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―武田信玄が国、甲斐にて―
「と言う訳だ…旦那」
「それでおめおめとテメェは帰ってきたのかよ…Shit!!」
左助の前には自分の主だけでは無く、伊達の主、政宗の姿があった
そして、伊達三傑の姿も
ちらりと成実に目をやれば、どうしようもない表情をしている
それもそうだ
───────忘れて、だなんて
攻め入らねば、彼女は、豊臣のモノになる…いや、もうなってしまったかもしれないが、だが彼らにしてみればきっとそれは耐えられない
「何と言われようと甘んじてそれを受け止めるよ。伊達の旦那」
ぎゅぅっと手を握った
「凪の言う通り」
小十郎はぽつりと呟いた
「凪の言う通り、彼女を忘れるという事もまた手段と言えば手段なのでしょうな」
「こじゅ…う、ろう……?」
小十郎が訳の分からない事を呟いたと思ったら、鬼庭がそれに続くように言った
「政宗様、成実殿、忘れてはいませんか?貴方達は民を背負う武将です。一人の女性の為に、一国を相手に攻め入るだなんて愚の骨頂。忘れる、なんて事は出来ませんが、こうなった以上、凪殿を…」
「綱元ッ!」
政宗の一喝ではっとする鬼庭
成実は今にでも鬼庭を殺してしまいそうな程の殺気を出していた
「綱、俺にアイツを諦めろって?」
そう言おうとしたのか?
そんなの、嫌にきまってるのに。出来るはずないのに!!
刀を持って無くて良かったと思う
多分持っていたら抜刀していた
この場に、誰が居ようとも構わずに
「成実殿。鬼庭殿の言う通り、一国の民より重いものはない。ただ一人の女子の為に戦いをするのは、貴殿を頼る人間を捨てる事になる」
それをやんわりと諫める様に、信玄は言った
殺気を押さえさせる為か、国を背負う主としての重さをわからせる為かはわからないが
「それでも、お主は女子を助けたいか?」
成実は一度俯くと、顔を上げて笑った
その笑みの意味を汲み取る信玄
諦めでは無い、その笑みは成実の決意、願いだった
「誰が止めようと、俺はアイツを豊臣から取り返したい。俺は、昔あいつに言ったんだ」
もし
敵がお前を奪おうと
戦を仕掛けても
お前は守って
無事な場所迄逃がすから
安心しろ
奪われたら
奪い還してやる
だからそんな顔止めてくれ
この世界に来て最初の頃だっただろうか
着物を買った帰り道はぐれて、凪は小さな小屋で犯されかけて、後日、左助に出会い自分が違う世界から来たとバラしたと凪から言われて、俺はアイツに傷口に塩を塗る様な言葉を吐いた
部屋を出た凪は余計なことを考えていて、追いかけてから言った言葉がそれだった
随分前に、俺は約束したんだ
《約束》
その単語は、不思議な事に揺ついていた怒りを一気に消化させた
すとん、と気持ちの中の何かが落ちる
成実は、言葉を選んだ
「俺は、武士です。その前に、一人の男です。自分の好きな奴が、蹂躙されるのを黙って見ていたくないし、何より一度口にした約束は男なら守らなきゃならないでしょ」
男に二言は無い
約束をしたならば、それは、守られねばならない
例え、どんなに難しくても
「約束、でござるか」
「元々予想はしていた。豊臣や、今は無いけど織田に奪われたら…って。今それが余計な事が絡み合って、複雑になっているだけで、予想していた事に何等変わりはないんだ。豊臣の手に落ちた。その意味に変わりはない。だったら、俺は行かなきゃ。民も国も俺には大事なモノだけれど、それは《伊達成実》っていう武士の気持ちで、今此所に居る俺は、凪を好きなただ一人の情けない男の《伊達成実》なんだ。約束をしたのは、後者の俺なんだから」
だから
だから
「情けない俺に、皆の力を貸して下さい」
プライドも
何も、捨てて約束を俺は選びたい
「国を、民を、選ばずに、たった一人を選ぶ俺を、許して下さい」
それでも、俺は
「罵ってもいい」
あいつを
「批判も受け入れる」
ただひとりを
「助けて、ください」
成実は、頭を下げた
その様に政宗以外が驚いた
政宗は、こうなる事を予測していたのだろう
「…この戦いは大きなものになるぞ」
「身勝手な思いから起こす戦にしては、代償がデカい」
信玄、小十郎は眉を寄せて未だ頭を上げぬ成実を見やる
「後世に、愚かな武将だって言われても構わない。代償…は、償いきれるかなぁ」
代償、それはただ一人の為に戦って、その為に出た犠牲の事だろう
頭を上げた成実は困った顔をしていた
しかし、表情は一人の男の表情だった
「俺は出る。コイツを一人には出来ねぇからな」
政宗はニヤリと笑った
「政宗様…」
「小十郎、成実は腹を決めてんだ。テメェも腹くくれ」
「ハァ…」
小十郎、鬼庭はこれ以上の反対は無駄と思った
主がそうと決めてしまったなら、覆す事など出来まい
「梵…ありがとう」
政宗は、一瞬だけ笑った
「あんたはどうすんだ。信玄公よ。一応同盟国となってるが、俺らが戦を仕掛ければ下手したらアンタらの国に豊臣の手が延びるかも知れねぇ。同盟を破棄するか?」
信玄は首を横に振った
そしてニカッと笑うと、立ち上がり腕を組んだ
「幸村ぁああああっ!直ちに真田忍隊の忍全てを使い、豊臣の周りを偵察させよっ!!我等も参加するぞ!!!!!」
「ははっ!お館様っ!!!!!」
「…信玄公、真田…」
左助は成実の隣りに来た
幸村と信玄のお馴染み
《おやかたさぶぁああああああああっ》
《ゆきむるぅああああああああああっ》
掛け声が轟く中
「俺様も悔しいから、あのまま引き下がるなんてしないよ。絶対に、取り返してみせる」
と言ったのだった
待ってろよ
凪
約束を、果たす
助けるから
国と民を選ばない俺を
お前は馬鹿ですって言うだろうな
でも、それでもいいんだ
お前がこの腕の中に戻るなら
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