腐れ縁
大声で叫んだかと思いきや、元来た道をダッシュして行ったティアの後ろ姿を呆然と見詰めるルック。
端から見れば、恋人同士の喧嘩に見えなくもないが…、なんせ相手があのルックとトランの英雄様だ。
見ろと言う方が難しい………。
ルック「……何なわけ?あの捨て台詞…。聞き捨てならないんだけどっ…」
漸く立ち直ったルックは、無表情のまま、石板の前から姿を消した――。
そして、ルックが辿り着いた先が――。
「え?ティアさんですか?」
ルック「そうだよ。見たか見てないか言え。早くしろ」
苛々しているのは一目瞭然だが…、年若い同盟軍リーダーは恐れない。
セツナ「…それが人にものを訊ねる態度ですか?何か…普通に腹立つんですけど」
ジロリと睨まれるが、ルックは気にしない。
ルック「ここには来てないのか?」
完全にスルーしたルックの台詞に、こめかみ辺りがピクピクと動く。
セツナ「…今日はまだ逢ってません。てか、スルーするのやめてくれませんか?普通に傷付くんですけど…」
ルック「そう。ここに来てない…か…」
セツナ「…またスルーですか?まあ、その無礼講は今に始まった事じゃないですけどね…。てか、ティアさんどうかしたんですか?」
ルック「君には関係ないよ。じゃあね」
セツナ「ちょっ…!!待ってっ…ルック!」
シュパッ…
さっさと姿を消したルック。
ルックの居なくなった直ぐ後に、姉が入って来た。そして、手を伸ばした状態で立ち尽くしている弟を見て目を丸くした。
「…セツナ?何??どうしたの?」
セツナ「あ…、ナナミ…。いや、何か僕にもよく分かんないんだけど…」
ナナミ「?」
セツナは今さっきの出来事を説明した。
それを黙って聞いていたナナミも、セツナ同様に首を傾げたのだった。
ルックは次に、酒場へと訪れると…。辺りをキョロキョロ見渡し、そして――。
ルック「――フリック、ビクトール」
カウンター席に座り、愉しそうに酒を呑み交わしていたフリックとビクトールに近付く。
熊「んあ?」
青「あ?…ルック??」
振り返る腐れ縁の二人。
ルックの姿を捉えると、不思議そうに目を見開く。
熊「どうしたよ?オメェがここに来るなんて珍しいんじゃねぇの?」
ニヤニヤ笑うビクトール。
ルック「…来たくて来た訳じゃない。仕方ないんだよ」
フリック「は?どういう意味だ??」
訳が分からないと、目が語るフリックに、ルックは深く溜め息を吐く。
ルック「…ティア。ここに来た?」
青・熊「「ティア??」」
ビクトールとフリックは、声を揃えて聞き返す。
その反応に、ルックは腕を組んだ体勢で二人を見下ろす。
ルック「…来てないみたいだね」
フリック「ああ。来てないが…。ティアがどうかしたのか?」
ルック「何でもない。邪魔したね」
熊「ちょっ…!待てっ!」
グイッ!
ルック「――ッ!」
フリック「ちゃんと説明してけよっ!ティアに何か遇ったのか?」
直ぐに移転魔法をしようとしたルックの腕を掴み、引き止めた。
ルックは一瞬、驚いたが直ぐにいつもの冷眼で自分の腕を掴む青い青年を睨む。
ルック「――離してくれる?」
青「え…?」
ルック「腕だよ。腕」
ルックの冷眼がフリックを見詰める。普通の人間ならその視線に怯むのだが、そこは付き合いの長い奴は平然としているものだ。
青「……。離すのは無理だ。お前がちゃんと説明しないならこのままだぞ?良いのか??」
ルック「…………」
ルックは暫し沈黙し、ややあって重い口を開いた。
ルック「……ティアが泣きながら走って行った」
青「……は?」
熊「何だって?」
思わず聞き返した。
ルック「だから、泣きながら走り去ったんだって」
熊「……理由は聞かねぇ」
青「…聞きたくない。なんか詳しくは聞きたくないからな……」
苦虫を大量に噛み潰した顔でカウンター席に座り直した青と熊に、ルックは居なくなる処か、寧ろ空いている席に座る。