†鎧の中身†
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
僕と彼女が出会ったのは
兄さんと離れて行動していた時
賢者の石の情報もまたガセに終わり
兄さんが東方司令部に顔を出しに行ってた時だ
その日の夕方
僕は兄さんの鞄を持って
いつもの宿に向かっていた…
「きゃぁぁっ!!!?離してっ!!」
裏路地から突然上がった悲鳴に、アルは全力で駆けて行った
黒髪の少女が屈強な男に絡まれている
「いーじゃねぇか?俺達が道案内してやるって言ってんだ」
「そーそ。悪いようにはしねぇーって」
「ちょーっとイイ事させてくれりゃいいんだってば」
口々に言っては笑い合う男達
普段ならここでエドが飛び出すのだが
あいにくとエドはいない
しかし
アルもこういう光景を黙って見逃すほど愚かではなかった
「ちょっと、辞めなよ」
「あ゛ぁん?」
「なんだ?邪魔すんなって!!」
そう言ってアルを取り囲み、一人の男が鉄棒でアルの頭を叩き落した
一瞬にして男達が固まる
「ば…化け物っ!!」
そして次の瞬間には口々に叫んで逃げ出していた
転げ落ちた頭部を拾いながらアルは苦笑した
といっても胸中に留まるが
ふと見ると、正面の少女はいまだへたり込んでいる
早々に立ち去らないと次なる悲鳴があがる
そう思って踵を返した時だった
「…あの…どなたかわかりませんが…そこの・・鉄を纏ったお方…・・申し訳ありませんが、杖を取って頂けませんか?私…目が見えなくて…」
少女の呟きに、アルは慌て落ちていた杖を拾った
「危ないところをありがとうございました。あの…」
ペコリと頭を下げ、少女は少しだけ困ったような顔をした
「…大変失礼な事とは思うのですけど…お聞きしても宜しいですか?」
「なんです?」
アルも小首を傾げながら言う
まさか
こんな事を言われるとは思わなかったが…
「その鎧…中にどなたもいませんよね…?」
「え…」
一瞬言葉を失うアル
「ごめんなさい!!あの…さっきから音が…中身の無い音をしているもので…でも、鎧が勝手に歩くなんて…」
狼狽する彼女に一言アルが口を開きかけた時だった
「お嬢様!このようなところにいらっしゃいましたか!!」
若い男が少女の元に駆け寄った
「シュバイツ!」
「どちらへ行かれたのかと心配しました…・・こちらの方は?」
「先ほど危ないところを助けていただいたの…えっと・・御名前は…?」
「あ…えっと、アルフォンス・エルリックです!」
アルは慌てて名乗った
横に控えた男が睨み上げるような瞳で自分を見ていたからだ
「アルフォンス様…申し送れました。私はとも・フォン・セブラッシュと申します。こちらは私の付き人のシュバイツ・ミゼルト」
シュバイツといわれた男が一礼する
「よろしければ、私の屋敷に来ていただけませんか?先ほどの御礼を…」
「せっかくですけど・・兄が心配するので…」
「そうですか…」
ともは少し残念そうな顔をして、ふと笑顔を作った
「では後日、お兄様もご一緒にいらしてください。私の屋敷は、東方司令部から少し南にいったところにあります」
「はい」
アルが二つ返事で頷くと、ともはまた笑顔を作り一礼した
「では…またお会いできるのを楽しみにしております」
上品な言葉と共に去って行くともに、アルは半ば見とれていた
翌日、アルはエドを伴ってともの屋敷に向かった
大きな邸宅に一瞬たじろぐものの、
門番がシュバイツに連絡を取り、
中に入った頃には落ち付いていた
「アルフォンス様!お待ちしていました!!どうぞこちらへ」
応接間に通されたアル達を迎えたのはともの満面の笑みだった
「『アルフォンス様』だってよ」
笑いをこらえるように言ったエドに気付き、ともはエドの前で一礼した
「初めまして、お兄様。とも・フォン・セブラッシュと申します」
「えっ、あ…エドワード・エルリックです!」
慌てて答えたエドに返事を返したのはともでは無かった
「失礼ですが…あの・・国家錬金術師のエドワード・エルリック様でいらっしゃいますか・・?」
聞き返したのはシュバイツ
「まぁ…そうでしたの?そうとは知らず失礼したしました。シュバイツ、エドワード様を是非我が家の書庫へ。お連れしたがってたでしょう?」
そう言ってくすりと笑うと、エドに向き直った
「シュバイツも錬金術をたしなみますの。よろしければご教授願えませんでしょうか…?」
「え…あ・・俺でよければ…」
至近距離で言われ、顔を赤くするエド
「では、どうぞこちらへ…」
シュバイツに促され、廊下を歩いていくエドを見送り、アルはともに向き直った
「アルフォンス様もご一緒されますか?」
聞かれてアルは一言断りを入れた
「では、私の話し相手にでもなってくださいませんか?」
笑顔で言われたアルは、一瞬たじろいだ
自分の正体を知っても
彼女はこんな風に笑ってくれるのだろうか…?
「アルフォンス様…?どうかなさいました…?」
手を前に差し出してゆっくりとアルの鎧に触れる
「…先日、言いましたよね…この鎧の中身が無いんじゃないかって…本当に・・無いんです…」
「え…」
不思議そうに顔をあげたともに、アルはこれまでの事を全て話した
母を練成しようとした事
軍の狗になった事
賢者の石を探している事
そうして全て話し終わった頃には、ともの瞳から涙があふれていた
「…ごめんなさい…そんなお話を聞き出してしまって…」
「僕が話したかっただけですから・・」
アルは必死でともの涙を止めようとした
まさか
泣かれるとは思っていなかった
怖がられたり
軽蔑されるんじゃないか
そう思ってた
「お辛かったでしょうに…身体を失うだなんて…」
「僕が怖く無いんですか?」
「いいえ」
「どうして・・?」
アルは思わずともと目線を合わせるようにかがみ込んだ
「身体がなくても…貴方様の心はこの鎧の中にございます。お優しくて…温かい心をアルフォンス様がお持ちだからです」
ともが涙目のままそっとアルの頭部を両手で挟むと、額に口付けた
「アルフォンス様の苦しみが、1日も早く解けるようお祈り致します」
「ありがとうとも…」
照れくさそうに名前を呼んだアルにともは微笑む
「やっと呼んでくださいましたね…アルフォンス様」
「え…うん…そうだね…ともも、アルでいいよ」
「…呼び捨ては不慣れですので…」
「ゆっくりでいいよ」
そう言ってアルは胸中で微笑んだ
それに呼応してか、ともの頬も緩んだ
こうして出会ったのは
随分昔の事
今は
彼女も僕を『アル』と呼んで
彼女の屋敷の庭でお茶を飲む
もちろん
僕も一緒に
「アル?考え事?」
「君と出会ったときの事考えていた」
「嬉しい」
そう言ってアルの隣で微笑む
「ねぇとも…」
「何?」
「僕と…」
「うん」
「結婚しよう」
鎧の中身は今も変わらない
からっぽだった頃も
身体を取り戻した今も
僕の心は
変わらない
END