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戦いは朝方一気に火が付いた
豊臣の斥候が夜明け頃、城に突撃したのである
動いたのは前田より豊臣の方が早かった
前田の各武将はそれぞれ刃を握り奮戦する
だが、斥候部隊は強かった
「なんだあの武将は!!」
「躱しが早すぎて斬る事ができん!!」
斥候部隊とは北斗の部隊だった
右翼に頼、左翼に秋が率いる小隊があり真ん中の北斗はその二部隊に守られながら本陣に向かっていた
「流石に殺さず進めはキツいかな?」
そんな事を呟いた北斗だが、内心そんな事思っていなかった
そう。あの子たちならば、やってくれると信じていた
「左翼、右翼共に前田の主だった武将を押さえてます」
「そうか。じゃ、今、利家殿とまつ殿のあたりはフリーな訳か。お前らは此所にいろ」
そう言って北斗は部隊を残し、一人砦の中を駆けた
―――――――――――――
「な…」
ほんの目と鼻の先で戦が始まっていた
それをみて成実は舌打ちをする
「遅かったか!!」
砦に行こうと馬の手綱を引いて走り出そうとするのを匡二は止めた
「どうするつもりで?」
「突っ込むに決まってんだろ!!」
ハァ、と溜め息をついた
取り敢えずこの後先考えない男を宥めなければいけない
「突っ込んで?その後は?」
「手当たり次第に探す」
「馬鹿だな」
馬鹿と言われ成実はムッとする
何故だ。探すにはそれしかないだろうに
「じゃあどうするってんだよ!!」
「闇雲に探すなと言いたいんだ。お前、前田と豊臣の見分けはつくか」
ニヤリと匡二は笑った
いきなり何を言って居るんだろう
今見分ける話なんかしている暇は無いのに。しかし匡二は笑いながらも真剣な瞳を成実に向けていた
「一応は」
「なら兵士を取っ捕まえて聞けば良いのさ。
“前田慶次は何処だ”
“前田慶次殿のツレの女は何処だ。慶次殿から守る様に言われたが見当たらない”
とかな。居場所を教えてくれるかもしれない。闇雲に探すよりはマシだろう」
それもそうだ
だが、乱戦状態のあの中で答えてくれる人間はいるだろうか
…いや、いないかもしれない
でも匡二が言う通り無駄に探す方に時間を裂くよりは良いと思った
「行くぞ」
「おうっ!!」
「凪、ここに隠れてろよ?」
慶次はそう言って凪を隠し部屋に入れた
そんな訳にはいかない!と思ったがどうやら鍵をされたようだった
「その部屋の奥に隠し通路がある。もし火が回ったりしたらそこから逃げてくれ」
じゃあ、と言って慶次は部屋の前から消えた
暗くは無いこの一室で凪は体育座りをして息をひそめる
「大丈夫、負けないよ、ね」
呟いた言葉は誰にも届く事は無い
外からは刃物の音、地鳴り、火薬匂いがしてきた。この部屋の外は戦場なのだと思いを改めさせられる
きっと、今この一瞬の間に人が死んで居ると…そう思った
―――――――――――――
ガキィン!
ガッ、キィン、キィン!!
刀と刀の弾ける音
怒声、怒号の行き交う砦の中は既に地獄と化していた
しかし死人はいない。血はあちこちついているし、怪我人もいる。だけれど死人はいなかった
「死神だ!死神の軍がいるぞ!!」
その一言に成実と匡二はハッとする
死神
それは、
「ちょ、!」
すでにこの時、成実の脳内には先程考えた作戦は消えていた
あの一言を聞いてしまったから
死神は、彼らにとって禁句に近かった
「凪―――――――――――――――――――――――!!」
「まちなさ……!?」
ガキィン!!
横から気配がして匡二は刀を鞘ごと腰から抜いた
それを受け止めると刀を、打って来た輩の足を足で薙払う
「ちっ、見失ったか…!!」
相手にしていた時間の合間に、成実は匡二の視界から消えていた
どちらに行ったかなんて、この状況下判断は出来ない
「ちぃっ…!!」
その身を翻して、彼は刀を抜いた
世話になった刀匠がくれた二本のうちの一本だった
そして、砦の奥へ
――――――――――――
「火を放て!!直に此所は落ちる!!退却だ!!」
予想外な戦略に前田軍は崩れ去り、ボロボロだった
唯一救いなのは死人が余り出て居ない事だった
此所で散っては部下に申し訳ないし、民に頭が上がらない
利家は退く事にしたのだ
引き際を彼は心得ていた。無闇に戦うより、一度退いて立て直すという事の大切さを分かっていた
隠し通路から怪我の度合いがひどい者を先に逃して、殿(シンガリ)に前田夫婦が残った
「待った利!!凪が」
自分でその部屋には隠し通路がある、そう伝えたがこうも早く退却するとは思わなかった
退却するなら、彼女も
「分かった。某らは暫く待つ。早く連れて来い」
ニッと利家は笑うと慶次を送り出した
そして、暫くして黒衣の死神が彼の目の前に立つ事になる
――――――――――――
「ハァ!!」
武器を操り敵を蹴散らす
相手に異変を感じつつも慶次は中庭を抜けて、凪の居る部屋に走る
凪が居るのは中庭を抜けた棟の一階にあった
まだこちらに敵兵は見当たらないが、来るのは時間の問題だった
廊下を曲がったり、戸を開けたりそれがやたらともどかしかった
早く、速く、はやく