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指輪

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「…何してんの?」


セツナ「――えっ?」


突然後ろから声を掛けられ、セツナは慌てて振り返る。そこには今朝まで話題に上がっていた当の本人が立っていた。


セツナ「…ルックっ?!え、と…」


いきなりのルックの登場に、流石のセツナでも挙動不審になり、言葉を詰まらせる。

しかし、セツナとは対照的に、ルックは落ち着きの色を魅せ静かにセツナを見詰めた。


ルック「眠れないの?」


セツナ「……ん、まぁ…そんなとこ…」



ルックの問いに、セツナはそう切り返した。
実際の所、間違いではない。
今朝のやり取りが頭から離れず、ずっとそればかりを考えていて、眠れなくなってしまったのだ。


ルック「………」


セツナ「……っ、…あ、僕…そろそろ部屋に戻ります;」


沈黙し、ルックの翡翠の眸が自分を見詰めている。それが何だか総てを見透かされている様な気分になり、居たたまれなさから、セツナは慌てて立ち上がり、少しだけ…ほんの数歩離れた。

そんなセツナを静観していた翡翠の眸が逸らされ、別な箇所に移動した。

そして、今さっきまでセツナが腰かけていた場所に腰を卸した。


ルック「…僕も眠れないだけ。そしたら偶々、君が居たってだけ」


淡々と告げられ、それを律儀にも耳が拾ってしまい、セツナはその場から移動するタイミングを逃してしまった。

ルックに対し、訊きたい事は山程有るのだが、それを素直にこの男は話してくれるだろうか――?

――否…。きっと彼は、その話題には答えないだろう――。

そう確信めいた考えを張り巡らせた矢先、風が柔らかく吹いた。
ふと、風が吹いた瞬間、さっきまで自分が座っていた場所に座る彼を見てしまった。
ルックの髪が風で緩かに靡き、夜空に美しい線を描くその瞬間を…。



セツナ(……絵になるって…こういう事を云うんだろうな…)


頭の中でボンヤリと思っていると、不意にルックと目が合う――




ルック「…何時まで突っ立ってんの?兎に角、座れば?」



セツナ「えっ?!あっ、そう…ですねっ」


ルックの指摘に妙に声が上擦り、それでも何とか返事を返しながらも、ルックの隣に腰を卸してしまった…。


ルック「…………」


セツナ「……;」


ルックの視線や沈黙に耐えられなくて部屋に戻ろうとしていた筈が、ルックに促されるがままに、思わず座ってしまった失態。

案の定、その後には沈黙が訪れた。
正直、この沈黙はセツナには気不味く、どうしたものかと変な汗を掻きながら思考を張り巡らせていた。

そんなセツナをどう思ったのか、彼の眸からは何も読み取れなかったが、彼がその口を開くと…


ルック「…なに?」


不機嫌とは違う、ただ静かな声が掛けられる。


セツナ「うぇっ!?あぁ~、いやぁ…そのォ……;;」


ハッキリと答えない、何を云おうとしているのか、何なのか…。
意味の無いものばかり吐きながら視線を彷徨わせていると、ルックは今度は溜め息を吐いた。


そんなルックの態度に、セツナは静かに息を吸い、吐き出すと…


セツナ「…天魁星。それに何かあるんですか?」


意を決して、セツナはそう切り出した。
その単語を耳にした途端、ルックの肩が一瞬だけ揺らいだ。
それを見逃さなかったセツナは、これには何かあると踏んだ。そして、それを更に問い詰める事にした。


セツナ「――今日、ずっと見てたよね?石板の文字…天魁星を。それに、シーナ達が天魁星はかの英雄の宿星でもあったって言ってたから…。」


ルック「………。別に、何でもない」


少しの間を置き、ルックは短く答えると、直ぐに立ち上がった。
この後、彼が何をしようとしているのかは直ぐに判った。
彼…ルックは移転魔法を唱えるつもりだ。


セツナ「――あっ!!ちょっ…、ちょっと!ルック…ッ!!」


慌てて止めようとしたが、既に遅く、そこにはルックの姿は無かった。


セツナ「……なんだよぉっ…!天魁星と英雄がルックにどう関係してんだよぉ!!」



闇夜に空しく響く、セツナの声は直ぐに溶けて消えた――。


後に残されてしまったセツナの頭には、何の解決も出来なかった疑問ばかりが残ってしまったのだった。
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