murderous love
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「…っ‥!……イっ!!」
誰かに呼ばれた気がしてうっすらと目を開けた
「ロイ!しっかりしてっ…目を開けてっ!!」
泣いているのは‥
誰…?
「ぁ‥リシア…」
「‥っ!?ロイっ‥良かった…」
安堵の溜息を付く彼女の儚気な表情が
何か言葉を紡がせようとする
「人を呼んだからっ…」
「アリシア‥」
「‥何?」
こちらが血まみれなのも構わず
必死にしがみついて
あぁ‥
兄を亡くしたから
俺も亡くすんじゃないかと
不安になってる
.
「何?どうしたの‥?」
涙を浮かべた瞳で、彼女がこちらを見つめる
「俺は‥君を置いて…死んだりはしない」
「え…?」
「君の兄さんよりも、君の事を愛してる」
驚いたように目を見開くアリシア
「…冗談でしょ‥」
「瀕死なのに冗談が言える訳がないだろう?」
失血量が多いのか、頭がぼぉ…とする
理性なんかの歯止めもなく
言葉が自然と口を付く
「…‥悪い冗談にしか聞こえないわ‥本気なら、ちゃんと生きてて…」
「そうだな…」
呟いて
一度だけ目を閉じた
.
目を覚ますと白い壁
「ロイ‥気がついた…?」
「手‥ずっと…?」
「あ…うん‥」
慌てて握り締めていた手を離し少し頬を赤らめ前髪を梳く
アリシアが困った時に見せる仕種
「私、そろそろ行くわ‥貴方が眠っていた間に予告が来てたの」
「俺はどれくらい…?」
「丸一日」
アリシアはクスリと笑って立ち上がり
扉へ向かって足を進めた
「上層部が、貴方に護衛をつけると言ってきたわ」
「ほぉ…」
「昼間はハボックが、夜はリザが着くから」
「それも君が?」
「…さぁ?」
小さく笑って、アリシアは扉の向こうに消えた
自分が負傷している時に身を任せる相手は、やはり気の知った者の方がいい
彼女の気遣いは有り難い以外の何物でもなかった
そして
アリシアが病室を出たその日
アリシアは失踪した
上層部は
サキュバスを追って殺されたとして事件を処理し
サキュバスの逮捕と
アリシアの遺体捜索を
一任された
それを部下から聞いたのは
退院直後となる
一週間後の事だった‥
.
アリシアが消えた
失意のまま現場復帰した私は、ハボックを引き連れて哨戒に当たった
事件があったというのに
相変わらず街は酷く賑やかだ
「少佐‥ホントに出るんですか?」
煙草をくわえたままハボックが言う
「出る。いいか、ブルネットの髪の女だ」
それだけ告げてハボックの元を去った
アリシアを取り戻したい
頭の中はそれだけだ‥―
『‥っ佐…少佐っ!』
ハボックからの無線
『ザザ…出‥た…ザ‥…サ…バスっ‥…ブツッ』
.
ハボックからの無線が途切れた
電波障害なんて事もなければ、故障なんて事も無い
一つの確信を持ってハボックが受け持っていた区域に向かった
「ハボックっ!!」
叫んで曲がった角を飛び出す
視界の先にはハボックの腹の上に乗った女の姿
躊躇う事なく発火布を擦った
と同時に、女が空中を凪いだ
一瞬にして巻き起こった風と錬成反応
空気中の酸素量が変化し、不発に終わる
「っ‥!?」
「…逢いたかった‥やっと見つけてくれたのね‥ロイ」
.
ゆっくりと
女‥サキュバスがこちらへ足を進める
以前会った時とどこか違うように感じる
ドレスも仮面も変わってはいない
「どうかした?」
口元に艶っぽい笑みを浮かべて、しなやかな腕をこちらにに絡ませた
「いや‥『逢いたい』と思ってくれてた事に驚いただけさ」
「どうして?」
「瀕死にされた相手の開口一発目がそれじゃあね」
「これでどう?」
背伸びをしてこちらに口づける
「‥信じてくれる?」
仮面の隙間から覗いた瞳が真剣に訴えていた
「君は‥―」
「大佐!!」
ハボックの声で我に返る
「不粋な人ね…殺しておけば良かったかしら‥」
サキュバスが不満気な声をあげ、ハボックを振り返る
スッ、と手を上げクルリと指を旋回させた
途端、ハボックの持った銃が鮮やかな断面を見せて地に落ちる
「暫く黙っていて下さるかしら‥?」
ウットリとした笑みを口元に浮かべた
手の動きに合わせて、腕にした銀のブレスがシャラリと音を奏でる
その瞬間を
ただ
見取れていた
そして、そのブレスに刻まれた錬成陣を見つける
伸ばした手
錬成反応
慌てて手を伸ばす
.
「邪魔しないで下さる?」
目標とは別の所に当たる風の刃
「私に会いたかったのだろう?他に気を移さないでくれ」
ハボックに目線だけで合図し、サキュバスに口づけた
「貴方が言うならそうするわ」
首に手を回し胸に頬を擦り寄せる
ハボックが行ったのを確認して、サキュバスをしっかりと抱き締めた
「…アリシア‥」
確信を持ってその名を呼ぶ
最初に会った時はブルネットの髪
今日は金髪
嗅ぎなれたアリシアの香水の匂い
「ロイ‥貴方なら気付いてくれるって信じてた」
.
「アリシア‥」
そっ、と仮面を外すと
娼婦らしいメイクをしたアリシアの顔
「何故‥サキュバスなんかに化けている…」
「違うわ、ロイ」
解ってる
「質問が間違ってる」
解ってて
聞きたくない
「何故‥」
「止めろ」
「何故」
「アリシアっ‥」
「軍人を殺した」
目線は反らせない
反らしたいのに
彼女が捕らえて離さない
「アリシア‥どうして…」
「私も最初は気付いてなかったわ…兄さんを殺した時に気付いたの‥」
.
まるで夢遊病ね。と
自嘲気味に彼女は笑った
「私を抱いた兄さんが気付いたのよ‥自分は今、本当に妹と寝たんだって‥」
「アリシア…もういいから‥」
抱きしめると、小さな抵抗にあった
「お願い、聞いて‥貴方に聞いて欲しい…」
「アリシア…直にハボックが増援を連れてくる‥逃げるんだ。逃げて、何も無かった事にするんだ」
自分でも何を言ってるのかと驚く
「兄さんと同じ事を言うのね…死に際、貴方と同じ事を言ったの‥『逃げろ、何も無かった事にするんだ』って…」
彼女が苦笑する