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凪は息を潜めていた
鍵が掛けられた筈だが、先程扉から銃声がしたあと錠が落ちた音がしたからだった
慶次であれば鍵を持っているのだから、そんな強行手段に出なくとも良いと思った
直ぐに隠し通路に逃げても良かったのだが、恐怖でそれどころでなかったのだった
「………」
それでも、動かなければ
凪は隠し通路に入ろうとした
しかしそれと同時に、閉じられていた扉が開いた
ハッ、として振り替えれば…
「 」
ヒュ、と息の音がした
目の前に立っている男に対して身体が固まる
ライフルを持ち、外套の裾を揺らしながらそいつは凪に歩み寄った
「…何故お前はこんな所にいる。ここは戦場だ。さっさと此所から出るぞ」
男は、凪の手を引いた
グイッと引っ張られたので身体が前のめりになるけれど、倒れることはなかった
「 ま って 何で、何でここに兄さんが!」
北斗は立ち止まらずに凪に言葉を投げた
「それは匡あたりから聞かなかったか?まぁいい。それよりもうすぐここにも火の手が上がる。速く歩け。豊臣の本陣まで行かなければなんだからな」
「…っ、い…や!!」
グッと掴まれた手を振りほどこうとするが、叶う筈も無くどんどん前に進む
匡二から何故この世界に来たかの理由は聞いているから知っている
だけど、だけど、…貴方は私を嫌っていたじゃない
そんな貴方が、兄さんが何でこの世界にいるの?
そして何故、何故――――――
何故、豊臣の本陣に連れて行かれるの?
「いや、いや!私は、私は!!前田の皆とっ」
パシン!
頬に衝撃が走った
はたかれた
誰に?…目の前の兄に
「逃走したとして、次の戦では命は無いぞ。そうしたら、…無駄になる。それだけはさせるか」
グイッと、さらに強い力で引っ張られた
建物の二階に上がり、二つの建物を結ぶ渡り廊下に差し掛かろうとした時、凪の瞳に余り見たくない光景がみえてしまった
■■■■■■■
火の手が行く先の建物から上がった
慶次は振り返った
「な…」
利家たちがいる建物から火の手が上がっていた
待ってるからと言った。待つと言ったのに何故火の手が上がったのか
慶次には分からなかった
だけど帰っている余裕は無い
前に進んだ。気になって仕方がないが、信じているからこそ前に進む
そんな時、後ろから殺気を感じた
振り返れば、そこには予想もして無かった人間が立っていた
全身に返り血だろうが、血をつけて
彼は立っていた
「し、成実…どうして…」
成実は慶次に近寄ると胸倉を掴んで詰め寄った
「凪は何処だ!此所か!?それとも、町か!?」
「…此所にいるよ。この建物の……奥に居る」
「っ、戦に女巻き込むなんてアホか!!」
「それは…」
「……いや、悪い。アイツの性格なら…そうだよな。居るよな。」
成実は慶次から手を放すと、一歩離れて慶次とほんの僅かに合間を取った
「この奥なんだな」
「うん」
成実は先を見据えた
この奥に、会いたかった奴がいると思うと、泣きそうで。でも嬉しくて、だけど心配で、少し怒りたくて
いろんな気持ちが混じり合っていた
「行くぜ」
「うん」
彼らは肩を並べて走り出した
凪の元へ―――――
――――――――――――
「火、ま…つさん…!!利家さんッ!慶次さんッッ!!」
燃え盛る、目の前の建物には彼らが居る筈だ
それなのに、燃えている…
「ちっ、思ったより火の回りがはやいな」
火の手はこの下の中庭にまで及んでいた
火の粉が飛ぶ
周りの様子を見ていた北斗の力が緩んだ
その瞬間凪は来た道を戻る為走り出した!!
「っ、」
階段の入り口に行き当たった時、入り口が崩れた
否、ただ崩れた訳じゃない。崩れる前に誰かが居た。そして多分意図的に…崩した
「あ、あぁああ…!!」
これでは逃げれない
後ろには兄が何も言わず立っていた
「あぁああ…!!」
言葉が過ぎった
いろんな人の言葉が
「足掻くなんて無駄な事を…。行くぞ」
「…っ」
嫌だ、嫌だ!
本陣に行くと言う事は自分達が恐れていた事なのに
「嫌、だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!っ………………!!」
ぎゅぅっと目を瞑って、頭の中に浮かんだ人の名前を叫んだ
「成実さ――――――――――――――――――んッ!」
いるわけ、ないのに
「凪ッ!!!!!!」
ハッとする
居る筈の無い、人の声がした
兄の手を振り払って廊下の端に身を寄せた。そして下を見た
成実が、いた
「な…るみさん……」
「凪ッ」
既に火が回っている中庭に成実が立っていた
「成…実さん」
「凪ッ」
「成実(ナルミ)?…あぁ」
北斗は下を覗いた
そして成実は姿を表した奴に目を見開いた
「な…!!黒衣の…!!グッ!!」
一瞬何が起きたか分からなかった
成実のお腹から、刃が生えていた
群青色の外套を羽織った青年が成実の背中から刃を刺していた
それをゆっくりと抜くと、成実は前に倒れた
「成実さぁあああんッ!!」
「成実ぇ――――――ッ!!」
慶次が奥の建物から出て来て、成実を貫いた男を攻撃し成実から遠ざけた
成実を抱き起こす
「成実、成実っ」
奥に進んだら凪がいる筈の部屋の扉が開いていた
鍵は無理矢理こじあけられた形跡があり、二人は二手に分かれて探す事にした
慶次は二階に上がったわけだが、一緒にこっちに来れば良かったと後悔した
成実が…
成実が、刺されるなんて
「成実さん、成実さんッ、成実さん―――――――――!!」
上で取り乱す凪
慶次は上を見た
そして隣りにいる男に目を見開いた
「ほ、くと…!?」
「成実さぁあああああんッ!!」
燃える庭先、熱風と、群青色の外套の男と、蒼色の羽織りが刺されたところから赤黒く染まって倒れたままの成実と、威嚇しながらもかつての友を見上げる慶次と、渡り廊下で取り乱す凪と、…表情を変えずにこちらを見る北斗
「成実、さぁん…!!」
誰もの息が止まった気がした
「成、実?」
慶次は、成実がお腹を押さえながらゆっくりと立ち上がるのを見た
そして槍を…、血でぬらつく手を拭ってそして力を出来るだけ込めて、自分を刺した男に婆娑羅技を食らわせた
「っ、ガッ…!ハァッハァッ……!!」
自分を刺した男を近くにあった木迄吹っ飛ばすと、成実はふらふらする足で立った
そして流れ出る血を押さえようとしないで彼は両手を広げた
「ッ、ハァッ、ハァッ…凪ッ…!!」
グッと朦朧とする瞳を精一杯開けて凪の姿を捕らえた
「降り、て、来い…!!受…け 止めて、やるから」
そんな事、出来ない
今成実は立って居るだけで精一杯だと思ったから
ふるふる、と首を横に振る
──────ダメ、受け止めれる訳が無い
それに……成実との喧嘩が気にかかって居た
…思いを受け入れられないのに、飛び込んで良いのか
北斗は成実を見ていて、意識はこちらには無い
だけど、だけど、このまま兄に連れて行かれてたくない
「凪…ッ!」
自分を呼ぶ声にハッとする
拒絶したのに、…彼は此所にいる
手負いになったのに、手を広げて“飛び降りろ、受け止めるから”と言う
「凪…ッ!!」
私は、私は―――――――――