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ふ、と目を開ければそこは暗闇だった
布団に寝て居るのがわかった
確か…自分は、と意識を定めていく
「…成実さん」
がばり、と起き上がり窓の障子戸を勢いよく開け放った
そしてもう一枚戸を開けると、澄んだ夜空に煌めく星々と満月。それから冷たい風と、視界の下には町が見えた
ヒュオオオオ…
髪が風に乗り靡く
高い建物独特の風の強さと冷たさが身体を身震いさせる
息を吐けば、白くなり消えゆく
見知らぬ、土地に凪は何も言葉を発する事が出来なかった
「……………」
此所はどこ
自分は何故燃え盛る建物の中にいない
酷い怪我をしていた成実さんは?
なにがなんだか分からない
「あ、起きたんだね」
後ろから声がかけられた。ゆっくりと振り向くと、月光の光で煌めく髪が目に焼き付いた。それから端整な顔立ちで、やたら白い肌の青年…
一歩、一歩とその青年がこちらに足を踏み出すのを見ていた。否、見ている事しか出来なかった。自分の中で混乱していたから、というのも有るけれど、この青年に見つめられて微動だにすることが出来なかったというのが正しいのかもしれない
「うん、なかなかいいじゃないか」
なにが良いのか分からない。凪は勇気を出して近付く青年に話しかけた
「ここは、どこですか。何故、私はここにいるんですか。そして…貴方は誰ですか?」
「まずは状況判断か。ますます気に入ったよ。ここは大阪城。君は、僕の親友が燃え盛る前田の砦から連れて来た」
目の前まで青年は来ると、凪の髪を己の手に絡ませ、漆黒の髪に唇を落とした
その仕草にドキリとする。唇を落としたあとに、真っ直ぐな瞳の視線が凪の視線と絡む
「あと、僕の名前は竹中。竹中半兵衛、豊臣秀吉の軍師だよ」
よろしく、と言われたあとに、半兵衛の顔が目の前にあった
チュ、と軽いリップ音がしたあとに、ゆっくりと唇が離れる
離れた唇
暫く、ぼ―っとしていたが半兵衛の視線を感じて、はっとした
唇を手の甲で拭う
「なななな、何を…!!」
「何って…。妻になる人に接吻をしただけだよ」
「妻!!??や、ちょ、まっ!!え、私、貴方と全っく面識はありませんし、まして妻になる話身に覚えが無いので、人違いじゃないですか?!」
妻になる云々で成実に断りをいれたのは記憶に新しいが、初対面の人間に妻になると言われても人違いとしか思えない
しかし竹中半兵衛は、容姿に似合わない笑みを浮かべ「人違いじゃない」と言い放った
「絶対、人違いです!!」
「人違いじゃないよ。だって君は北斗の妹だろう?」
北斗、この言葉に動きが止まった
「そう、だ…!!兄、北斗は何処ですかッ!!」
「北斗?彼なら今…」
ドゴォオオン…ッ
何処からか何かが激突した音が聞こえた
下を見ると煙が上がっている。窓から身を乗り出していたが、竹中が凪の身体を抱き寄せた
「駄目じゃないか。落ちたら危ないだろう?」
「今の、なんですか」
「さっき北斗は何処だと聞いたね。彼はあの煙の中だよ」
「え…」
再び身を乗り出したかったがそれは竹中によって阻まれる
もがいてみるけれど、そこは細身に見えても武人と一般人。当然半兵衛の方が力が強く凪は身体をひいた
「大阪城に帰城した七日前からずっとあんな感じで喧嘩しているんだ。いい大人が嘆かわしいね」
「七日…!?戦から七日経ったんですか…!?」
「戦?あぁあの戦か。あれからだと一月近く経つよ。君はその間眠ってた」
一か月近く!?
そんなに寝ていたの…
成実さんはどうなったんだろうか。あの傷は深手だと思う。…死んでないよね…
「まず貴方の妻になる云々は後で聞きます。すみませんが先ずは兄の所に連れていってもらえますか?」
「…良いだろう。ついて来れば良い」
竹中は凪から身体を離すと、凪の手を引いて歩き始めた。しかし一か月も眠っていたせいか、筋肉が思う様に動かない。それを悟った竹中は、凪の身体を抱き上げた
「足の力が衰えたんだね。大丈夫連れていってあげよう」
ニコニコとする竹中に何とも言えない様な顔をする凪
抱き上げたと言っても形は様々あるが、今この形は俗に言う“お姫様抱っこ”だ
あまり体験したことが無い抱き方に戸惑う。しかも、相手がよくわからないなら尚更。これが成実だったとして、じゃあ反応はどうだ?と考えれば、きっと顔を赤くして恥ずかしがるに違いないのだけれど
■■■■
パンッ、パンッ
パンッ
パンッ!!
「っ、はぁハァハァ…!!」
息切れをおこす男
目の前に立つ男は憎らしい程だ。自分は、息切れをおこしているのにも関わらず、相手は息一つ乱れていない。同じ時を何年も過ごしたのに、五年以上の歳月はこうもスキルを変えるのか
「どうした、早く立ち上がれ」
「言われ、なくとも…っ」
竹刀を地面に突き立てて、それを支えにして立ち上がる
着物は既にボロボロだ。また庭で戦っている為に土だらけで、口の中は少しばかり砂利の味がする
唾と共にそれらを吐き出し、再び竹刀を構えた。見据えるのは、親友と思っていた人物
間蔵北斗―――――
ヒュッ
竹刀で切る様に土埃を薙払った。薙払った隙間から匡二の姿が現われる
藍色の着物を風に揺らし、間合いをはかり北斗にむかい突進する!
突進の勢いの攻撃を受け止めて、北斗は足で匡二の腹部に蹴りを入れる
それに気がついても対応は遅かった。そのまま右に吹っ飛ばされる
「五年以上俺は戦に身を投じてたんだぞ。一年そこらに来たお前が勝てる訳無いだろう。いい加減諦めろ」
「誰が…ッ!諦めたら、凪は…」
「馬鹿だなお前は。力の差は歴然なのに」
「そうだな、歴然さ…。でもな!!歴然だったとしても!!!!立ち上がって、刃を持たなければいけない時が人間にはある!!」
「ワォ。まるで昔のヒーローの台詞」
クスクス笑う北斗
そして、すっ、と目を細めて匡二を睨んだ
「さっさとくたばれよ」
倒れている匡二の元へゆっくり、ゆっくりと歩き出す北斗
匡二の目の前までやってくると、北斗は竹刀を高らかに上げた
そして勢いよく振り降ろす!!!!
「…ッ!!」
匡二は迫り来る衝撃を躱そうともせず、これから来る衝撃をどういなそうか考えて─────
「止めてぇえええ!!」
声が聞こえた
目の前の北斗の腕に誰かの細い腕が回されていた。そしてそれが微力ながらも、匡二へ振り降ろされる筈だった衝撃を止めていた
その腕は何処からと思い、ゆっくりと視線を降ろした
「凪 様…?」
「止めて!!匡にぃボロボロじゃない…!!死んじゃうよ…!!」
「起きたのか」
「竹刀を離して…ッ」
身長の差が有るので、腕にしか届かない凪の手。ずっと寝ていたとは思えない程の力で、北斗の次の行動を阻止しようと腕を掴む
「……」
「城内で争い事は止めてくれと言ったじゃないか北斗」
竹刀を上げたままの北斗を諌めるのは竹中半兵衛
その言葉に北斗は溜め息一つ吐くと、竹刀をゆっくり下に降ろした
「匡にぃ!!」
攻撃する意思が無くなったのを凪は感じ取り、匡二の元へ駆け寄った
痣だらけに傷だらけ。出血に打撲じゃすまなそうな程な状態の怪我
「わた、しは大、丈夫です」
「大丈夫じゃないよ…!!こんなに怪我して…!!」
「私のは 直、ぐに治ります」
怪我で顔を歪める程痛い筈なのに、匡二は心配させないようにと笑う
「私、は」
匡二はゆっくり起き上がる
「あなたを 変えるの、は 成実しか、いないと だ から 」
成実―――――
成実さん、成実、さん
頭に浮かんだ、彼
目を閉じた瞬間にドサリと重い音がした
目を開けると匡二が倒れていた。竹中は近くにいた兵士に匡二を運ぶ様に指示した
兵士は「また倒れたのかよ」と呟いた。どうやら、倒れた匡二を運ぶのはこれが初めてではないらしい
地面に座ったままの凪
それを北斗は無理矢理立たせた
「…奥州に」
奥州
その単語に心が反応した
「匡二が毎度毎度言うんだ、お前の運命を変える奴がいるってな」
「……」
「伊達成実と言うらしいな」
「なるみさんは、」
「お前の運命を変えるのは、何もそいつだけって訳じゃねぇ」
「なるみさん、は」
「お前を救う野郎は、この世界の、この時代の人間なら誰だってなれる」
「なるみさ」
「奥州には帰させない。はんべーの妻になって、この世界で一生暮らしてもらう。あんな野郎になんか…」
「成実さんをあんななんて言わないで!!!!!!!!!」
大声を凪は上げると、兄を睨んだ
「成実さんは、優しくて、強くて、いつもそばにいてくれて…ッ!!」
この世界に来て、もう一年は経っただろう
あの日、刀を突き付けられたのが出会いだったっけ
「私を好きだと言ってくれた…!!」
小屋で襲われそうになった時助けてくれたのは?
(成実さん)
「奥さんにしたいって言ってくれた…!!」
赤ちゃんを夜一緒にあやしたのは
(成実さん)
「奥さんになれないって言って傷付けても、成実さんはあの場所に来てくれた…!!」
燃え盛る砦に来てくれたのは
「あなたに成実さんの何が分かるの!!??それに私を嫌ってる癖に、救うとか何!!!!???私を救う為に、あそこの人と結婚しろ!!??ふざけないでよ!!!私は、私は!!成実さんが!」
――――――好き。あなたのそばに居たい
ひゅ、と息を吸った
どうしてそれを、言わなかったんだろう
その気持ちがあれば、きっとずっとそばに居れるのに…
「…私の運命を変えるには、誰かと結婚とかしなきゃいけないって匡にぃが言ってた。でも、成実さんの未来を想ったら、お嫁さんになれないって思った…。違う人と運命を変えるのも、…成実さんの未来を想ったらそれもいいって思った。だけど」
だけど、今強く思う
「だけど、私は」
成実さん
今何してますか
「わたしは…!」
成実さん
今なら私、胸を張って言えます
「私は…!!」
「成実さんのお嫁さんになりたい…ッ」
運命を変える人が、誰でも良いなんて、もう思わない
運命を変えてくれる人
それはもう、成実さんしかいない
あの日、あの時出会った時には想像が出来なかったけれど、成実さんしか考えられない
あの燃え盛る砦の中で、助けに来てくれた成実を思い出して、そう思う
「私は、成実さん以外の人とは結婚したくない…!!いつか元の世界に帰ったとしても!!私は成実さんとしか番いにならない!!」
成実さん
貴方に
今
とても、あいたいです