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想いを風に託す

ルック「……でも、僕はもう用が無くなったから行くよ」


言うが早いか、ルックは早々に立ち去ろうとしていた。


ティア「…ぁ‥、…」


途端に溢れた、小さな声に反応したルックは足を止め、僕の顔を窺った。


ルック「…何?」


短い彼の言葉に、僕は……。


ティア「…何でも…、ないよ」


――上手く笑えただろうか…?不自然過ぎやしなかっただろうか?


不安に思いつつ、顔には出さない様努めたつもりだった。

けれど、無駄に馬鹿みたいに笑って誤魔化しても、心を読まれている様に錯覚させる彼の翡翠色の瞳が僕を掻き乱す…。

だから僕は耐え切れなくなって、その視線から逃れたくて、その場を立ち去ろうと踵を返した。

すると、不意に僕の二の腕を掴む暖かい感触を感じたと同時に、視界が一気にボヤけ、一変した。



既にそこには、ルックとティアの2人の姿はなかった――。



********


漸く開けた視界には、緑豊かな景色が目一杯に広がっていた。そして、自分が広大な大地に立ち尽くしている事を知る。


ティア「――えっ…?えっ?ぁ、れっ…?」


訳も判らず、只頭にハテナマークを無数に浮かべつつ、目の前に広がるその景色を凝視した。



ティア「…ここ‥」


ルック「何て事も無い、至極普通の野原」


呟いた言葉に、隣から冷めた返答が返ってきた。

驚きルックを見れば、その翡翠の瞳は無感動の色をしていて、ソレが今は何処とは云えない場所を観ていた。

その視線の先が気になって追って観て見ても、ソレが何処を向いているのか判らず、仕方無しにルックの元へと視線を戻す。


ティア(…何の為に此所に連れて来てくれたんだろう……)


疑問に思って、ルックの顔を見詰め続けていれば、彼の瞳が漸く僕へと向く。


ルック「…気晴らしだよ」


ティア「…気晴らし?ならどうして僕もなの?ルック一人で良かったんじゃないの?」


質問ばかりを繰り返す僕に、ルックは御決まりの溜め息をあからさまに吐き出した…。


ルック「…君があの時、僕を引き留めたんだろ。まだ一緒に居て欲しかったんじゃないのか?」


ティア「そ…、れはっ…」


答え兼ねてる僕に、ルックは察したのか、僕の答えを訊かずにいてくれた。


ルック「……。まあ、良いや…。僕が勝手にアンタにも気晴らしが必要だと思っただけだから」


ティア「……………」


その優しさも気遣いすら感じられない彼の言動は、本当に自然体で、どこか安堵さえした。
そんな彼に、僕は心の底から感謝した。


ティア「……でも、何で此所なの?」


ルック「何?」


ティア「いや、ただ…さ。ルックならもっと別な場所に行きそうだな…って思って…」


ルック「別な場所って?例えば何処さ」


ティア「うーん…。森林?」

ルック「何でだよ。そして何故、森林?」


呆れた様にツッコむルックに、僕は苦笑した。


ティア「何と無く…かな?」

ルック「…どうせ、紋章だろ」


投げ遣りに返してから、僕から離れた。それを目で追った。すると――


ルック「今度は何?」


眉間に皺を寄せ、不機嫌な彼と視線がかち合った。


ティア「…うぅん‥。何でもないっ!」


慌てて首を振り、ルックから目を反らす…。


「………」


ティア(……淋しいって思っちゃった…)


今の顔を見られたくなくて、背けたついでにルックに背を向けた。


そんな時、ふわりと風が吹き上げた。


僕の髪や衣服が風に遊ばれる…。

ルックの茶髪も揺れただろう。背を向けた僕からはそれを認識する事が出来なかった。

しかし、あの瞳がじっと此方を見据えているのは気配で判った…。



ルック「…嘘つき‥」


ティア「……えっ…?」


掛けられた科白に、僕は驚き勢い良く振り返った。

僕より2つ年下の彼を見据えると、ルックは深く溜め息を吐いた。
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