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「慶次!?」
「何!?」
「今まで何処に行っていたのです!犬千代様の服はどこですか!?」
屋敷の門を潜ると、あの前田夫婦が戦闘服に身を包み慶次を出迎えた
慶次の後ろに隠れている凪は、出辛そうだった
「待った待った!まつねぇちゃん、利ッ!!」
「なんですか!!」
「俺のつれを紹介させてくれよ。旅のつれでさ」
慶次は自分の後ろにいた凪の手を引いて自分の前、利家とまつの間に凪を押し出した
「初めまして…凪と申します」
ペコリとお辞儀をした
その様子にまつは、あら礼儀正しいのですね。とニコリと笑ってくれた
そして慶次の方へ、くるり、と、身体を向けるとまつは慶次を連れて屋敷の中に消えて行った
残されたのは利家と凪
二人の間に無言が流れる
「…凪と申します」
取り敢えず、利家に再び挨拶をした
利家は笑い、慶次もすみにおけないなぁと言った
―――――――――――――
成実は馬を走らせていた
単騎で駆ける姿は、昔の物語に出てきそうな様だったが本人は必死で周りしか気付いていない
多少馬を休ませたりはしているが、成実自身余り寝ては居ない
だがその時間に当てるより速く、速く二人の元に着きたかった
前田に行く前に
今、成実は越後の春日城を数十キロ離れたところまで来て居た
かすかに冬の匂いがする。奥州とは違う匂いだ
北陸・東北の冬は、雪が沢山降る。地域によっては、身の丈を大幅に上回る程の雪が積もる。冬の期間は長い。といっても蝦夷よりは短いが、それでも冬は長い
雪に閉ざされた世界は、孤独に近いものを感じさせる
「お前は…」
「ん?」
と馬上にいた成実に掛かった声があった
周囲を見渡しても人は一人も居ない。ここは草原で街道からは外れて居るのだから当たり前だが
「何をしに来た。ここは越後、謙信様の土地だ!!お前は伊達の人間だろう!!」
ひゅ、と目の前に金髪の身体のラインがとても目立つ服を来た女が現われた
ギリギリ、胸の頂きが見えない服だ
これが普通の男なら、思わず喉を鳴らしてしまうだろうが、成実はそうはならなかった
「謙信…、あぁそうかお前かすがか。謙信の忍の」
「……」
「てゆうかよく俺が伊達の人間だって分かったな」
「雀に竹の紋印、それに槍をみれば誰かなんて分かる。何をしに来た!!」
「…別に、攻め入ろうとか考えているわけじゃない。人探ししててさ」
成実は馬の背から降りるとかすがに近付いた
「前田慶次を知らないか?」
「前田慶次…。そいつなら、謙信様に前田夫婦の元に行けと言われてここには居ない」
「…」
まずい、少し遅かったか
そう後悔しても時間と事態は動いて行く。ためらっている時間は成実には存在しなかった
「ありがとう。それが聴けたならこのまま能登まで走れる。」
成実は馬の背に乗り、そのまま駆け出した
「まて!」
かすがは成実を呼び止めた
だが成実は振り返らずに草原を駆け抜けた―···
――――――――――――――
「うーん、やっぱり能登は良いなぁ」
紫銀の髪の青年は、冷たい風に髪の先を揺らしながら旅館の窓先から身を乗り出して景色を堪能していた
「師団長は、能登に来た事がおありで?」
それを言ったのは彼の部下だった
北斗より若い青年は《頼》といった。髪を現代風に切り揃え、服さえ変えれば現代に行っても通用しそうな青年だった
秀吉達に浅井攻めは参加しないと告げた北斗は、能登に休暇をしに来て居た
あの戦場で多くの屍を築いた人間が彼だとは旅館の人間は誰も思うまい
「うちの別宅が昔能登にあってね。まぁ20年も前の話なんだが」
勿論現代での話だ
「お前も温泉行って来いよ。他の奴等も連れてさ」
この休暇は北斗の主だった部下も来ている。社員旅行みたいな感じで行こうぜー!と部下全員を無理やり豊臣軍から離れさせた力技に、頼はため息をはいた
許可は無理矢理取ってるとはいえあとが怖いなぁと
「はいはい。ほら、行って来い行って来い」
「えっ、行くとはいってないですよ!?」
「いってらー!」
北斗は頼を無理やり室内から追い出した
もう何度目か分からないため息をはいて頼は廊下にいた同僚何人かに声をかけ温泉へ行くことにした
そしてそんな部下達の声を北斗は静かに聞いていた
その内容に笑ってしまう。彼らは北斗に忠実な部下だが、弟や妹みたいな存在である。否、本当の妹には敵わないのだけれども
「…………」
北斗が率いる部隊、北斗達は“師団”と呼んでいるが、北斗以外は彼らは全てこちらの世界の人間である
部下である彼らと北斗の細かい話は時が来たら話す事にしよう
「…さて、行くかな」
部下たちの気配が無くなった事を確認し、彼は一人部屋を出る
ここの能登には休暇という名目で来て居るが、部下達には内緒の用事もあった
武具の調達である。調達といっても、鉄と鋼と鉛を買いに来たのだった
能登に懇意にしている業者が長期滞在していると聞き、これからの事を考えて調達に乗り出たのだ
同じ宿屋のある一室にたどり着いた北斗は、立ちはだかる襖をためらい無く右にスライドさせた
「卸、相変わらずな女の趣味だな」
襖を開けた先には、上半身裸の三人の女がいた。そして女達の真ん中には、男がいた
「お、来たな北斗。さぁ解散じゃ!」
卸は女達を部屋から追い出した
胡座をかいたままの卸は、ニコニコと笑っていた。そんな男の前に腰を降ろす
「よくワシの場所分かったなぁ!全国放浪しとるけぇ、難しいんよ?」
「よく言う。ここからこの間手紙寄越したくせに。場所が書いてあったぜ?」
「そりゃおめぇがワシの上客じゃけぇの!上客には親切なんぞ!!」
一応は特別扱いされて居るわけだと北斗は思った
目の前の卸は、猫毛の長く伸びた髪を後頭部で一括りしていた。以前は無かったが、左目を跨いで額から頬に掛けて縦に刃物の傷がある
が、気になる程のものではない
多分この笑顔のせいなのだろうが
「上客か、それは結構。本題に入らせてくれ」
北斗は懐から、何かを書いた半紙を取り出した
そこには、上から下までビッシリ文字で埋め尽くされていた
「…まぁた、ですか」
「同じ型のを欲しいからな。それに火薬もお前のところは扱っているだろう」
「扱っちょるけんどもな、こうも大量に注文されると在庫がなくなるんでさぁ」
頭をガシガシ掻く卸
確かにその量を見てみれば、そうなるのも仕方が無かった
並みの商人が用意できる量ではないのだ。それを彼は請求するのだ
「いいだろうが。金はいつも通りに支払うし、腕が鳴るとかプロは普通そういうだろうが」
「商人にも限界っちゅうもんがあるんです。まぁええでしょう。豊臣が戦を仕掛ければ、我々の仕事が儲かるし、何より北斗の請求ならな」
卸は、立ち上がると戸をあけて籠の中に入っていた鳥を三匹出した
「近畿、中国、東海。こっからいつもの村に届けさせる。それでよか?」
「問題ない」
「じゃ、契約書じゃ」
ひらりと半紙を北斗に差し出し、拇印を押させる
卸は三枚文を書き鳥達にそれぞれを与えた
「さぁ行け!」
鳥を空に放つ
空に舞う鳥たちはそれぞれ違う方角へと分散していった
鳥たちは、きっと自分の行くべきところに行くのだろう
「一月の間には手配が済むはずや。全部がついたら代金頂きまひょ」
「サンキュー」
「…異国語はやめぃと言った筈じゃが、北斗には通じんらしいのぅ」
「そういうお前こそ、各地方の方言入り乱れ止めろよ」
「できるわけなか!色んな地方に居ると、覚えて馴染んでしまうけぇの」
「人の事言えないんだから、口出しスンナ。じゃあな」
そう言うと北斗は部屋を出ようとした
浴衣の端が揺れる
襖に手をかけたとき、卸は北斗の背中に声をかけた
顔だけ彼の背中に向けて、振り向きもしない上客相手に語る
「お前さん、変わったの。いや、外見は数年前と一切かわっちょらん。全く変わりもしない。じゃが、中身は変わったのぅ」
それは、きっと仕方の無いことだと自分の中でそう思う
希望だと思っていたことは、結局絶望でしかなくて、それを変えられるようにするには、自分が変わるしかなかったのだから
あの頃はまっすぐだったのだから
「…、人は、変わるよ。卸」
だから、人はいつの時代も争いを望むのだから
「不変なんてないんだ。変わらなければ人は生きていけない。それが世界の理だ」
それが、人の理だ