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それから暫く真田さんたちは滞在して甲斐へと帰っていった
幸村達が来た日初雪となった奥州ではあれから深々と雪が降り続いた
奥州は銀世界になる
「寒い…でも綺麗」
「雪なんて邪魔なものだ。何処が綺麗なんだよ」
寒かったので暖かそうで尚且つ遠くない部屋に凪はいた
成実の部屋である
火鉢が部屋にあり、温められた空気は程よい温度となっていた
「屋根に積もれば雪下ろし。道も歩けなくなるから雪掻き。寒いし、冷たいし。一年で一番嫌いな季節だぜ全く…」
「雪があればカマクラだって作れるじゃないですか!これだけあれば作れますよね!!ね!?」
成実は執務をこなしながら外の雪をみた
「人の話は無視かオイ…まぁこれだけあれば作れるだろ。つーか、この年でカマクラって子供かお前は」
雪を見てはしゃぐ凪に成実は溜め息をついた
自分達は生まれた時から奥州の冬に触れている訳で…
冬がもたらすものは悪いものもあるが、春。命の息吹をもたらすには必要なものだとも理解している
無くてはならない季節と言う事を
しかし長く付き合ってしまうと冬の代名詞とも呼べる雪の存在がうっとおしくなるのだ
雪を見て喜ぶのは子供ぐらいだ
「よし!!決めた!じゃあ失礼しまーす!」
凪はそう言い残すと成実の部屋から出ていってしまう
「あ!馬鹿!戸閉めて行け!!」
開けた戸から寒さが部屋に入り込む
成実は肩を震わせると戸を閉めた
「ったく…寒ッ!」
■■■■■■
静かな室内で執務を行う成実
そろそろ女中が茶を持って来てくる時刻だろう
筆を休めると、肘をついて溜め息をついた
―雪は嫌いだ。作物が実らない
奥州は長い間冬に閉ざされる。つまり農作業が出来る期間が短い。
国の豊かさを計るにはやはり農作物の出来高だと成実は思っている。
冷害等で農作物が不出来だった場合打撃を受けるのは民だ。
成実はそんな民を見るのが嫌だった
だから冬は嫌いなのだ
「本当…喜ぶのは子供位だって」
「む?むむ?上手く出来ない…」
「違う。達磨はな…」
窓の外から聴こえた声に成実はズルッと上半身を滑らせた。窓を開けると、自室の窓の目の前に重装備した小十郎と凪が遊んでいた
「お前ら何してんのぉ!?」
「あ…成実さん」
「よぉ成実」
鼻を赤くして銀世界で二人は小さな何かを作っていた
「や。カマクラは時間掛かりそうなので雪達磨を」
「折角降ったしな。手伝いだ」
否、お前執務はどうしたよ!!
「あ!見て下さいよ!雪兎!」
と凪が差し出したのはただの雪に見えた
「ゆ、雪兎…?否、待て待て!!葉っぱの耳に赤い粒だろ!!なんかおかしいぞコレェッ!!」
凪は雪兎を作ったつもりだったのだが、いかんせん作った事が無いので見よう見まねな雪兎だった
やはり足りなかったか…
「雪だるま上手く作れないんですよねぇ…小十郎さん!もっとギュッと丸めちゃいましょう!」
「何で雪だるまを地道に雪くっつけながら作るんだよ!小十郎も教えてやれよ!」
「俺も作った事が無い」
「嘘…」
成実は呆れた
冬国に生まれて雪だるまを作った事が無いとはどんな幼少期を過ごしたのか…
「…今行くから」
間違った雪だるま作りをしてもいつまでたっても完成はしない
自室の前でずっと騒がれても困るので成実も外に出た
「いいかお前ら。雪だるまはそうして作るんじゃない。最初はそれでもいいが…貸してみろ」
成実は固く作られた雪だるまの小さな元を手に取るとしゃがんでそれを転がし始めた
「転がすんだよ。程よく雪をつけてやりながら転がす。ちまちま作ってたら夜になるぞ」
上手に転がしてある程度大きくなったら少し固める。そうしてまた転がし始める
「うわぁ…」
「ほぉ…」
あっという間に胴体、頭を完成させた成実は小さいながらも雪だるまを完成させた
「こんなもんだろ」
完成した雪だるまを見下ろすと成実は腰に手をあてた
「しっかし、久し振りに作ったけど腰痛くなるなぁ」
最後に作ったのは元服を迎える前だった
そうだ。梵と昔よく作った
凪は枝と石をどこからか持って来ると、雪だるまの顔を作った
「あと何個かつくらないと」
「一体で十分だろ。風邪ひくぞ」
凪は成実に教えてもらった作り方で今度は大きな雪だるまを作りはじめる
「十分なんて事ないですよ。…一人は淋しいもん…」
ポツリと呟いた最後の言葉は成実と小十郎の耳にしっかりと聞こえた
「私のいた時代ではですね、雪が降るのはこの奥州、北海道…この時代は蝦夷ですか。それに加賀に越後などその国に近い国だけ降るんです。南の国は殆ど降りません。降ったとしても微々たるもので、積もったとしても晴れてしまえば直ぐに解けて消えてしまうんです。直ぐ…消えてしまう……。消える時、一人で解けて無くなるのは淋しいです。隣りに誰かがいれば淋しくないでしょう?」
せっせと雪だるま作りを勤しむ凪の言葉に成実は眉をひそめた
前にもそんな言葉を昔
随分昔に聞いた気がする
あれは、誰の言葉だっただろうか
一人は淋しい
こいつも一人じゃきっと淋しいよ
そうだ。梵だ。幼い日の梵が言った言葉だ
それと同じ言葉をまさか他の人間の口から聞くことになるなんて、と成実は溜め息をつき、としゃがみこんで雪だるまを作り始めた
「そこで見て無いでお前も作れよ小十郎」
「成実さん?」
「お前が梵と同じ事言ったから思い出しちまったじゃねぇか。…一人は淋しい、か」
「さ、はやく作ろうぜ。霜焼け起こしちまう」
成実は昔を思い出して雪だるまを作る
一人は淋しい
だけど、それは気付かないだけで一人じゃないはず
「梵やアイツは一人じゃ淋しいって言うけど…お前は、一人じゃないよ」
積もった雪
それも雪だるまにとっては仲間なはず
だから一人な訳ない
だけど消えてしまうから
いつか、目の前からいなくなってしまうから
形に残すんだろう
「出来た!成実さーん!それこっちに持って来て下さいよ~!」
「へいへい」
誰にだって見守られているものがあるはずだから
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