事」
そう。彼女が言った事は本当の事で、変えられない事実
だから、咄嗟に否定が出来なかった。身に覚えがありすぎて
「…」
「じゃあ、変えればいい」
え、と半兵衛の方へ顔を向けた
半兵衛は優しく笑うと、言ったのだ
「自分の周りにいる人間が傷つく、というのは誰にだって有り得る事だ。時には力で、時には言葉で傷つく事なんて沢山あるんだ。人と関わって、傷つかない人間はこの世には居ないよ。この世は傷ついて、傷つけられての世界。だから、それは当たり前なんだって思ってみたら?」
それは、酷く高尚な内容では無いのに、まるで、世界の理の様に聞こえて、そして彼が居たら多分似たような事を言うだろうなと思えた
「全部、お相子なんだよ。今回の婚姻、君は傷つけてしまったモノを守りたい為に自分を傷つけるのだしね」
ぐっ、と拳を強く握った
「誰も傷つけない人間なんかこの世には居ない。だから、良いんだよ。自分のせいで、だなんて思わなくても」
あぁ、なんて
その言葉は、
酷く、私のこころを
揺さぶるのだろうか
泣きたくなる衝動を押さえて、私は、前を向いた
もう、立ち止まれない
前を向いて
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