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想いを風に託す

すると、目の前の風使いは、フイッと僕から視線を外した。


ズキッ‥!


ティア「っ…、」


途端に胸が締め付けられ、痛む…。

しかし、次には冷たい声が投げ掛けられた。


ルック「君には程々呆れるね…」


ティア「…っ!ごめ‥、ん…」


伏せ目がちに謝る。
僕は睫毛を震わせ、彼の次の言葉を待った…。


しかし、ルックに視線を反らされ、態度ではなく言葉で呆れたと云われると…、僕の心臓はまるで鷲掴みにされたかの様に激しい衝撃が走った…。


――もう一度、その瞳に僕を映して欲しい…。


その欲求が沸き上がり、僕は気管が狭まり息苦しさを味わった。


ルック「…君は嘘が下手な癖に嘘を吐くばかりだ――…ほら、行くよ」


ティア「…ぇ、何処にっ?」


嘘つき呼ばわりされたと思えば、今度は行くよと言われ……。

何が何だか判らない展開に慌てて聞き返せば、ルックが疲れた顔で落胆した。


ルック「…帰るんだよ」


そう云い終えると、今度は転移魔法を唱え始めた。
その急な展開に、僕は慌てて制止した。


ティア「――っ!ま、待ってっ!!」


ガシッ!!


咄嗟に掴んだ彼の法衣。 突然の僕の行動に吃驚した彼が僕を凝視する。


ルック「――?!…ティア。今度は何っ?」


若干、苛ついた様な声色に、一瞬僕は、柄にもなく震えた…。


ティア「…あっ、あの…。ルックだけ…先に帰ってて。僕は‥もう少し、ゆっくりしていきたいからっ…」


ルック「…………」


翡翠の瞳が僕を窺う…。

僕は泣きたい気持ちを抑え、不自然に吃りながら伝え、笑顔を見せた。
すると、無言で僕を見ていたルックは、小さな溜め息と同時に瞳を伏せた。


ルック「…なら僕も残るよ」

ティア「‥え?」


見ればいつもの不機嫌な表情の彼。伏せられていた瞳が、静かに僕に向けられた。


ティア「‥でも…」


ルック「…君だけじゃ帰る時困るだろ?」


ティア「…………」


確かに困る…。
困るが、それ以前に焦った。
今は少しでも彼と離れたいと云う本音があって。


ルック「…それとも何。僕が一緒に残ると、何か都合でも悪いの?」


ティア「そっ、んな…事……」


ない――とは言い切れないその現状に、僕は最後まで云えなかった…。


ルック「無いなら別に良いだろ」


有無を云わさぬ彼の態度に圧倒され、頷くしかなかった――…。


*******


小鳥の囀ずり、木々のざわめき。
ほんのり暖かな陽射しに照らされながら、隣に座る無愛想な風使いを盗み見て、彼には気付かれぬ様に小さく溜め息を吐いた。


ルック「…何?文句あるわけ?」


ティア「――っ!?」



ビクンッ!――と、肩が上がった。
気付かれない様にしたのに、ルックには何故かバレて……。
心臓が止まるかと思った。


ティア「…ちがっ!…文句なんかないよ…」


バクバクと慌ただしく鳴る鼓動を抑えつつ、否定した。


ルック「…………」


しかし、ルックからの反応はない――。


ティア(…ルック…。僕の態度で誤解…しちゃったよねっ…)



後悔に下唇を噛んで、俯き加減になった。
その時不意に、頬に触れる冷たい感触を感じた。


ティア「――!えっ…、な、な、なにっ!?」


驚きに声を上げ、俯きかけていた顔を上げると、ルックの端麗な顔が近くにあった。

あの冷たい感触がルックの指先だと判ると、頭が混乱した……。

ルックの細くて綺麗な指先が僕の頬にっ――そう思うと羞恥心で頬が一気に熱を持ち始めた。


ティア「……っ///」


声を出そうにも、上手く言葉が紡げない…。

このルックの奇怪な行動に、ただ胸を高鳴らせながら躰を固く硬直させていた。
ルックのその翡翠色の瞳から、目が反らせなかった。

そうこうしている内に、愛しい魔導師の容姿端麗な顔が急接近して来て……。


ティア「――っ…、る、るっ…くっ///」


――ドクンッ‥ドクンッ…


鼓動が煩く鳴る――。
彼との距離が、鼻と鼻がくっつきそうな処まで来ている。
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