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想いを風に託す


ティア「‥ぁ、るっ…く??」


ルック「――君が悪い」


ティア「……は?」




ゆっくりと降りて来るルックの綺麗な顔。
思わず見惚れてしまっている僕の唇に、柔かな何かの感触がして…。

それがルックの唇で、今自分はルックにキスされているのだと気付くのには、そう遅くはなかった――…。

触れるだけのキスで、数ミリの距離に離れただけのルックが不機嫌に云う。


ルック「……目くらい閉じなよ」


ティア「ぅえっ?!なっ、なっ!!!」


我ながら鈍い反応だと思った。
しかし、信じられなかった。まさか、ルックからキスされるとは夢にも思わなくて……。

絶対こうはならないだろうと決め付けていただけに、ルックに実際にキスされて、気恥ずかしくなり、ジタバタと暴れた。

そんな僕に一瞬、面喰らったルックも、直ぐに小さく笑んだ。


ルック「…期待、してたんだろ?」


ティア「ルックッ!!僕はっ…!」


『期待してた』その言葉に又からかわれたと思って、ルックを睨んだ。


けれど、そんな反応もきっとルックは愉しんでいるに違いなかった。

腹が立つのと、馬鹿にされたという悔しさで又泣きたくなって。僕はどうにかなってしまいそうだった……。


ルック「……して欲しかったんだろ?」


不敵に笑むルックに、僕はこれ以上、自分の想いをからかわれたくなくて、沈黙した。

小さな反抗として、無言を貫くと決めた僕に、ルックは一瞬だけ…、ほんの瞬きをしたら気付かない程の一瞬だけに、複雑な表情を垣間見せた。


ティア「……?」


けれど、その一瞬に気付いてしまった僕は、ルックを見上げた。


そんな僕を見下ろして、ルックは額を僕の額にくっつけた……。

ルックのされるがままに、僕は動きを止めた。


するとそれを見計らってルックは僕に云う。

とても優しい声で――


ルック「――君が好きだよ…」


ティア「…!る、っく…」


何を云われたのか、一瞬判らなかった。
理解出来た時、嬉しいよりも不安の方が大きくて、素直に喜べなかった……。


僕は又…、ルックにからかわれているのか――…と。

それを察したルックは、捕捉した。


ルック「…本気だから。さっきの君の反応を見て、決心した」


何を?と問おうとした僕の唇は再度、ルックの唇に塞がられてしまった。


ティア「んんっ!…っ…」


ゆっくりと離された唇に軽いキスが数回繰り返されて、漸く話の続きに入ってくれた。


ルック「君が風に僕の名を呼んだから…。この場所も、君と二人で居たかったから連れて来た」


ティア「……気晴らし…じゃなかったの…?」


ルック「それもある。けど、一番は君が僕の服を掴んで引き留めたりするから…。もしかしたら期待しても良いかもって思ったんだよ」

ティア「期待って……。えっと……;だって、ルックは…僕の事はただからかってただけじゃ…」


ルック「あんなもん嘘に決まってるだろ。本音を云えば、さっきのキスに君が応えてくれそうになって、これは両想いかもって確信したんだけど……」


そこまで云って、一旦口を閉ざす。


ティア「けど?…ルック?」

続きを促せば、ルックが苦々しそうに顔を顰めた。


ルック「…成り行き…、だったら嫌だって思ったんだよ…」


眉間に深い皺を寄せたルックが僕を見下ろす…。

思わず息を飲んだ。
そして――、


ティア「――もう一度…。御願い…。もう一度だけ言って……」


ルック「…?だから、成り行きでそうなったって嫌なだけなんだよ」


ティア「っ、ホントにっ?ホントに…ルックは僕の事を…?」


緊張で声が震える。
ルックはじっと僕を見詰め、そして僕の頬に掌を添えて穏やかに笑った――…。

ルック「ああ。本当だよ。僕は君の事が好きだ」


ティア「ルック…!うれしっ…僕っ」


途端に溢れ流れた泪――。
ちゃんと紡げなかった返事が、残念だったけれど、僕の両頬に添えられたルックの掌の温もりが愛しくて、僕は歓喜に震えた。


ルック「…ティア――君を愛してる。一生、僕の傍に居て欲しい…」


ティア「っ…!んっ……僕も…ルックがっ……好き…っ!傍に居たいっ!居させて…ずっと傍にっ…」


ルック「ああ…。ずっと永遠に僕の隣は君の場所だよ。愛してる――ティア」


ティア「んっ…」


重ねられた唇から、ルックの吐息と温もりを感じた。
それが何とも心地好くて、瞳を閉じた僕の目尻から一筋の泪が溢れ落ちた――。



このまま何もかも止まってしまえばいい――…。

思って、新たな泪が又溢れ落ちた。


ルックの唇が離れた。
それでも僕とルックの距離は鼻と鼻がくっつくかくっつかないかの距離感――。


ルック「――僕は君のモノ。君は僕だけのモノ…。例え離れてしまう事になっても、この風が僕だから。それを感じて――」



“ ずっと君の傍に居る ”


そう告げたのは………

優しい君の風だった――。








――end。
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