†童顔†
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目尻に乗せるのはクールな色
マスカラはしっかり重ね塗り
甘い色は子供みたいだから
ルージュはラメの入った紅い物を
大人の彼に
釣り合うように
†童顔†
一週間ぶりのイーストシティ
護送任務で張り詰めていた体が馴染みの空気に触れて緩もうとしていた
「お帰り、凛梧」
ホームに降り、伸びの一つでもしようかと思った時に滑り込む声
敬礼で返そうとした凛梧の手荷物を当たり前のように奪い取ると、優雅な仕種でロイはその肩を抱き歩きだした
「セントラルはどうだった?」
「こちらと違う事が多く、新鮮でした…特に、雑務をサボる上司がいなくて楽できましたし」
む、と小さく唸って視線を寄越したロイに小さく微笑むと、凛梧はピッタリと体を彼に寄せ
「どなたかが隣にいなくて、寂しかったですけど」
と、小さく呟いた
当たり前だ と言いたげに鼻で笑ったロイの気配を感じながら、凛梧は停めてあった車に促されるまま乗り込む
周囲に公認されて付き合い出して1年半
上司と部下の関係ではあるものの、順調と思える交際であった
「大佐、一息入れてお茶でも」
ロイの執務室
凛梧の持ち帰った書類を処理するロイの鼻先を、香ばしい匂いがかすめた
「いい匂いだ…」
ゆっくりと立ち上る湯気と共に漂う香を深呼吸で迎えると、ロイはカップを手にした
「ところで凛梧、いいワインが手に入ったんだが、私の家で食事でもどうかね」
私の家で と言われ、机の上を片付けていた凛梧の手が僅かに戸惑った
「‥そろそろー」
「ダメっ‥です」
言いかけたロイの言葉を辿って凛梧が叫ぶように言った
「‥あの…月のものが…お酒は控えたいので…」
「‥ふむ…私はいつもタイミングが悪いみたいだな。またの機会にしよう」
少しの間を置いて苦笑を浮かべたロイにホッとしつつ、すみません と小さく笑った
お互いの立場上、中々一緒に過ごすことが出来ない為、本当なら喜ぶべき誘いであるのは明白
それを拒む程、凛梧には隠し通したいものがあるのだった
数日後
雑務の処理で朝を迎えた凛梧
このまま勤務かと思うと憂鬱にもなる…が諦めるより他ない
ロッカーに寄って訓練所のシャワールームで体を流す
お風呂に入れないならせめてシャワー
そう思ったのが間違いだったのか
それとも
早朝だからと油断したのが悪かったのか
シャワールームを出た瞬間にかけられた声に
暖まったはずの体が瞬時に凍りつく
「…凛梧…?」
真正面には困惑した顔で見つめるロイ
「‥ぉ…はょ‥ござ‥ます」
絞り出た声の何とマヌケな事か
凛梧は逃げ出したい気持ちにかられていた
自分の鼓動の音がウルサイ
怪訝な顔をしたロイが近づいて来る
ダメだ と思わず目を伏せた凛梧の頬にロイの手が触れた
「初めて凛梧の素顔を見る場所がこんな所とは‥少々残念だな…おはよう」
優しく触れた暖かい唇に思わず体が強張る
「少し待っていてくれないか?朝食は一緒にとろう」
その言葉と共にパタン、と扉が閉まると凛梧の足はロッカーへと向かっていた
「なんで!?どうして見られたのよっ~!?」
悪態をつきながら開けたロッカーから化粧ポーチをロックオンして凛梧は化粧室へ向かう
完全にメイクを終えた凛梧の顔は、その前と明らかに違っている
大丈夫
今の一瞬はきっと忘れてもらえる
綺麗になった顔を見れば
そう心で何度も繰り返してロイがシャワールームから出てくるのを待つ
少しして扉を開けて対面したロイは瞳の奥で一瞬不満げな色を映すと、一度小さくため息をついた
「…‥来なさい」
「ぇ…?」
どこに?
そう聞く間もなく凛梧はロイが出てきた扉の奥に連れていかれる
脱衣所の洗面台まで引っ張られた凛梧は、鏡越しに見たロイの顔に一瞬たじろいだ
「大佐…?あの‥何を…」
「メイクを全て落としなさい」
「‥ぇ…?」
何を言われたのか理解出来ずに戸惑った凛梧の前で、ロイは洗面台の蛇口を捻りお湯を出した
白い湯気があがり、鏡を少し曇らせる
「さぁ」
促すロイの表情からは何も伺う事は出来ない
凛梧はおずおずと指先をお湯に触れさせた
「…‥できません」
覚悟を決めてお湯に触れたはずが、震える唇から漏れた言葉は真逆だった
蛇口を締めて、ロイに向き直る
向き直ってみて、改めてロイの瞳を真正面から見据えて身体が固まった
なんて顔をしているんだろうか
その戸惑いが言葉になる直前、ロイの視線が反らされまたため息が漏れる
ため息を着いた
視線を反らして
それだけの事でも凛梧の涙腺は決壊寸前だった
泣いたらアイラインが崩れる
泣いちゃダメ
そう必死で言い聞かせながら口から出た言葉は滑稽
「…パンダになります‥!」
「…‥」
ロイの顔が不思議そうに凛梧を見つめる
「マスカラとか、メイク落しがないとパンダになるんです!だから出来ません!!」
勢いをつけて言ったものの苦しい言い訳だと思う
だいたい
「‥貴方の為にしたメイクを落とすなんて…」
階級は違っても
同じ辛さを分かち合えなくても
せめて
恋人として釣り合うように
いつだって
自慢できる恋人でありたい
「何がお嫌いですか‥?」
メイクをしたら、周りの男性の評価は確実に変わった
ロイも喜んでくれてるものだと思った
色々な事が頭の中を駆け巡って涙腺が決壊する
それをロイの指が優しく拭った
「嫌いではないよ」
「ではっ‥」
「無理をしないで欲しいだけだ」
ロイの言葉に二の句が告げなくなる
「今のメイクも悪くはないが‥もっと肩の力を抜いて。大人びる必要は何もない‥君は、素顔でも十分素敵だ」
優しく微笑まれて、何かが抜けてく感覚に眩暈がする
「口紅を塗らなくても君の唇はピンクでチャーミングだし」
タオルで口元を拭われて
「マスカラなんて無くても、君の瞳は大きくて魅力的だ」
優しく瞼を撫でる指
「少し童顔なのも君らしくて可愛い」
「でも‥そんな私では、周りから見て貴方とは不釣り合いで…ー」
言いかけて、顎をクイッと持ち上げられる
「周りを気にする必要はない」
「でも」
気にしてしまう
グラマーで大人びた女性がロイに絡み付く時
自分の小ささを知る
「素顔の君は私の好みだ。それではダメなのか?」
ダメではない
「もっと自分に自信を持て凛梧」
持てたら苦労しない
メイクで自分をごまかしたりしない
「大体、君は私を勘違いしていないかね?」
「ぇ‥?」
「私の事を童顔だと言いはる人間の多いこと…君が大人びてしまったら私だけおいてきぼりじゃないか」
言われてみれば、ロイは歳の割に若く見える
が
それとこれとは別だ
「それに、凛梧がメイクを変えてから男共の視線が集中しているのも気に入らない」
ロイは少し憤慨して息をついた
「私はそう寛大な男ではないのでな」
「凛梧、私は君が綺麗だから好きなのではないんだよ。君だから‥」
優しくキスをして
「凛梧」
名前を呼んで
「ありがとう、私の為に」
もう一度キス
「だから、私の為にありのままの君でいてくれないか?」
優しい言葉が耳元で囁かれて
全部を了承は出来ないけども
小さく頷いて
「‥出来れば今夜…ありのままの君を見つめたいのだが…今日こそOKしてくれるかい‥?」
もう一度頷く他に選択肢がない事を知った
END
2009/12/19 瑠鬼