普段通りだから
ティア「るっ…く!!離せっ!!でないとっ……!!」
そう叫んだティアの声は、徐々に悲痛さを含んでいた。
ルック「…“でないと”何?君はこうやって拒むんだ…」
ティア「…っ!?る、く…?」
ルック「…誰かが君に手を差し伸べても…君は拒み続ける。君の左手は誰かの手を受け入れ、君の右手は誰かの手を拒み…。君の意志とは関係なく君の体は右手を固く閉ざしてしまっている。」
ここまで言うと、ルックは一旦口を閉ざした。
ティア「……る……く…。僕は…」
小さな声で、必死に何かを言おうとしているティアを、ルックは静かな瞳で見守っていた。
ティア「……誰、か、が……僕に希望を見たのなら……それは……僕にとっては……」
ティアは一度、口を閉ざし、俯いてしまった。
しかし、ティアは俯きながらも…とても小さな声で、その胸にしまっていた禁断の言葉を言った。
“…辛い…”
「「「…!?」」」
この言葉に…その場に居た、フリック、ビクトール、シーナ、アップル……は、かの英雄の幼すぎる背中を、そっと見詰めた。今は…それしか自分達にはできないと言わんばかりの行為だった。
そんな中でも、たった一人だけ、普段と何ら変わらない表情で――、しかし…、慈しみに満ちた瞳が見据える。
ルック「君が…。君に託してきた奴らの思いも期待も希望も…君にとっては耐え難い位の苦痛さだった。それでも人は……君に光りを見た。」
ティア「……っルック…それが……それが僕には……辛いんだ……」
幼き英雄の肩が、小さく揺れていた。
ルック「……なら……何で君は又…戦場に舞い戻って来たッ!?君が“ 辛い ”って言っている人々の希望や期待…それらを又君は一人で受けなきゃいけない!! なのに……何故君は……っ」
ティア「…ルック……」
今まで表情を変える事も声音を変える事すらしなかったルックが、ここで初めて声を荒げた。…その表情もどこか…苦痛さに歪んでいた。
ティア「……ルックは……優しいね……。」
ルック「…はあ?君…言葉が理解出来てるのかい?今はそんな事はどうでも良いんだよっ。僕が言ってるのは…っ」
ティア「……知ってる…。ちゃんと……知ってるから……。それに…言葉だって理解出来てるから…。」
「 相変わらず、ルックは厳しいな 」 そう言ったティアは、さっきまで辛そうにしていた顔ではなかった。何時の間にかティアの顔には明るくいつもと同じあの笑顔さえ浮かんでいた。