名探偵コナン
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雲ひとつもない晴れた青空。
京都も同じような空なのだろうか。
(なんでこんなことになってしまったのか…
…)
たまたま休暇をとって東京へ遊びに来たので、挨拶がてら毛利さんの事務所に寄ったことから始まった。子どもたちが明日、とある学校の運動会に行くらしい。毛利さんは急に仕事が入って行けなくなってしまったから一緒に行ってくれないか、と。
最初はお断りしようと思ったのだが……
「今回は彼女も来てくれるらしいよ!」
コナンくんに言われた一言で承諾してしまった。そう、なかなか会えない彼女がその運動会に来るらしい。仕方がないのでホテルに一泊し、今日を迎えたわけである。
「あ!京都のお巡りさんだ〜!リスちゃんもいるー!」
「あんさん達、今日はよろしゅう頼むな」
一足先についていた少年探偵団に挨拶すると、辺りを見回した。彼女の姿が見えなかった。
「今日は大人は何人いらっしゃるんですか?」
「えーと、ワシも入れると……1、2、3……4人だったかのぅ」
「違うわ。長野県警も後から合流するって言ってたから7人よ」
阿笠博士の回答にツッコみをいれる灰原。
そう、何故か大人数になってしまったのだ。理由はなんとなく分かってるのだが。
目の前にいる綾小路警部にそっと耳打ちする。
「あの人も来るから大丈夫だよ」
「!……ほんと、よく見てはりますなコナン君は」
とりあえず彼女が到着する前に大人の種目に参加してみてはと勧めると「借り物競争」の受付へ向かわせた。
綾小路警部には申し訳ないが、この運動会は事件絡みで参加している。今回の事件は、このどこかの種目に爆弾が仕掛けられてる可能性があるのだ。突然送られてきた暗号には、それが印されており、借り物競争にでるお題がそのヒントになる可能性が高かった。できる限り参加し、謎を解きたいコナンだったが、借り物競走は大人限定となっており参加できない。そこで彼らを利用させてもらった。
東京で開催される地域の運動会に参加するには子供がいないと参加できない。そこで少年探偵団も参加させざるをえなかった。
(……まぁ、アイツらは何も知らねえがな)
元太は屋台に並んで食べ物ばっか食べてるし、歩ちゃんと光彦も色々な競技を見て楽しんでる。このことを知ってるのは俺と博士と灰原と……
「それにしても、なんで東京で開催されるのに予告状は長野に届いたのかしらね」
後ろから灰原がボソッと呟いた。
そうなのだ。この爆破予告は長野県警宛に届いたものだった。だから彼ら3人もこのことは知ってる。
「さぁーな……予告状には間違いなくこの運動場を指してたし、指定された日は運動会。犯人にとって何か思い出があるものなんかもしれないな」
「ここって十数年前は別の建物が建ってたみたいじゃない。さっきそこの掃除のおばちゃんに聞いたけど」
「あぁ。病院だったって話だろ?でもそれは30年も前の話で、爆弾と関係があるかは今のところ不明……」
「その時そこで働いていた医師が過労で亡くなったという話はあるようですよ」
後ろから聞き覚えのある声がする。
「!あなたは…!」
パンッ!
借り物競争のはじまりの音が鳴った。
5人が同時に目の前にあるテーブルに向かってかけていく。一番最初についた私は真ん中のカードを引いた。
「!?」
ピタッと動きが止まった。
借り物競争は、たしか観客席から借りてくる競技だったような。これを借りてこいと?
「あれー?綾小路警部、止まっちゃったよ?」
「警部ー!頑張ってくださーい!」
観客席から子どもたちの声が聞こえた。
「ねぇねぇ、借り物競争ってお客さんの中から物を借りてくるやつだよね?」
「そうですよ!でもこの競技はちょっと特別らしくて」
「あら、何が特別なの?」
フワッと花の香りがし、振り返るとニコッと笑う女の人が立っていた。
「あ!あのときのお姉さん!」
「こんにちは。歩ちゃん、光彦くん。楽しそうね。それで、何が特別なの?」
「特別なカードが混ざっているんですよ!」
「特別なカード?」
「物ではなく、人を借りてくるカードが入っているとか!この競技の説明文にもありましたが、この競技に参加した人の中で意中の人に告白する人もいるそうです!」
なるほど。それで大人限定なのか、とちょっと納得してしまった。
「えー!すごーい!だから参加者が多いのかな!?」
「そうですねー!別名恋レースと呼ばれてますし、メイン競技といっても過言ではないと思います!」
子どもたちは無邪気に騒いでいるが、知らないで参加しちゃった人は可哀想だろうなと思っていた。
「今、綾小路警部も参加してるんですよ!お姉さんも一緒に応援しましょう!」
「そうなの?あ、ほんとだ。そうね、みんなで応援しましょ!」
ーーーーーーさて。
どうしたものか。
引いたカードに書かれていたものは……
“可愛い人”
「………ふむ」
そもそも人は借りていいものなのだろうか?場合によっては変な目で見られる可能性も。。。
「さーて!5人中2人は観客席へ!3人はまだ迷ったままだー!」
どうやら困惑しているのは私だけではないらしい。5人中3人がこんなカードを引いてるのか。
(…仕方がない、小学生なら可愛いでも通りますやろ。たしかあの女の子は…)
そういって少年探偵団が座っていたはずの席へ向かう。背の低い女の子とソバカスの男の子は声に出して応援してくれていたので居場所はすぐに分かった。
女の子に手を伸ばそうとしたときだった。
「警部さん!頑張ってください!」
(……!!)
聞き覚えのある懐かしい声が聞こえた。彼女だった。彼らの後ろに立っていた彼女がニコッと微笑んだ。久しぶりに見る彼女の笑顔に鼓動が早くなる。可愛い…。
「……え?」
「……あ」
女の子に伸ばしたはずの手が無意識に彼女の腕を掴んでいた。やってしまった。
「え?!お題はお姉さんなの??」
「そうなら早く走らないと負けちゃいますよ!!」
歩ちゃんと光彦くんが早くゴールへ向かうよう指をさす。綾小路警部は私の腕を掴んだまま、もう片方の手で顔を抑えていた。
「えーと……?」
「すいません、一緒に来てはりますか?」
「あ、はい!」
彼に手を引かれゴールへと向かう。
なんとか1着でゴールできた。
司会がカードを受け取りマイクで叫ぶ。
「はーい!それでは答え合わせいたしましょー!」
「は!?」
「当たり前ですよ〜!間違ってたら困るじゃないですか〜!さてさて借り物のお題は……」
綾小路警部が気まずそうな顔をしている。
何だったんだろう?そんなに珍しいもの?
「じゃじゃーん!お題は“可愛い人”!おおぉー!たしかにお姉さん美人ですもんねーー!」
「!?!」
「借り物クリアです!見事1位を獲得したのは“可愛い人”を借りてきたこの方でした〜!!!」
お題を連呼され、顔が熱くなるのを感じた。
「すいません……まさか答え合わせがあるとは」
「い、いえ……えーと…ありがとうございます……」
恥ずかしそうに俯いているが耳まで真っ赤に染まっている彼女。手はぎゅっと握られたままだった。
(アカン…可愛過ぎる……)
「ほな、席に戻りましょうか」
「はい……」
とりあえず表上は冷静を装い、観客席へ向かう。勿論手は繋いだまま。
「あの、警部さん…」
「なんでしょう?」
「嬉しかったです、ありがとうございました」
照れながらも微笑む彼女に鼓動が跳ねる。
自覚ならずっと前からしている。もしかしたらこの心臓の音が手を通して伝わってしまうのではないだろうか?私は彼女のことを……
「スミマセン、こんなとこで言うつもりはなかったのですが…」
「はい?」
「私はあんさんのことを、出会ったときから……」
そう言いかけた時だった。
「すみませんね。彼女、借りてきますよ」
「「!!!?」」
繋いでいた手は解かれ、代わりに彼女の反対手が男と繋がる。
「諸伏警部!?!」
そう、長野県警の彼だった。
時間を少し遡る。
「その時そこで働いていた医師が過労で亡くなったという話はあるようですよ」
「!あなたは…!長野県警の!」
「お久しぶりですねコナン君」
観客席とは少し離れたところで彼らを見つけ、彼らに今回の事件の情報を話す。特にコナンという少年はとても鋭く、もしかしたら今回の暗号を解く手がかりになってくれるかもしれないと思っていた。
「あれ?大和警部たちは?」
「あぁ、彼らも来ていますよ。開催地は東京ですが長野県警に届いたものなので、調査もこちらで請け負ってます」
「へー、大変だね…」
わざわざ東京まで…って言おうとしたがやめた。調査のためだけではないだろうと知っていたからだ。
「ところで彼女は?一緒じゃないんですか?」
「えぇ。でもさっき歩いてたのを見たからいるはずよ。子どもたちの方にでも行ったんじゃない?」
淡々と答える灰原にお前も子供だろっと心の中でツッコむ。そう、実はこの警部も彼女を意識しているようだった。
(ま、俺としてはお姉さんの名前出すだけでこうやって他の県警が来てくれるからありがたいんだけど)
俺は歩ちゃん達がいる観客席を指差す。
「えーと、たしか観客席はあっち………あ。」
たしかにちょうど見えた観客席には歩ちゃんと光彦の他に彼女がいた。そこに綾小路警部が走ってくる。ちょうどレース中だったらしい。彼女の手を引くとゴールまで駆けていってしまった。
(やべ、諸伏警部は……)
チラッと視線を戻すとさきほどまでいた警部の姿はなかった。ツンツンと灰原に肩をつつかれる。
「どこ見てんのよ。警部さんならあっち」
「え!?」
レーススタート地点を見ると先程まで話していた諸伏警部の姿があった。その後ろには大和警部も…。
「このレースがメインのようだから走ってみたほうが良さそうって、呟いて行っちゃったわよ?」
「わー…男の嫉妬ってこえぇ…」
「…そうね。わざわざ次のレースに入れてもらってたものね」
俺たちが話している間に第一レースが終わったようだ。パン!とスタートの音がなり、諸伏警部が走り出した。
先程見た光景に内心穏やかにいられず、ついこのレースに参加してしまった。これは借り物レース、観客席から何かを借りてくるものだ。
(彼女、顔を赤くしていた……)
私は最近ある女性が気になっている。清楚で穏やかで笑顔が素敵な女性。時々事件のときに少年と一緒にいるので自然と名前と顔は覚えてしまった。彼女は私と同じ長野県警に務める上原刑事とも交流があるため話をすることも多い。
(嫉妬、なんてらしくないですが……)
スタートの合図がなり、カードが置いてある台まで走る。この競技は別名「恋レース」。普段とは異なるものが書いてあることは予想できていた。1番左のカードを取ると、迷いもなく観客席へ向う。
手を繋ぎ観客席へ戻ろうとする男女の声が聞こえる。
「スミマセン、こんなとこで言うつもりはなかったのですが…」
しっかりと握られている右手。彼女へ向ける男の真剣な眼差し。大体何をしようとしているのかは察しがつく。彼女の瞳に映るものを自分一人にしたい、そういった感情は同じ男として共感できる、が。
「すみませんね。彼女、借りてきますよ」
「「!!!?」」
私は彼女の空いていた左手を掴み抱き寄せる。彼女は私の胸の中に倒れると顔を上げて私の名前を呼んだ。
「諸伏警部!?!」
驚く彼女を安心させるよう微笑む。
「お取り込み中のところすみませんねぇ。なんせ、カードが特別だったもので」
「…!」
男にも笑みを向けて話しかける。
どんなカードを引いたのか察したようで男の顔が強張った。
「え、警部さんもこのレース出てたんですか?」
「ええ。時間がないのでゴールまで一緒に来てもらえますか?」
「あ!そそ、そうですよね!」
そう言って今度は諸伏警部に連れられ再びゴールへ向う。綾小路警部との会話に夢中で、レースの状況をを見ていなかったが、余裕でゴールできた。
司会の方が目を丸くして近づいてくる。
「おやおやー??これはさっきのお姉さーん!また借りられちゃったんですかー??」
気づけば先程の繋いでいた手は指を絡められ、いわゆる恋人繋ぎでゴールしてしまった。
(指、が………!)
意識すると恥ずかしくなり顔が赤くなった私は何も答えなかったので、代わりに彼が返答した。
「ええ、カードが特別なお題だったので」
そう言って司会にカードを渡す。
「ほほぉ〜?これは期待ですねー!果たしてどんなカードを引いたのでしょうかー!!」
司会が楽しそうにカードを確認する。少し間をおいたあとにマイクを下に向け私達に小さく囁いた。
「あの〜……一応確認なんですか、さっきの人も含め、どちらかとお付き合いされてたりします?」
「お付き合い!?!し、してないですッ!!」
「では、兄弟ってことも?」
「ないですッ!」
彼女が司会の質問を否定する。間違ってはいないのだが。ここまではっきり否定されると少し寂しい気が。何も言わないでいると彼女と目があった。
「あ、その……こんな素敵な方と、お付き合いできるわけないです……」
気遣ってくれたのだろうか、恥ずかしさを抑え少し涙目になってる彼女を見て、私はニコッと微笑んだ。
私の方が歳上なので表面上は余裕を出してはいるが、この顔を見ると抱きしめたくなる。今まで何度耐えたことか。
私は絡めていた指を離すと、自分の手のひらの上に彼女の細く綺麗な手を置いた。
「失礼しますね」
「………!!!!」
彼女の手の甲に軽く口づけする。
これには彼女も司会も驚いたようで、少しの間が生じた。観客席からは「ヒュ〜」といった冷やかしの声も聞こえる。
「おぉーーと!!これは面白い!彼が引いたカードは“キスしたい人”!!まさかここでそれが見えるとは!!!」
「!!!?!」
「お姉さんが借りられるのは今回2回目!先程の参加者も含め三角関係の予感!!いやー!いいもの見れましたね!!!これこそ恋レースと呼ばれるこの競技の楽しみです!!さぁて次はどんな恋のレースが見れるのでしょうか!?!」
カードの内容が分かり、校内放送で参加者全員に放送されてプチパニックに陥ているのか、彼女は顔を赤くしたまま何も話せなくなっていた。私は再び彼女の指に自分の指を絡め、観客席へと向う。
「……警部さん」
「どうしましたか?」
「心臓に悪いです……」
視線を合わせないようにしているのか顔を下に向けている彼女だが、真っ赤になったその姿はとても愛らしかった。ちょっと強引だったかもしれないが、絡めている指を離すこともなく付いてきてくれているところを見ると、嫌ではないのだろう。
「貴女がよければ唇でも良かったのですが」
「へ!?!!」
「ふふ、冗談ですよ」
冗談はないが。あまりいじめると逃げてしまうと困るのでそこまでにしておいた。観客席に戻ると、少年少女たちとあの男が立っていた。
「お姉さん凄いね!!こんなに借りられちゃうなんて!!」
「モテる女は大変ですね!」
彼女は子どもたちに囲まれハハハ…と気まずそうに笑っている。その姿も微笑ましい。横から鋭い視線を感じ顔を上げる。あの男がこちらを見ていた。
「あんさん、ずいぶんと派手にやりましたなぁ」
「ええ、引いたカードが良かったので」
バチッと火花が散る。
互いが彼女のことを意識しているのは分かっていた。一気に周りの空気がピリピリし始める。何か言おうと口を開いたときだった。
「キャッ……!!!」
「お姉さんっ!!!」
彼女の小さな悲鳴と子どもたちの声に気づき、ハッとする。しまった、こちらに気を取られていた。あっと言う間に彼女は連れ去られてしまったーーーーー
俺は悩んでいた。
このレースに特別なカードが入ってること、そのために「恋レース」と呼ばれていたのは事前の情報で分かっていた。でもまさか自分がこれを引くとは思わなかったのだ。
片足が不自由な俺はスタッフから止められたものの、事件に繋がる何かを得るために無理矢理出場したのだが、ハンデとしてカードをめくった状態からのスタートだった。
手にしたカードをもう一度見る。
何度見ても書いてあることは同じなのだが。
“異性にモテそうな女性”
何故だ。引いたこのカードの指令は女性限定だった。男なら適当に選んでと思っていたが女性となると難しい。そもそもモテそうってどんな女だ?
(まぁ、アテがないってわけじゃねーが)
チラッと観客席に視線をやる。
そこには前レースに出場した高明(諸伏警部)が、最近話題にあがることが多い女と手を繋いでいた。
俺が知るかぎりあの女ほどモテそうな奴はいない。今も彼女の周りで男二人が火花を散らしている。
俺は観客席へ足を進めた。
もう、背に腹は代えられない。
これは事件解決のためだ。
俺は覚悟を決めて女性の腕を掴んだ。
「キャッ!かんちゃん!?!?」
「いいから早く来いッ!!」
「え?えええ!?!」
俺は部下の上原の腕を掴むとゴールへ走り出した。
(流石に高明が狙ってる彼女は借りられねーよ……)
この判断が後に敗因の原因になるとはこのとき思っていなかった。俺が上原の腕を掴み走り出した頃には他の出場者はやっとカードをめくったところ。余裕だと思ってたのだ。
「大丈夫?かんちゃん?」
「心配ねーよ。早くゴールして事件の糸口を見つけなきゃな」
ゴールに向う途中に怪しい観客がいないか
、スタッフの位置に間違えがないかそれとなく見回してみる。特に気になるところはなかったのだが。
「キャッ……!!!」
後ろから女の高い声がして振り返った。
上原の声じゃない。
「お姉さんっ!!!」
聞き覚えのある叫び声がする。
(なッ!?しまった…ッ!!)
立ち止まってしまった俺の横を奴は凄い速さで通り過ぎる。出場者がゴールしたアナウンスが流れた。
一体どうゆうことだろうか。
観客席で子どもたちとお話していたところ、急に身体が浮いた感覚になり、気づけば再びゴール地点に来ていた。
「え、えーと…???」
「おおぉーと!これはッ!前代未聞!3回連続お姉さんが借り出されたぞーー!」
司会のアナウンスが耳に響く。
それを聞いて私はまた借りられてしまったのかとハッとした。
「すみませんね、急いでいたもので」
何度が聞いたことのある声が頭上から振ってきた。おそるおそる顔をあげると優しく笑う彼の顔があった。
「あ、安室さん……!?!?」
「お久しぶりです」
そう、彼は毛利事務所の一階にあるポアロの店員、安室であった。彼もこのレースに出ているとは知らず、目を丸くする。
「前のレースで貴女を見つけて。ちょうどカードもぴったりだったのでお借りしてしまいました」
「は、はぁ……」
状況を理解するのに精一杯で気の抜けた返事をしてしまう。司会は期待した目で私にマイクを向けた。
「それでそれで?次の彼とはどうゆう関係でしょうか??」
「え?」
「こんなお姫さま抱っこしてゴールされるなんて、前の彼達が嫉妬してしまいますよ〜?」
司会の言葉にハッとして顔を赤くする。
なんと安室さんにお姫さま抱っこされてゴールしてしまったのだ。それもゴールした今も下ろしてもらってない。
「ああぁあ安室さん!!!重いでしょうから下ろしてくださいッ!!!」
「え?これくらいなんとも思ってませんが」
「そうゆう問題じゃなくて!!!」
観客の視線が一気に集まり、私は恥ずかしくて消えてしまいたかった。司会が渡されたカードを読み上げる。
「ふむふむ!お題は“デートしたい人”!またしても特殊カード!お姉さん、本当にモテるんですね〜!」
「僕の片思いなんです。ずっと素敵な人だなと思っていて……」
や、やめて…こんな大注目されてるところでそんな恥ずかしいこと言わないで……
いたたまれなくなり私は手で赤くなった顔を隠す。
「今度僕とデートしてくれますか?」
チラッ指の隙間から彼を覗くとにっこりと微笑まれた。策士だ、こんな状態で断れるはずがない。
「わ、私で良ければ……」
「ありがとうございます」
司会がヒューと口を尖らせからかうように音を鳴らす。観客席からも拍手が聞こえた。彼は満足そうに笑うとお姫さまだっこのまま観客席に戻った。
「それでは連絡先教えてくださいね?」
「え、あれってレースのための冗談では…」
「まさか、本気ですよ」
「ええぇ………」
なんでこんなことになったのだろうか。きっと喫茶店のお客さんの噂の的になるだろう。しばらくポアロには行けないなと思った。
「お姉さんおかえり〜!」
「僕、びっくりしちゃいました!」
子どもたちが無邪気に近づいてくる。うん、私もびっくりしたわ。
安室さんはゆっくり私の身体を下ろすと、何か紙を渡された。
「こちらが僕の連絡先です。必ず連絡くださいね?」
そう耳元で囁かれると顔がかあぁと熱くなるのを感じた。彼はニッコリ笑うとその場から離れてしまった。歩ちゃんたちが不思議そうに彼の後ろ姿を見ている。
「そういえば、安室さんはなんでここに来たんだろうね?一緒に遊んでけばいいのに」
「もしかしてお仕事ですかね?」
私も少し気になったが、深く考えないことにした。後ろから私の名を呼ぶ声が聞こえて振り返る。
「大丈夫でしたか?急にいなくなったので驚きましたよ…」
「あ、はい!私もびっくりしましたが…大丈夫です!」
「それなら良かった。……手にしてるのは彼からですか?」
諸伏警部が私が持っていた紙に視線を向ける。
「あ、そうです。連絡先を交換したいって言われて……」
「そうですか……」
自身の口元に手を添え、何か考えている彼。
「私達も交換しますか?」
「はい!?!」
「よく長野にいらっしゃるでしょう?事件でも何度かお会いしていますし、何かあったときにご連絡できたほうがよろしいかと思いまして」
たしかに、長野には何度か行っておりコナンくんや彼らにあったのも長野だった。最近事件に巻き込まれることも多くなってきてたし、彼の言う通り直接連絡が取れたほうがいいかもしれない。
「分かりました、お願いします」
「えぇ、喜んで」
バックからスマホを取り出し、諸伏警部と連絡先を交換する。警察の方のプライベートの連絡先を知ることができるなんて、なんかドキドキしてしまった。
「長野にはよくいらっしゃるんですか?」
「はい、最近は特に仕事の関係で…」
「出張みたいなものでしょうか?」
「そうですね。まだ関東と近隣の県しか行ったことないですが……」
連絡先に“諸伏警部”と入力する。安室さんのは帰ってから入力しよう。
「でも近々、関西の方にも行く予定なんです。大阪とか京都とか……」
「せやったら、そんときは私がご案内いたしましょう」
スマホの画面を見ていた私が顔をあげると今度は綾小路警部が微笑んでいた。
「え!?そんな、申し訳ないですよ!」
「気にせんでください。警官でも休みはありますんで」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
こうして私のアドレス帳には二人警部と探偵の連絡先が追加された。これは悪いことはできないな…するつもりはないけど。
私はスマホをバックにしまうと校内アナウンスが流れた。
「今、恋レース男性の部が終了しました。女性の部に入りますので参加者はスタート地点までお集まりくださいませ」
「チッ、結局怪しいカードはなかったな…」
レースを終えた大和警部が上原刑事に連れられ戻ってきた。
「おや、勘助君。惜しかったですね」
「あぁん!?いいんだよ、レースなんざ。初めから争ってねーし」
「…かんちゃん、あんなに悔しがってたじゃない」
「興味ねぇって言ってんだろッ!!!」
上原刑事の言葉に即反応する大和警部。安室さんに負けたのが悔しかったようだ。
「それより上原、今度はおまえの番だぞ」
「あぁ、そうね。そろそろいくわ」
「え?上原さん恋レース出るんですか?」
思わず口を挟んでしまった。
今思えばこれが間違いだったのかもしれない。
「えぇ、まだ手がかりが見つかっていないから。年齢制限に引っかからない女って私だけだし…」
「あれ?でもお姉さんなら出れるんじゃない?」
歩ちゃんが純粋な顔で発した一言。
これが私がレースに出るきっかけになってしまったのだ。メンバーは頷き、誰も反対する人がいないなか私だけ拒否するわけにもいかなかった。
(どうか、変なカードにだけはあたりませんように…)
これ以上目立ちたくないと必死に祈っていた。スタートの音が流れ、出場者が次々走り出す。1番先にカードをめくった私は硬直してしまった。
(え……ッ!?!)
他の参加者が次々カードをめくり、観客席へ借りに行く中、私はただその場で止まっているだけだった。そう、このときはまだ知らなかった。このカードが事件を解く手がかりになるなんて……
私は近くにいたスタッフに声をかけ、ギブアップを申し出る。さすがに借りることができないカード内容を見たスタッフも理解してくれた。カードに書かれた内容は…
“SE○したい人”
(おや?カードを見て止まってますね?少し顔が赤いような…)
(また変なカードを引いたんじゃねーか?)
(それはありえませんわ。恋レースは男性から女性に告白するのをメインとしたイベント。女性の部は変なもんは入ってないって子どもたちが話してましたさかい)
(では…もしそこに変なカードが入ってたとするなら…)
(事件に関連してる可能性が高いですな)
このあと警部達に囲まれ、カードの内容を聞かれた彼女は、赤面しながら必死に拒否した。事件解決のためとせがまれ、仕方なく涙目で上原刑事にだけ内容を伝えたという……
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