花宮真
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暗く閉ざされたその場所に私は放り出された。
数人の男たちの手によって。
『ほらよ!』
『キャッ!?』
さすがにバスケ部の選手だけあって、女性の身体を軽々持ち上げ床に落とされる。
私は手足を縛られた状態で冷たい床に押しつけられた。
『へへ、これで今回は楽勝だな』
『お気の毒に。君はなんの罪もないのにね』
『まぁー、試合が終わったら解放してやるよ。
それまで大人しくしてな』
男たちはそう言うと扉を閉め、鍵をかけた。
彼らがやることなんて手に取るようにわかる。
(私を人質にして、誠凜高校に勝つ気ね……)
私、ゆりは誠凜高校のマネージャーをやり始めて数ヵ月。
やっと、リコ先輩の指示にもついていけるようになったし、仲間として部員と打ち解けるようになったのに。
(私ったらなんてことを……!)
自分の軽はずみな行動に後悔する。
“正々堂々やりましょう”なんて宣言しに言った自分が、相手に利用されてしまうなんて。
(……まぁ、アイツがやりそうだと言えばやりそうだけど!)
今頃、私を人質に交渉して楽しんでるだろうな、なんて笑みを浮かべる彼の姿が想像できてとても悔しい。
私は早く助けが来るのを信じ、静かに目を閉じた。
『あれ?ゆりは?』
試合開始直前、いつもいるはずの新人マネージャーがいないことに気づく。
火神はきょろきょろ辺りを見回した。
『あいつ、何かあったんじゃ……』
『ほら!集中しなさいッ!』
『痛ッ!?』
監督が力一杯、火神の背中を叩く。
すでにコートには選手が整列しており、
なかなか来ない火神を睨むように見ていた。
『おい、火神!早く並べー』
『あ、ウッス!』
『どうしたんですか?元気ないですよ?』
横に並んでいた黒子が俺を見て、心配しているのかどうか分からない無表情な顔で話しかけてきた。
そんなに顔に出てるのか俺。
『いや……その、ゆりがいなくて……』
『ゆりさんなら開始少し前に話したい人がいるって出てきましたが……』
『そっか、なら仕方ないな』
『でも遅いですね。探して来ますか?』
『馬鹿、今から試合だろ。集中すんぞ。相手は何してくるかわからねぇ……』
相変わらず不気味な笑みを浮かべる奴ら。
これほどまでに危険な相手はなかなかいない。
『そうですね……だって今日は……』
『あぁ。あの霧崎第一高校だからな』
そこには因縁のライバル花宮真がニヤニヤと笑っていた。
相変わらず気味の悪い笑みを浮かべながら木吉の横に来て囁く。
『またできて嬉しいよ…木吉』
『あぁ。俺もだ花宮』
『今日は誰が退場してくかね…ククク』
それだけ言うと花宮は自分のコートに戻ったが、ふと誠凜のベンチを見てぴたりと足を止めた。
『……おぃ』
『ん?』
『あの新人マネージャー、どうした?』
『え?』
木吉がベンチに目をやると、たしかにゆりの姿がなかった。
日向に聞いてみたが彼も首を横に振る。
『無断欠場か……』
『そんなわけないだろ。すぐ来るさ』
『……』
一瞬花宮の顔が曇った気がしたが、それからすぐに試合開始の笛が鳴りボールが高く上がった。
パン!っとボールが弾く音が会場に響き渡った。
ようやく暗闇に目が慣れてきた。
ゆりはゆっくりとひざ立ちになると、急がなくてはという思いで立ち上がろうとしたがふらりと目眩がして、またドタッと倒れた。
どうにかしてここから脱出しなくては。
でも両腕を後ろで固定されたこの状態では、あの鍵の掛かったドアを壊すことはできない。
唯一の救いは日が当たらないので暑くもなく寒くもなくってことだ。
『変わらないな……』
今も昔も。
ゆりは小さなため息をついた。
ふと今回の試合で敵となる彼の顔が思い浮かんだ。私はかつて花宮真と同じ学校に通っており、彼は私の先輩であり彼氏だった。
バスケに興味はなかったから、彼の部活のときの顔は知らない。
でも彼がバスケではとても強い選手だということは知っていた。
『真さん………』
だから最初彼の悪い噂を聞いたときは驚いた。本人に聞いてみてものらりくらりとかわされて。私は彼を止めようと試みたが……
『相変わらず、私がやることは空回りしてるわね』
何かしようとしても結果が悪い方向に行ってしまう。
彼を止めるといっても、当初私はバスケはルールさえも知らない素人だった。無知で彼に鼻で笑われた私は、それ以上何も言うことができなかったのだ。
彼を変えるためには自分が変わらなくてはならない。それが私がバスケに興味をもったキッカケだった。
『……はは』
今回の行動は悪い噂が絶えない彼らを牽制する意味もあった。
何も知らなかった自分はマネージャーとして正しい行動をすることで前より変わったと、彼に分かってもらえたらという思いもあった。
でも現実は厳しい。
私はまた彼を止めようとして、また彼に拒絶され、さらにはいいように利用されたのだ。
それがこの結果。
自分でもどうしていいか分からず俯き、ただ悔しいという感情が残った。
戻りはしない。でも変わりもしない。
現状、私は何もできないのだ…。
『おい!どーゆーことだ!!?』
『だーかーらー。人質だって人質。
返してほしければおとなしくしな!』
『ゆりはどこだ…!?』
『さぁな?俺たちが勝った後に教えてやるよ』
『ふ、ふざけんな!!』
火神が振り下ろした拳をひらりと交わし、彼はニヤニヤしながらこう言った。
『言っておくが、今回お前達は俺たちに暴力ふれないぜ?ふったとしたら退場どころじゃねぇ。学校問題になるぜ』
『そうよ、学校問題になるわ』
タイムアウトの時間監督がそう告げた。要約すれば、今回俺たちは相手からのお誘いで相手の体育館に招かれており、暴力問題を起こせば高校の間で問題が起こるそうだ。
『わざと負けろってことか……、舐めやがって!』
日向は立ち上がり、一旦深呼吸をすると振り返り、黒子を含む火神以外の一年生を指した。
『いいか!黒子が抜けている時間、お前達でゆりを見つけ出せ!』
『『はい!!!』』
『ちょ!俺も……!』
『火神、お前はダメだ。今ここでお前が抜ければ試合はダメになる』
『けど……ッ!』
『火神くん』
日向に反論しようとする火神に黒子が拳を差し出した。
『ゆりさんは僕らに任せてください。火神くんは試合を。彼女が来たとき、負けてたら悲しむでしょうから』
『………そうだな』
火神は気持ちを落ち着かせると、ポンと黒子の拳に自分の拳を合わせた。
『頼むぜ!』
『はい!火神くんこそ、試合、頑張ってください』
『当たり前だ!』
火神を含む五人はコートに戻ると、険しい目つきで試合を再開した。
まるでゲームを楽しむかのようにニヤつく彼らに背を向け、一年生は走り出し振り返らずに校舎を駆けていった。
ドン!と大きな音が響く。
もしここが校舎内なら誰か気づいたかもしれない。
しかしここは校舎と離れた体育館裏側の倉庫。
人が通らない上に物音がしても中の道具が倒れただけだと思うだろう。
そうとも知らず ゆりは ひたすら壁を蹴っていた。
縛られて自由に動かせない身体をなんとかよじらせ、壁側へ寄り、両足を振り壁を蹴る。
今の ゆりにはそれしかできなかった。
(誰か……誰でもいい、誰か気づいて……!)
つま先にズキズキと痛み感じながらも ゆりは精一杯合図した。
もしかしたら誰にも気づかれないかもしれない。
彼らだって自分を殺そうとはしていないはずだ。
そうは分かってはいてもゆりは静かに待つことはできなかった。
もし待っていて誠凜が負けてしまったら?
自分のせいでわざと負けるように促されて、彼らが仕方なく負けたとしたら?
そう考えると黙っているわけにはいかなかった。
足はあざだらけになり、息を切らしながら ゆりが最後の力を振り絞り壁を蹴ろうとしたときだ。
『 ゆりさん……! 』
扉から光が見え、聞き覚えのある声が聞こえた。
影でしか見えないが2人の男性が立っていた。
(黒子くん………?)
試合中でありながら、ベンチに座る選手が複数で自分を探してくれていたことを ゆりはすぐ察した。
でもそれは彼女が最後の力を振りぼったあとのこと。
ポロッ
『危ない!!』
倉庫に積まれてあったダンボールが、複数蹴った振動で ゆりの上に落ちてきたのである。
ただでさえ縛られて動けないうえに、長時間の抵抗で体力を奪われていた ゆりは気づいても避けることはできない。
一つのダンボールがひっくり返り、中から冊子が落ちてくると、それにつられるように隣に積んであった机や椅子がドミノ倒しのようにゆりの頭上に落下した。
黒子は焦って手を伸ばしたが、先に倒れた机が邪魔をする。
それは数秒の悲劇としか言いようがなかった。
『あっぶねーな………』
『!』
ゆりがゆっくり目を覚ますと、誰かが自分の盾になってくれているのが分かった。
それはよく知っている顔。
変わるはずがないと考えていた彼の顔だった。
『まこ、と……さん?』
『………』
一瞬だけ、いつもと違う彼を見た気がした。
花宮は自分の上に倒れた椅子などをどかし、ゆりをひょいっと担ぐとそのまま倉庫から出した。
そのあとの対応は早かった。
黒子が他の一年生を呼ぶと、花宮はゆりを下ろし彼らに預けた。
ゆりは彼らに運ばれそのまま保健室へ直行。
黒子は試合のために抜け、他の一年生が保健室に残り、途中で監督であるリコが ゆりの様子を見にきた。
そこで花宮が一時試合を抜け、誠凜が優勢であることを聞いた。
その後花宮はコートに戻ってきたが、なにも危害を加えずシュートを数本入れて試合は誠凜の勝ちで終わったのである。
『 ゆり、大丈夫だったか? !』
『怪我してないか!?アイツら………!!』
『ほら、やめて。 ゆりは疲れてるんだから、早く帰るわよ! 』
みんなからの心配する声をリコ先輩が遮り、早く体育館から出ようと私の背中を押してくれた。
部長達は相手のチームを睨むようにコートを去る。
私もチラリと目をやると、花宮がこちらをジッと見ているのに気づいた。
『あの……!』
『話しかけんじゃねーよ、馬鹿が』
『……!』
怒り爆発寸前だった火神がすかさず反発した。
『テメェ!なに言ってやがるッ!お前等が誘拐したんだろーが!!』
『………あ?』
『この野郎……ッ!』
花宮の胸ぐらを掴み、今にも殴りそうな火神を仲間は必死に止めた。
離された花宮はフンと無表情のまま鼻で笑うと、そのまま仲間を連れ体育館を出て行った。
私はなにもなく、ただポカンとしていると後ろから黒子くんが私の名前を呼んだ。
『 ゆりさん……彼はあなたのために試合を抜けました 』
『……え?』
『彼はあなたが誘拐されたことを知らなかったようです。あの場所へ向かったのも彼があそこしかないと、教えてくれたからです。』
『…そうなの。』
あぁ、あのときの顔は見間違えではなかったのか。
私はそう確信し、フフと笑った。
『どんな関係なんですか?彼と』
『元彼よ。でもただ遊ばれただけ』
『そうには見えませんでしたけど』
『変わったのかもね、彼も』
私を庇った際に見たあの笑顔。
付き合っていた頃は一度も見たことがなかった。
彼ももしかしたら変わったのかもしれない、今の私にはそう想像を膨らませるしかなかった。
(もし、話せるときが来たらちゃんとお礼しよ)
この後、元彼と私の関係について仲間に問いつめられたのは言うまでもない。
数人の男たちの手によって。
『ほらよ!』
『キャッ!?』
さすがにバスケ部の選手だけあって、女性の身体を軽々持ち上げ床に落とされる。
私は手足を縛られた状態で冷たい床に押しつけられた。
『へへ、これで今回は楽勝だな』
『お気の毒に。君はなんの罪もないのにね』
『まぁー、試合が終わったら解放してやるよ。
それまで大人しくしてな』
男たちはそう言うと扉を閉め、鍵をかけた。
彼らがやることなんて手に取るようにわかる。
(私を人質にして、誠凜高校に勝つ気ね……)
私、ゆりは誠凜高校のマネージャーをやり始めて数ヵ月。
やっと、リコ先輩の指示にもついていけるようになったし、仲間として部員と打ち解けるようになったのに。
(私ったらなんてことを……!)
自分の軽はずみな行動に後悔する。
“正々堂々やりましょう”なんて宣言しに言った自分が、相手に利用されてしまうなんて。
(……まぁ、アイツがやりそうだと言えばやりそうだけど!)
今頃、私を人質に交渉して楽しんでるだろうな、なんて笑みを浮かべる彼の姿が想像できてとても悔しい。
私は早く助けが来るのを信じ、静かに目を閉じた。
『あれ?ゆりは?』
試合開始直前、いつもいるはずの新人マネージャーがいないことに気づく。
火神はきょろきょろ辺りを見回した。
『あいつ、何かあったんじゃ……』
『ほら!集中しなさいッ!』
『痛ッ!?』
監督が力一杯、火神の背中を叩く。
すでにコートには選手が整列しており、
なかなか来ない火神を睨むように見ていた。
『おい、火神!早く並べー』
『あ、ウッス!』
『どうしたんですか?元気ないですよ?』
横に並んでいた黒子が俺を見て、心配しているのかどうか分からない無表情な顔で話しかけてきた。
そんなに顔に出てるのか俺。
『いや……その、ゆりがいなくて……』
『ゆりさんなら開始少し前に話したい人がいるって出てきましたが……』
『そっか、なら仕方ないな』
『でも遅いですね。探して来ますか?』
『馬鹿、今から試合だろ。集中すんぞ。相手は何してくるかわからねぇ……』
相変わらず不気味な笑みを浮かべる奴ら。
これほどまでに危険な相手はなかなかいない。
『そうですね……だって今日は……』
『あぁ。あの霧崎第一高校だからな』
そこには因縁のライバル花宮真がニヤニヤと笑っていた。
相変わらず気味の悪い笑みを浮かべながら木吉の横に来て囁く。
『またできて嬉しいよ…木吉』
『あぁ。俺もだ花宮』
『今日は誰が退場してくかね…ククク』
それだけ言うと花宮は自分のコートに戻ったが、ふと誠凜のベンチを見てぴたりと足を止めた。
『……おぃ』
『ん?』
『あの新人マネージャー、どうした?』
『え?』
木吉がベンチに目をやると、たしかにゆりの姿がなかった。
日向に聞いてみたが彼も首を横に振る。
『無断欠場か……』
『そんなわけないだろ。すぐ来るさ』
『……』
一瞬花宮の顔が曇った気がしたが、それからすぐに試合開始の笛が鳴りボールが高く上がった。
パン!っとボールが弾く音が会場に響き渡った。
ようやく暗闇に目が慣れてきた。
ゆりはゆっくりとひざ立ちになると、急がなくてはという思いで立ち上がろうとしたがふらりと目眩がして、またドタッと倒れた。
どうにかしてここから脱出しなくては。
でも両腕を後ろで固定されたこの状態では、あの鍵の掛かったドアを壊すことはできない。
唯一の救いは日が当たらないので暑くもなく寒くもなくってことだ。
『変わらないな……』
今も昔も。
ゆりは小さなため息をついた。
ふと今回の試合で敵となる彼の顔が思い浮かんだ。私はかつて花宮真と同じ学校に通っており、彼は私の先輩であり彼氏だった。
バスケに興味はなかったから、彼の部活のときの顔は知らない。
でも彼がバスケではとても強い選手だということは知っていた。
『真さん………』
だから最初彼の悪い噂を聞いたときは驚いた。本人に聞いてみてものらりくらりとかわされて。私は彼を止めようと試みたが……
『相変わらず、私がやることは空回りしてるわね』
何かしようとしても結果が悪い方向に行ってしまう。
彼を止めるといっても、当初私はバスケはルールさえも知らない素人だった。無知で彼に鼻で笑われた私は、それ以上何も言うことができなかったのだ。
彼を変えるためには自分が変わらなくてはならない。それが私がバスケに興味をもったキッカケだった。
『……はは』
今回の行動は悪い噂が絶えない彼らを牽制する意味もあった。
何も知らなかった自分はマネージャーとして正しい行動をすることで前より変わったと、彼に分かってもらえたらという思いもあった。
でも現実は厳しい。
私はまた彼を止めようとして、また彼に拒絶され、さらにはいいように利用されたのだ。
それがこの結果。
自分でもどうしていいか分からず俯き、ただ悔しいという感情が残った。
戻りはしない。でも変わりもしない。
現状、私は何もできないのだ…。
『おい!どーゆーことだ!!?』
『だーかーらー。人質だって人質。
返してほしければおとなしくしな!』
『ゆりはどこだ…!?』
『さぁな?俺たちが勝った後に教えてやるよ』
『ふ、ふざけんな!!』
火神が振り下ろした拳をひらりと交わし、彼はニヤニヤしながらこう言った。
『言っておくが、今回お前達は俺たちに暴力ふれないぜ?ふったとしたら退場どころじゃねぇ。学校問題になるぜ』
『そうよ、学校問題になるわ』
タイムアウトの時間監督がそう告げた。要約すれば、今回俺たちは相手からのお誘いで相手の体育館に招かれており、暴力問題を起こせば高校の間で問題が起こるそうだ。
『わざと負けろってことか……、舐めやがって!』
日向は立ち上がり、一旦深呼吸をすると振り返り、黒子を含む火神以外の一年生を指した。
『いいか!黒子が抜けている時間、お前達でゆりを見つけ出せ!』
『『はい!!!』』
『ちょ!俺も……!』
『火神、お前はダメだ。今ここでお前が抜ければ試合はダメになる』
『けど……ッ!』
『火神くん』
日向に反論しようとする火神に黒子が拳を差し出した。
『ゆりさんは僕らに任せてください。火神くんは試合を。彼女が来たとき、負けてたら悲しむでしょうから』
『………そうだな』
火神は気持ちを落ち着かせると、ポンと黒子の拳に自分の拳を合わせた。
『頼むぜ!』
『はい!火神くんこそ、試合、頑張ってください』
『当たり前だ!』
火神を含む五人はコートに戻ると、険しい目つきで試合を再開した。
まるでゲームを楽しむかのようにニヤつく彼らに背を向け、一年生は走り出し振り返らずに校舎を駆けていった。
ドン!と大きな音が響く。
もしここが校舎内なら誰か気づいたかもしれない。
しかしここは校舎と離れた体育館裏側の倉庫。
人が通らない上に物音がしても中の道具が倒れただけだと思うだろう。
そうとも知らず ゆりは ひたすら壁を蹴っていた。
縛られて自由に動かせない身体をなんとかよじらせ、壁側へ寄り、両足を振り壁を蹴る。
今の ゆりにはそれしかできなかった。
(誰か……誰でもいい、誰か気づいて……!)
つま先にズキズキと痛み感じながらも ゆりは精一杯合図した。
もしかしたら誰にも気づかれないかもしれない。
彼らだって自分を殺そうとはしていないはずだ。
そうは分かってはいてもゆりは静かに待つことはできなかった。
もし待っていて誠凜が負けてしまったら?
自分のせいでわざと負けるように促されて、彼らが仕方なく負けたとしたら?
そう考えると黙っているわけにはいかなかった。
足はあざだらけになり、息を切らしながら ゆりが最後の力を振り絞り壁を蹴ろうとしたときだ。
『 ゆりさん……! 』
扉から光が見え、聞き覚えのある声が聞こえた。
影でしか見えないが2人の男性が立っていた。
(黒子くん………?)
試合中でありながら、ベンチに座る選手が複数で自分を探してくれていたことを ゆりはすぐ察した。
でもそれは彼女が最後の力を振りぼったあとのこと。
ポロッ
『危ない!!』
倉庫に積まれてあったダンボールが、複数蹴った振動で ゆりの上に落ちてきたのである。
ただでさえ縛られて動けないうえに、長時間の抵抗で体力を奪われていた ゆりは気づいても避けることはできない。
一つのダンボールがひっくり返り、中から冊子が落ちてくると、それにつられるように隣に積んであった机や椅子がドミノ倒しのようにゆりの頭上に落下した。
黒子は焦って手を伸ばしたが、先に倒れた机が邪魔をする。
それは数秒の悲劇としか言いようがなかった。
『あっぶねーな………』
『!』
ゆりがゆっくり目を覚ますと、誰かが自分の盾になってくれているのが分かった。
それはよく知っている顔。
変わるはずがないと考えていた彼の顔だった。
『まこ、と……さん?』
『………』
一瞬だけ、いつもと違う彼を見た気がした。
花宮は自分の上に倒れた椅子などをどかし、ゆりをひょいっと担ぐとそのまま倉庫から出した。
そのあとの対応は早かった。
黒子が他の一年生を呼ぶと、花宮はゆりを下ろし彼らに預けた。
ゆりは彼らに運ばれそのまま保健室へ直行。
黒子は試合のために抜け、他の一年生が保健室に残り、途中で監督であるリコが ゆりの様子を見にきた。
そこで花宮が一時試合を抜け、誠凜が優勢であることを聞いた。
その後花宮はコートに戻ってきたが、なにも危害を加えずシュートを数本入れて試合は誠凜の勝ちで終わったのである。
『 ゆり、大丈夫だったか? !』
『怪我してないか!?アイツら………!!』
『ほら、やめて。 ゆりは疲れてるんだから、早く帰るわよ! 』
みんなからの心配する声をリコ先輩が遮り、早く体育館から出ようと私の背中を押してくれた。
部長達は相手のチームを睨むようにコートを去る。
私もチラリと目をやると、花宮がこちらをジッと見ているのに気づいた。
『あの……!』
『話しかけんじゃねーよ、馬鹿が』
『……!』
怒り爆発寸前だった火神がすかさず反発した。
『テメェ!なに言ってやがるッ!お前等が誘拐したんだろーが!!』
『………あ?』
『この野郎……ッ!』
花宮の胸ぐらを掴み、今にも殴りそうな火神を仲間は必死に止めた。
離された花宮はフンと無表情のまま鼻で笑うと、そのまま仲間を連れ体育館を出て行った。
私はなにもなく、ただポカンとしていると後ろから黒子くんが私の名前を呼んだ。
『 ゆりさん……彼はあなたのために試合を抜けました 』
『……え?』
『彼はあなたが誘拐されたことを知らなかったようです。あの場所へ向かったのも彼があそこしかないと、教えてくれたからです。』
『…そうなの。』
あぁ、あのときの顔は見間違えではなかったのか。
私はそう確信し、フフと笑った。
『どんな関係なんですか?彼と』
『元彼よ。でもただ遊ばれただけ』
『そうには見えませんでしたけど』
『変わったのかもね、彼も』
私を庇った際に見たあの笑顔。
付き合っていた頃は一度も見たことがなかった。
彼ももしかしたら変わったのかもしれない、今の私にはそう想像を膨らませるしかなかった。
(もし、話せるときが来たらちゃんとお礼しよ)
この後、元彼と私の関係について仲間に問いつめられたのは言うまでもない。