†砂糖†
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あまぁい あまぁい
角砂糖
溶けていくアタシは
貴方のトリコ
†砂糖†
ポチャン と黒い液体に沈む角砂糖
角砂糖が溶けるまでは待てるけど、流石に珈琲だけで喫茶店に長居する勇気はない
仕事が忙しい彼が約束の時間に姿を現さないのは、そう珍しい事ではないが‥
「こう立て続けにぶっちぎられるとなぁ‥」
不満も口に出したくなる
徐々に崩れていく角砂糖のザラザラ感をスプーン越しに感じながらため息をつく
約束の時間から2時間半‥
何杯目かの珈琲を飲み干して、伝票片手に席をたった
何を言われた訳でもないが、いたたまれない。
チキンな性分なのだ。
初めてロイに会った時も、その性分がわざわいしたと言うべきか‥
店を出て、一人思い出す。
急な雨に降られて雨宿りに入った喫茶店で、たまたま同じタイミングで入った彼と相席になったのだ。
店内は雨を避けた人でいっぱい
恋人と思われたのか、断ることも出来ず、とまどう私に彼はこう言った
「せっかくなんだから、少し話し相手になってくれないか?」
そうして椅子を少し引いて席を勧める彼がすごく紳士的に見えたのを覚えている
‥実際には少し意地悪な紳士だったのだけど
その日を堺にその喫茶店で何度か彼に会うようになり、付き合うようになってから今にいたる
待ち合わせの喫茶店に連絡が入らなかったのだから、彼は来る気なんだろうと、道路を挟んだ真向かいの公園のベンチに腰を降ろした
行き交う車や人の中に、私の求める姿はいない
陽が沈みかけた街中は、どこかに向かう人よりも、帰る人が多いように見えて
自分一人置いていかれているようだ
「‥寒い…」
心の寒さか、温度か思わず自分を抱きしめる
「ロイ…」
知らずに名前が口からこぼれ、堪えきれなかった物が目に滲みだす
軍人、しかも官職にある人と付き合うのがどんなに辛い事か解っていたつもりだ
だけど
「逢いたいよ‥ロイ…」
「緋憂」
「すまない」
突然降った温もり
求めていた物に涙がこぼれる
「遅い!何日すっぽかしたと思ってんのよ…っ」
「…すまない」
強く後から抱きしめられても、悪態をつく口が止まらない
「ちゃんとお洒落して、今日何しようか考えて、ずっとずっと待ってたのに!」
「あぁ」
そうじゃない
「違うのっ…」
「逢いたかったっ…!」
ロイの腕の中をギュット掴めば、更に強く抱きしめられて、頬にロイの素肌を感じてまた涙が零れる
大丈夫だなんて思ってても、案外自分なんて脆くて
「キス」
駄々っ子のような声でせがめば、優しくて熱いキスが来る
何度も何度もキスをして、自然と見つめ合って笑みを浮かべると、ロイは安心したように大きなため息をついて、隣に腰掛けた
「喫茶店に姿が見えなかったから、ついに捨てられたのかと思ったよ」
間抜けな顔に思わず笑ってしまう
コツン と頭をロイの肩に預けてそれを隠す
「自覚はあるのね」
「それはもう」
彼の手が私の手をギュッと握る
心地好い温度
「ねぇ、ロイ‥」
「緋憂」
言葉が同時に漏れて、二人で同じように小さく笑った
少しの沈黙
「緋憂‥すまない」
「なにが?」
「私はまたこうして君を泣かせるかもしれない」
「だろうね」
肯定すると彼は小さく唸って言葉につまる
そこも好き
「覚悟してるもの。貴方と一緒にいるって、そういう事だって」
解ってて傷つくのは
愛しいから
「だからもっと傷つけてくれていいの。貴方を愛してると実感するから。貴方が私に甘えてるって思えるから…だからね…-」
「やめなさい」
言葉を辿られて強い抱擁
「物分かりのいいフリはやめたまえ、緋憂」
苦しいくらい
「そんな事をさせてしまって、本当にすまない」
心地好く染み込む言葉
「緋憂、一緒に暮らそう」
「え‥?」
強い抱擁に顔もあげれず、ロイの表情は見れない
「傷つけないとは約束できない‥でも、今より君をもっと幸せな気持ちにさせてあげれる」
「幸せ‥?」
やっと顔を上げると優しい瞳とぶつかる
「マシになるんじゃなくて?」
「あぁ。同じ家で同じものを食べ、同じものを感じ…時には喧嘩をして…同じベッドで眠り、同じ朝を迎える…‥それは、幸せ以外の何かかね?」
言われたままに想像をして、思わず頬が緩む
「緋憂」
「はい」
「私と幸せを共有してくれないか?」
アタシは
貴方に溶けていく角砂糖
貴方の中に落ちて
貴方色に染まって
貴方とひとつになるの
END
2009/03/31 瑠鬼