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想いを風に託す

闇夜の空に浮かぶ月が湖城を淡く照す。

そんな月には見向きもせず、暗がりの水面をぼんやりと眺めていた。

閉じた窓硝子には、疲れきった自分の姿が写し出されていた。



ここのところ、厭な出来事が立て続けにおき、泣く暇も休む事もなくそれに専念せざる終えなかった。


******



ガヤガヤと意見を交換しあって、騒がしく走り回る衛兵達。
そんな中に一際目立つ容姿端麗な彼、その人が居た。



ティア「…、ルック…」



誰にも聴こえない程度に名を呼ぶ。



すると、彼、ルックが此方を見た。


ティア「――っ!…ぁ、…」


翡翠の瞳に射ぬかれ、胸が高鳴る。


ルック「………」


ただじっと此方を見据える彼に、僕は頬が火照るのを感じた。

するとルックは、僕の居る方向へと歩き出した。
それをただ見詰めていた僕は、歓喜に震えそうになる足を静めるのに必死だった。
それでも彼が、僕の声に気付いてくれて、此方に真っ直ぐ来てくれる――それが何よりも嬉しかった。


ルック「…何?呼んだだろ?」


仏頂面で問う彼に、思わず笑みが溢れた。


ティア「…聴こえ‥、て‥たの?」


不自然なまでに途切れた言葉にも嫌悪すらしないで、彼はいつもの出で立ちで溜め息を一つ吐いた。


ティア「…あんなに離れてたのに?」


ルック「聴こえた」


ティア「…態々‥、来てくれたんだ…?」


そう訊ねた途端、ルックの呆れた声が僕に返って来た。


ルック「…要するに‥。用も無いにも関わらず呼んだわけ?」



眉間に濃い皺を刻み、彼は溜め息混じりに言った。


ティア「………用が…無ければ呼んでは駄目?ただ…、何と無くって理由じゃあ駄目かな…?」


訊かずとも判りきっているが、そう訊ねずにはいられなかった。

そうしなければならなかった理由なんかちっぽけな物で。

云ってしまえば、呆れと馬鹿だろ…という視線しか送られて来ないのは承知の上で。だから余計にその理由は伏せて置きたかった。


ルック「……別に。ただ、そうしたら僕の体力が削られるだけだし…」


ティア「……じゃあ、僕の方から行っても良い?」


ルック「?勝手にすれば良いだろ。何で態々そんな事を訊くのさ?」

不思議そうに聞き返すルックに、僕は本音の一部を隠しつつ答える。


ティア「用も無くルックの所に行っても良いの?って云う意味だったんだけど……」


ルック「好きにしたら?僕は煩くしなければ別に気にしないし」


ティア「……うん。ありがとう…」


答えはぶっきらぼうだけれど、不器用な彼なりの優しさの込められているその返答に気付いている僕は、更に胸をときめかせた。

嬉しさと愛しさを噛み締めて、俯く…。
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