†接近†
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接近
接近
接近
それは次第に距離を詰めていって
どうしよもない場所にまで
侵入する
斬られたいですか…?
「七奈大尉、今日からよろしく頼む」
今日からセントラル勤務になったという国家錬金術師の大佐
彼に差し出された手を
私が握り返す事はなかった
「こちらこそ、よろしくお願いします。マスタング大佐」
敬礼で返して踵を返す
「大尉」
肩を掴まれ一瞬腰にさした軍刀に手をかけそうになった
「何か…?」
「君の荷物を運び終わったら、後で食事に行こう。同じ職場の者同士交流は深めなばな」
もちろん
全員で
そう付け足して大佐は去って行った
乗り気でもなかったのに無理矢理連れて行かれたバー
「俺、ジャン・ハボック。よろしく」
「ケイン・フュリーです」
「ハイマンス・ブレダ」
「すまないな。ホークアイ中尉とファルマン准尉は都合が付かなかったらしい」
円卓を囲んだ席で
大佐がそう言った
「いえ、私も直に失礼しますから」
そう言うと大佐が顔をしかめる
「…父に・・定時になったらすぐに帰宅するように言われてますので」
そう言って席を立つ
「七奈・アヴィオニクスです。よろしくお願いします」
「待ちたまえ」
止めたのは大佐
今度こそ軍刀に手がかかる
抜きはしないが抜ける間合い
「っ…背後に…立たないで下さい…・・」
背後から
気配を忍ばせて
近づく
何故斬らない?と
父の叱責が
身体にしみ付いている
「……失礼します」
「ただいま戻りました」
「遅いぞ」
私室で書類を片付けている父に告げる
父は
将軍職を預かる古株
イシュヴァール殲滅戦で功績をあげ
セントラルの軍人で知らぬ者は無い
「…申し訳ありません…」
「東方から来た者の下に付いたらしいな」
「はい…」
「それでも私の娘か…?情けない…休め」
一方的な言い方
軍人になんてなりたくなかった
家系だからと
男が生まれなかったからと
押しつけて…
「……失礼します。おやすみなさい」
扉を閉めて
自室へ向かう
いつも
いつも
父に決められている
私の行動に
自由なんて無い…
「七奈大尉。お茶どうぞ」
書類に目を通していた所へフュリー曹長がそう言った
「フュリー曹長、ブレダが持ってきた菓子がそこらにあっただろ?七奈大尉に渡してやれよ」
「そうですね」
穏やかな調子で箱をこちらに向けたフュリー曹長
「結構ウマイッスよそれ」
そう言ってハボック少尉の手が伸びる
「ダメですよ!」
「いいじゃんか!どうせあまってんだしよ」
困惑した
どうして
「…どうして…?」
「何がですか?」
フュリー曹長が首を傾げた
「私…昨日……あんな失礼な態度で帰ったのよ…?」
「「そんなこと」」
二人の声が被る
そんな事?
いつもは
そんなきり返し方してこない
声もかけてくれないで
将軍の娘だからお高く止まって、と
嫌味も言われて
男は
父の地位だけに惹かれてよってくる
「そういう風に気にしてるって事は『悪い事した』って認識があるからでしょ?それに昨日の大尉、スッゲー痛そうな顔で俺等拒絶してたし…嫌な人には見えないッスよ」
煙草を咥えて少尉が言った
「そうだ!良かったら、お昼をみんなで食べにいきましょうよ!」
「いーねソレ」
「え…あの…」
「昨日の埋め合わせですよ。もちろん、来てくださいますよね七奈大尉?」
何の下心も無い
純粋な笑顔
「フュリー曹長、大佐に伝えて来いよ。喜ぶぞ」
「でも、まだ大尉の返事をいただいてませんよ」
言ってもう一度こちらを見る
「何か都合でもあるんスか?」
「…得には…」
「じゃあ、いいでしょ?」
いつの間にか至近距離にハボック少尉がいる
「セントラルに着いて日も浅いし、どっかおいしそうな店紹介してくださいよ」
「…解りま………父さん…」
少尉の背中越しに父の姿を見た
「…アヴィオニクス将軍、このような所に何かご用ですか…?」
この部屋にいる人間の中で地位の高い者は自分しかいない
咄嗟に起立して敬礼する
「…ロイ・マスタング大佐はどこかね?」
「大佐は…こちらでなく執務室だと思われます。ご案内いたしましょうか…?」
聞くと父は片手をあげてそれが不必要な事を知らせる
「七奈」
「・・はい……」
「お前は誰の娘だ」
疑問系の音にない質問
「アヴィオニクス将軍の一人娘です」
「…解っているならそれでいい」
言って父が去って行く
それを確認してからハボック少尉が口を開いた
「どういう意味っすか…?」
「…昼に行く店、地図を書いておきますから皆さんで行って下さい」
「大尉!?」
紙を手に取ってペンを走らせる
何も聞かない
何も聞こえないフリをする
「どうぞ」
手渡した紙がくしゃりと音をたててハボック少尉の手の中で潰れた
「俺、大尉と一緒じゃなきゃ行きませんよ」
「…僕も…遠慮します」
それぞれがあいまいな表情を浮かべて自分のデスクに戻る
「・・何で…どうして…そんな事言えるの……?」
「大尉が好きだからにきまってるじゃないですか」
ハボック少尉が呟く
「やっぱり…一緒に仕事する仲間とは仲良くしたいですよ」
フュリー曹長が言った
「俺はそーゆー意味だけじゃないけどよ」
「どういう意味か聞かせてもらおうかハボック」
こちらが聞くよりも早く違う声が問うた
「うげっ…」
ハボック少尉が小さく唸った
「大佐…どうかなさいましたか…?」
聞き返すのもばかばかしい
きっと
父に言われた嫌味を返しに来たに違いない
いつもの事だ
「いや…昼食を一緒にどうかと思ってね」
「は?」
思わず聞き返す
「昨日すっぽかされた訳だし、私としては…こうして君の背後に立ってもその軍刀に手をかけられない関係になりたいと思っているしね…」
回り込まれて
反射的に伸ばした手を掴まれ
その手の甲に口付けられる
「……困ります…父になんと言われるか…」
自分でも珍しいと思うほど弱気な声が漏れた
「君の父上には伝えておいたよ…七奈は私がいただきます…とね」
「なっ!?」
反射的にその手を振り払って大佐の顔を睨み付ける
「ずるいッスよ大佐!!」
「ははっ!早いもの勝ちだ少尉」
勝ち誇ったように言って勝手に話が進んでしまう
「待ってください!本当にそんな事言ったんですか!?」
「あぁ…言ったとも。父上には『実力を見せたまえ』と言われたがね」
笑い事じゃない
父に
また
怒られる
「そういう冗談は辞めてください」
「冗談なんかじゃないさ」
間をおかずして大佐がいう
「私は本気だ。覚えておきたまえ」
顎を掴まれ
抜いた軍刀をこちらと大佐の間に差し入れる
「それ以上近づくと斬りますよ」
「それは困る…」
苦笑して言うが彼は手を離さない
「で、昼食の件の返事を貰ってないな」
「お断りします。父の名誉に関りますので」
言ったとたんにハボック少尉の笑い声が響いた
「ふられましたねぇ大佐」
「む…」
低くうめいた大佐と距離を置いた時、扉をノックする音が響いた
「失礼。アヴィオニクス将軍より、お嬢さんをお連れするよう言付かってまいりました。アレックス・ルイ・アームストロング少佐であります」
「お久しぶりです少佐」
こちらが会釈すると満面の笑みで手を引いた
「ささ、父上がお待ちですぞ。昼食をご一緒にとの事だそうで…親子水入らず!!なんとも素晴らしいっ!!」
暑苦しいその顔に滝のような涙を流しながら彼は私を連行した
さて
何を言われるかはともかく…
父の前に恋人を突き出すのも
そう
先の話ではないようだ…
接近
接近
接近
彼等は少しずつ近づいてくる
そして
その手を握り返すのは…
もう少し後にしよう
まずは
実力を見せてもらわねば…
END