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小さなニースの物語

シュリンガー公国。

ハワードという大富豪が建てた豪邸のすぐそばに、ニースの両親が経営する店があった。

その店の前にニースとトロワは突っ立っていた。

「どうしたの?早く入ろう?この大きいお魚を見たらみんなビックリするよ♪」

ニースはトロワが驚くほど精神的なダメージは無いように見えた。

あんなに怖い思いをした後は、その体験がトラウマとなり精神的なケアに時間がかかる事が多い。

気持ちが強いのか、単純にノー天気な性格なのか。

それとも、必死になってそう見せてるだけなのか。

どちらにせよ、ニースは無邪気に「早く自慢しよう」と言うが、その両親は『別の事実』を聞かされ気を失いそうな程驚く事になる。

話を聞かされた後、母親は心配で仕方なくニースの側から離れなくなり、父親はショックのあまり体調を崩し、お店を3日間休業した。


トロワが公国に滞在していたのは1週間。

その間、自分の仕事はほとんど出来ず、ニースの母親の代わりに、家の家事をこなして過ごした。

ニースとの時間も出来るだけ作るように努めた。

ニースのメンタルが心配だった。

日中はいつもと変わらないように見えるニースだったが、夜中になると夢にうなされ大泣きしながら目を覚ます日々が続いていた。



グランパ事件から5日後。

ニースは近所でガキ大将と呼ばれている男の子に睨まれていた。

ニースの服の色と、ガキ大将の服の色が同じなのが気に入らず「着替えて来い!」と言われていた。

この時ニースは不思議な気持ちだった。

今まではガキ大将に睨まれると怖くて仕方なかったのだが、今は全く怖くなかった。

自分でも驚く程冷静に物事を考えれていた。


グランパの方が怖かった。
こいつに殴られても死なない。
とはいえ喧嘩になったら負けるだろう。
事を荒立てても得はない。
大人しく着替えたら気が済むだろう。
でも、とりあえず睨み返しておこう。
なんだ、こいつ私より少し背が低いじゃん。
これ以上睨み合ってたら殴りかかってくるね。
着替えてくるか。
どの服に着替えようかな。
そうだ、花柄のワンピースにしよう♪


ニースはお気に入りのワンピースに着替えると、わざわざガキ大将の所まで行き

「これでどう?文句ない?」

「あんたの為に着替えてやったんだから、可愛いとか綺麗とか褒めたらどうなの?」

と言ってやった。

ガキ大将は何かを言いたげだったが、返事を聞かずにその場を立ち去った。

ニースの心は晴れ晴れしていた。

なんだ、ちっとも怖くないや。

冒険者になって、グランパも倒せるようになったら、怖いものなんてなくなるかも♪

その夜からグランパの夢も見なくなった。



今となっては笑い話だが、当時はこの家族にとって前代未聞の大事件だった。

その後、ニースはグランパ事件の事を忘れる事はなかったか、その時に交わした『おじいちゃんとの約束』はすっかり忘れてしまった。

5年後。16歳の初冬におじいちゃんと再会するまでは。
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