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匡二が北斗に連れられ行き着いた先は本陣だった
本陣の中には竹中半兵衛が座っていた
北斗は匡二と頼を本陣から少し離れた所に置いて、本人は凪だけを連れて本陣へと赴いた
半兵衛は意識のない凪の顔を覗きこむ
北斗と似た顔つきの少女の髪を撫で、それから頬を撫でた
「この子は人質かい?随分と強硬な策に出たね?」
「人質なものか。こいつが俺の探し物。お前が会ってみたいと言っていた奴だ」
「この子が?」
「あぁ」
「そうか、だから君は休暇中なのに出て来たのか」
それで納得したよと言った
「はんべー、今回は此所で手を退け。龍の双璧の片割れがいた。下手すると伊達や武田、さらには上杉と争う事になり兼ねない。今は伊達や武田を相手にする暇は無いだろう。前田とも和睦を結び、手を退け」
半兵衛は
元よりそのつもりさ
と言い軍に指令を出した
この数で武田の騎馬隊、真田の忍隊、上杉の軍隊、伊達の軍隊を打破するにはかなり危険だと思っていたからか…
この戦は脅しに近いものなのだろう
「…凪」
腕の中で眠る凪を見て幼い頃を思い出す
生まれたばかりの頃、首が座った頃、はいはいし始めた頃、つかまり立ちし始めた頃
…‥彼女が自分の腕の中に入る大きさだった頃を
そして、幼かった彼女に言った言葉を
あの日、捨てたフリをした時のことを
「嫌いなんかじゃない。嫌いだったら、こんな事しない。今も昔も、俺の宝物は…‥」
瞼を強く閉じれば、赤ん坊の手が自分の人差し指を強く握った記憶が思い出された
■■■■■
本陣から出て自分達の野営地につく
そこには、少し焦げ付いた匡二と部下たちがいた
「随分教育がなってないな。客人だぞ俺は」
部下は匡二を囲み、彼らは、師団の証の銃を向けていた
威嚇しているのだろうか
「お前ら、銃を下げろ」
その言葉に周りは銃を下げる
北斗に対する部下達の態度を見て、「ボスへの忠誠、柔順さは教育したみたいだな」と呟いた
凪を簡易ベッド的なものに寝かせて、北斗は匡二の前に座った
盃と瓢箪を部下が差し出し、匡二に瓢箪の中身を注ぐ
中身は思ってもみなかった代物だった
「日本酒じゃなくてワイン、ね」
「飲めるだろ?」
「まぁ」
トクトクと注がれたワインを飲み干す
充分に寝かされた赤ワインは、喉越しも良くなめらかで旨い方に入るものだ
ほら、と盃が空になればまた注がれ、ある程度飲んだところで北斗が口を開いた
「お前はいつこの世界に来た?」
「凪様と同時期ぐらいだから···約一年」
「そうか。ちゃんと仕事をする奴を見つけたんだな。俺は、馬鹿な奴のせいで6年前に飛ばされた」
「は、6年ッ!?じゃあ、い、今、年は…」
「とうに30は超えている」
では先程感じた、いい感じで年齢をというのは間違っていなかったのか
「まずあいつが。それからお前が消えた後、俺はある魔法使いに出会った。そいつはこう言ったよ」
―――――――――――――――
魔法使いに似合わない、いや普通より上のランクのマンションにそいつはいた
高層マンションの最上階角の部屋、地上から遥か上のその部屋に男が二人
『お前らがやってる事は無駄だぞ』
その男は魔法使いのなかでも知られた存在だった
そして、自分達が用意した魔法使いを殺した魔法使いだった
『無駄じゃない。運命はこっちでも変えられる。お前が殺した術者がそう言っていた』
『だーかーら、はぁ。説明面倒いなぁ』
男はガシガシと頭を掻くと溜め息をついた
革張りの黒の油圧式の回転イスで足を組む。すらりとした細く長い足がとても強調された感じだ
『あのな、なんで俺が同族殺しまでしたと思う』
指を組んで彼はふてぶてしい態度で北斗を見た
何故、と言われても思い当たることはない
『変わらないからだ』
その言葉は先程の言葉と変わらない。でも重みは違っていた
『世界の事をお前は何も知らない。その魔女も、術者も、な』
キィ、とイスを回転させる。そして一回転すると立ち上がり、北斗の前に立った
北斗より10センチは高いだろう男はニヤリと笑った
『世界の基盤は何一つ変わらない。どんな波が来ようが嵐が来ようが、不変的なのさ』
『不変?』
『決まっていることは変わらない。それを捩じ曲げたとしても、予め決まっているのだから、それはまた元に戻る』
『…そんなの』
『決まってるのさ。お前の妹はこの世界に帰ってきたとしても、死ぬ。違う世界で回避しても無駄さ』
『そんなの···っ!!』
『メビウスの輪だ。実は全て繋がっている、世界はそんな理で出来ている。たかだか一人の、血も薄くなった魔女ごときが施した術でメビウスの輪を破れるわけない』
『············本当に、変わらないのか』
『あぁ』
ぎゅぅっと拳を握る北斗
信じたくないが、この男が言う事はきっと正解に近いのだろう
自分達と彼女が出した答えは、きっと不正解―·········
『妹がそんなに大事か?違う腹から生まれたのに』
『大事さ。宝だ』
『なら宝を守るため覚悟はどれほどだ?』
キリッとした眉を上げて、北斗は10センチは上の相手を睨み付けて言った
その言葉に男は目を丸くした
そして大声で笑い飛ばすと、また油圧式回転イスに座り北斗を下から見上げた
『それは惚れた女に吐く台詞だぞ。人生を掛ける、なんてな。良いだろう。人生をかけると言ったお前に手を貸してやる』
男は指を二本立てた
『まぁいくつか条件つきだが』
『助けてくれるのか…?』
『阿呆言え。お前のために助けるんじゃない。俺たちの世界をこれ以上乱して欲しくないだけだ。条件をのめるなら、力を貸してやる』
『…分かった』
――――――――――――――
「…そんな」
「うそなんかついてない。それが真実。元の世界へ帰れば凪が死ぬ運命は変えられない」
ハァと溜め息をついて宙を見上げる
「凪は、ここで運命を変えても。あっちに帰ってしまったらまた元の運命に戻る」
「だとしたら俺が帰そうと躍起になっていたのは···間違い···?」
「だから、俺は──────あいつが帰れる手段を絶っている」
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