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指輪

薄暗い部屋に淡い光が灯ると、次にはそこにルックの姿が現れた――…。

ルックは感情の読み取れない無を全面に押し出したかの様な表情で、立ち尽くしていた。


ルック「…天魁星……」


ポツリと呟いた単語。
さっきセツナが話題に出してきた言葉を思い返した。

あの話題を出してきたのは、きっとルックがじっと石板を見詰めていたのが気になって仕方がなかったのだろう――。そして、誰かにそれを話し、その相手は天魁星と英雄の事を曖昧に口にした。
しかし、知りたかった事は解決出来ず、疑問ばかりが増えてしまった。といったところだろうか…。

何も知らない人間にとっては、気になる事なんだろう…と、ルックは思った。

だからこそ、口を吐いて出てしまった――…。


ルック「…話す気なんか‥、ある訳無いじゃん…。馬鹿だね……」



漸くその場から移動すると、一直線にベッドへ向かった。

ギシッ…と、軋むベッドに浅く腰掛け、瞳を閉じた――。



――…キミの話をする勇気が‥、無いなんて‥。僕はこんなにも弱かっただろうか――…?



*******

明くる日の事――。
セツナは朝から人探しに町中を走り回っていた。

不思議な事に、彼等は早朝にも関わらず、部屋にも宿屋の食堂にも姿が無かった。
仕方が無く、セツナは朝食も摂らずに宿を出た。しかし、何処を探しても目当の人達は見付からない。
その事に、殆々困り果てていた。


何故あんなに目立っている筈の彼等が、こうも見付けられないのかが些か疑問だが…。しかし、今はそんな愚痴を溢していられない。
速く彼等を見付け、そして自分が知りたい情報を得たい、その一心だった。



セツナ「…たくっ!どこに行ったんだよぉ!!朝から走り回ってんのに、見付かんないとかあり得ないしっ…」


愚痴らない様にと思ってはいても、どうしても不満は口から滑り出してしまう。
それもまた仕方がないと、自分自身に言い訳して、辺りを見渡してみた。


セツナ「…宿屋、武器屋、道具屋…あとは…」



立ち寄った場所を指折り数えながら、ふと、まだ見に行っていない場所を思い出した。が、まさかこんな明るい時間帯に開店していないだろうとは思いつつ、一応念の為…――と、セツナは彼等の行きそうな所へと向かってみた。


そんなに広くはない土地だと、あっという間に目的地に到着する訳で…。

セツナは店前に立ち尽くすと、まさかの暖簾が掛かってる入口を呆然と見詰めた。


セツナ「…朝から…ここ?まさかねぇ…」


そう呟きながら暖簾を潜った。
ゆっくりと注意深く店内を見渡すと、朝というのに店内には疎らながらも人が酒を呑み交わしていた。すると、店の奥の方によく見知った人が座ってるのが視認出来た。


セツナは店内というのも忘れ、彼等に向かって声を張り上げた。


セツナ「フリック!オイッ!!熊っ!!!」


「「ぶーーーっ!!!」」


それに勢いよく吹き出し、そして慌てて振り返った二人だが、相手がセツナだと認識すると、小さく胸を撫で下ろした。
そんな二人に駆け寄るが、フリック達二人以外の視線もセツナに注目した。



熊「誰が熊だっ!!!!」


セツナ「判りきった事を訊かないで下さいよ」


熊「………お前本当、良い性格になったな…」


ボヤく熊ことビクトールの目は、諦めの色が色濃く滲み、そしてそれと同時に小さくボヤいた。

そんなビクトールを綺麗にスルーするのが、彼の相棒の青いお兄さんのフリックだ。


フリック「セツナ、どうした?」


フリックは、とても爽やかに笑って魅せた。

セツナは空いてる席に腰を卸し、店の店員にオレンジジュースを注文した。


熊「んで、どーしたんだ?」


復活したのかどうかは置いといて…。
ビクトールが話の催促をする。
しかし、セツナの視線の先はビクトールとフリックのアルコール臭漂う大ジョッキの方。
それを見やりながら眉間にシワを寄せ…



セツナ「…二人は朝から酒ですか?」


ジト目で見据えると、二人は冷や汗を掻きながら苦笑い。


熊「…ぃ、いやぁ;;今日位はゆっくりしようと思ってよぉ!!;;」


フリック「お前も疲れてるだろ?たまにはお前も休めよ!な?;;」


大の大人が必死になる姿に、周りは首を傾げる。しかし、そんな彼等には全く気付かずに何時も通りなやり取りを軽く交わした。
そして、あからさまに溜め息を吐いた。


セツナ「…はぁ。仕方無いですねー…」


フリック「…ははっ;と…、ところで、どうしたんだ?何か用があったんだろ?」


これ以上、この話題は避けるべきと判断したフリックは、何とか切り替える。
セツナは、『あぁ、そういえば…』と、本来の目的を思い出した。

そして一気に真剣な表情になると、それまでおどけていたフリックもビクトールも姿勢を正した。


セツナ「…どうしても知りたい事があるんです。これは、二人にしか判らない事だと思うんですが…。」


そう切り出したセツナに、フリックとビクトールは互いに顔を見合わせた。
それを見て、セツナは言葉を濁さずハッキリと話す事にした。

――きっと、この二人なら答えてくれる…。

そう確信したからこそ、核心を突く質問を無い頭で必死に考え、言葉を紡ぐ。



セツナ「…昨日、言ってましたよね?天魁星とかの英雄の事。その人って、トラン共和国の英雄ですよね?」


確かめる様に始まったセツナの言葉に、フリックは頷き、ビクトールは呑みかけのビールを一気に呑み干した。



フリック「それがどうかしたのか?」


セツナ「じゃあ…、フリック達はその人の事をよく知ってるんですよね…?」


フリック「あぁ、知ってるさ。なんせ、俺達は元解放軍だからな」


熊「奴の事は解放軍のメンバーだった奴等はよく知ってるに決まってんだろ!!」


がははっ!と煩く笑う熊はどこか懐かしんでいる風にも見えた…。
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