†挑戦†
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私と貴方で勝負しましょう
いつだって勝てるのは
自分だと思わないで
†挑戦†
「失礼します」
ノックと共に入室した部下をチラリとみやり、ロイは書類に走らせていたペンを置いた
「時の雫少尉、何か用かね?」
「大佐、勝負しましょう」
唐突な言葉に、ロイの表情が一瞬固まる
「これ、人が集まらないらしくて…街の人に頼まれたんですけど、皆協力してくれないんです」
渡されたチラシを見て、ロイは時の雫とチラシを交互に見つめる
近く行われるフェスティバルの催し物で『集え!イケメン!優勝者には豪華賞品あり!?イケメンコンテスト開催!』とあった
「…イケメンコンテストに…私はともかく、何故時の雫少尉が?」
ロイには聞くまでもなく理由は分かっていた
切れ長の瞳、細身の体駆、ウルフカットされた髪は一見短く、胸の膨らみさえなければ線の細い美麗な男性に見えた
その評判は東方司令部だけでなくセントラルでも有名で、時の雫少尉のファンクラブが密かに結成されているくらいだった
「私のような者でも大佐の対抗馬くらいにはなるでしょう?」
ニコリともせずに言い放つ部下に鼻白みながら、ロイは苦笑いした
「…それに…この賞品に賢者の石に関わる物が出るとの噂もあります。あいにくとエドワードはいませんから、エドワードの為にも私たちで手にすべきではないでしょうか?」
エドワードの為にも
という言葉に多少引っ掛かったが『賢者の石』と聞いてはロイも頷かざるをえなかった
フェスティバルで賑わう街は活気に溢れていた
わざわざこの日の為に遠方からやってくる人間もいるくらいで、誰にとっても貴重な一日
そんな中、A4サイズに張り出されたイケメンコンテスト出場者達の写真
2人の写真は『軍部特別出演!』として大きく飾られていた為、嫌でも目についている
思い思いの写真に投票していく人達を遠巻きに見つめながら、ロイは小さく嘆息した
いくら賢者の石の為とは言え、なんと馬鹿馬鹿しい
「顔に出ていますよ、大佐」
「出したくもなる」
素直に不満を口にだした上司をチラリと横目にして、時の雫はテーブルの上のカフェラテを口にした
結果発表まで間もない時間、カフェで時間を潰そうかと誘ったのはロイだが、現実を目の当たりにしてうんざりしてしまっていた
「‥必ず勝てるからとの慢心ですか?」
思わぬ言葉に自ら口に運んだコーヒーカップを取り落としそうになる
「時の雫少尉‥私はそんなに、自信があるように見えるかね?」
「えぇ」
それっきり会話が途絶え、少しして時の雫が口を開いた
「‥本来なら、軍の力を使って調査しても良かったんでしょうけど…皆が楽しみにしている物をぶち壊す訳にもいきませんし‥」
賑わう通りを遠い目で見つめ、手にしたままのカップをソーサーに戻す
「エドワードやアルフォンスをこれ以上動かす訳にもいきません。あの子達はまだ子供ですよ」
いつになく真剣にロイを見つめてから、ふ、と表情を緩め
「付き合わせて申し訳ありません」
と、小さく笑った
午後になり結果発表の時間となった
ざわめく人々が取り囲む簡易舞台の上には、出場者達の姿
『厳選なる投票の結果、勝利を手にしたのはっ…!!!!』
安っぽいスピーカーから聞こえる司会者の前口上とドラムの音が響く
『軍部特別出演の時の雫少尉ー!!!!』
弾けるクラッカーと主に黄色い歓声
「‥申し訳ありません。大佐を押しのけてしまいました」
あえて小声で呟かれた言葉が一瞬、ロイを突き刺した
だが肝心なのは、自分のブライドや容貌ではなく賞品である賢者の石だ
『さぁ、優勝した時の雫少尉にはっ…‥賢者の石と誉れ高いジオール産のトマトだぁー!おめでとうっ!!』
表彰台に上がった時の雫に手渡された段ボールいっぱいのトマトは、その名誉ある称号に相応しく赤々としている
周りの羨む声と対照的にロイの心境は益々複雑な物へとならざるおえなかった
「…時の雫少尉‥それが、我々の求めていた賢者の石かね」
舞台を後にしたロイは、思わず皮肉を口にする自分を止める事は出来なかった
「出来ましたよ、大佐」
声をかけられ、ロイは渋々テーブルにつく
テーブルには、先程のトマトを使って作られたサラダとハヤシライス
時の雫がせめてものお詫びに、と自宅にて作った物だ
「まったく‥何をどうしたらトマトと鉱物を間違うのかね」
ロイの怒りはまだ収まっていない
確かにこのトマトは絶品だ
だがしかし
「‥…申し訳ありません…実は‥トマトだと知っていました」
時の雫の告白にロイはハヤシライスを口に運ぶ手を止めた
「何だと?」
「…ですから‥最初にお声がけした時から存じておりました、と」
言葉を無くして閉口するロイに悪戯っぽい笑みを浮かべ
「一度、大佐と勝負してみたくて」
ロイはため息と共に肘をついて頭を抱えた
「あと‥」
席を立った時の雫の気配を感じて顔を上げると、時の雫の唇に触れた
「大佐を、勝利の賞品としていただきたくて」
狼狽を隠しきれずロイは今度こそ言葉を無くした
「私の言葉を鵜呑みにしていただいた、その信頼は感謝いたしますが‥おかしいと思わなかったのですか?」
クスクスと笑い声をあげる時の雫を見つめながら、ロイは頭の片隅で考えた
確かに確かめる方法はいくらでもあった
が、まさかそのようなコンテストで女性に負けるとも思わなかったし、それが惚れている女性ならなおさらだ
恰好がつかない
何より、情報の真偽を疑う気にもならないくらい、彼女に惚れているということ
全てを理解して、ロイは深いため息をついた
「負けたよ、時の雫‥君の勝ちだ」
「いつでも勝てるのは、貴方だと思わないで下さいね」
自信たっぷりに言われて、ロイは小さく苦笑した
END
2009/1/31 瑠鬼