murderous love
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「あなたの心配は有り難く受け取るけど…こんな仕事、早く終わらせたいのよ」
彼女の口から仕事に対する不平が出たのは、初めてと言っても過言じゃ無かった
殺人事件を処理するのは初めてではないし
何より軍人家系のアリシアは軍から与えられる仕事にはどんな物でも誇りに思うように幼い頃からキツく言われていた
それほどまでに兄の存在が大きかったのか‥
「ねぇ、ロイ…」
物思いにふけっていたこちらには気づかない様子で、アリシアがふいに名を呼ぶ
「何だい?」
「どうして娼婦がいると思う?北では娼婦を公務員として雇うと聞いたりもしたわ」
「‥何故、急にそんな事を…?」
「仮面娼婦…高級娼婦といえど、所詮は男に身を売って生きていく女…快楽を得る為にそれを買う男‥」
身も蓋もない言い方に二の句をつげないでいると、アリシアは苦笑を浮かべて冷たく笑った
「貴方達は寂しい生き物ね…」
唐突な言葉に更に息を飲む
哀しいと、憐れだと言うならば理解も出来た
「寂しい‥?」
そう問われる事を予想していたかのようにアリシアは頷く
「孤独を埋めようとして他人を求めるんでしょう?」
「‥君は…違うのかい…?」
恐る恐る問いかける
「私は…求めないもの」
「…そうか」
空しさを感じ
ただ、そう同意した
「アリシア、そろそろ犯行推定時刻だ」
「‥そうね。行きましょう‥見つけたらすぐに捕縛して」
互いに予定されていた哨戒区域へ駆け出す
「ロイ!‥…気をつけて」
「あぁ、君の方こそ」
一度だけ彼女は笑って駆け出して行った
いつからだろう
彼女が儚げに笑うようになったのは‥
そんな事を考えながら、最初に目星を付けた場所へと走り出した
.
地図に×をつけながら駆け回って暫く経った頃
一度大通りに戻ってきて収穫がなかったことに一人ため息をついた
通りの人間の変化のなさから、未だ事件は起きてないのだと少し安心する
その反面、今頃どこかで殺人が行われてるかと思うと気が滅入るのも事実だった
「貴方‥軍人?」
女の声に呼び止められる
こんな雑踏の中
どうして
その声にだけ反応したのか
どうして
立ち止まったのか
振り返った今でも解らない
「軍人サン?」
問い掛けた女の声は艶のある柔らかい声で
その声に見合う肢体と
黒髪が
意識を奪う
「私を探してたんでしょ?」
上品な笑いを口元に浮かべ
その仮面娼婦は言った
「…捕まえてみてよ」
言葉と共に路地へ走る姿を即座に追い掛ける
何て足の速い…
息を乱しながら頭の隅でそんな事を考えていた
高級娼婦という事もあってそこらの娼婦のような安っぽい衣装は着ていない
身体のラインを忠実になぞる細身のドレス
足に纏わり付くハズのそのドレスも
彼女の前にはただ、彼女の肢体を彩るオプションの内の一つにしかならなかった
「袋小路だ‥大人しくしろ」
発火布を手に構える
「追い込んだと思って?」
「?」
「私がここに誘導したのよ‥貴方に色々聞きたくてね」
「私に何を聞こうと言うんだね?」
聞いても女は妖艶に笑うだけだった
「どうして抱くのかしら?」
「え?」
「どうして愛も無いのに抱けるの?」
それは先刻アリシアに問われた言葉
言葉こそ違えど
その意味は同じ
「さっき貴方の恋人が聞いてたでしょ?」
女はまた艶のある笑みを浮かべた
「ねぇ‥あの子以外の女も抱くの?」
トンッ、と羽の様に軽く踏み出した一歩
その一歩で距離を詰め
こちらに絡み付く
「彼女はそんなのじゃない」
「あら‥じゃあ私にも望みはあるという事かしら?」
「君がまっとうに生きてくれるなら」
.
そういうと彼女はまた笑った
「誰でもいいの?」
「誰でもいいのは君の方だろ?」
「違うわ」
彼女はまた同じ様に地を蹴って後方に下がる
「男が誰でも良いと感じているから私達がいるの」
痛々しいような
思わず抱き締めたくなるような
そんな声色
「哀れね」
一言
「だから私が救ってあげるの」
口元に笑みを浮かべたその顔は
もはや殺人鬼以外の何者でもなかった
「昨日の男は笑いが出る程哀れだったのよ?」
ひとしきり笑って女はそう言ったのだった
.
「ねぇ‥貴方信じれる?実の妹を本気で愛してたんですって」
昨日の男というのは
間違いなく
アリシアの兄
「私がその妹に似ているからって‥フフッ…『君が殺してくれるなら本望だ』って言ってね」
何と言う事だろう
その言葉に思わず声を無くした
アリシアの兄は真面目で、冷静で‥エリートと呼ぶに相応しい人柄だった
だから
まさか
仮面娼婦に扮装した殺人鬼に殺されるなど
信じ難かった
なのに
こんな事があるなんて‥
「哀れね‥だから私がその願いを叶えてあげたの」
「あの人は」
「そんな人じゃないって?」
辿られたセリフ
「そんなくだらない先入観…何のアテにもならないわ‥」
短い沈黙と溜息
「‥貴方…やっぱり他と変わらない‥サヨナラ」
鮮やかな唇が弧を描いたと同時
何かが
空を切った
「っぐ‥!?」
瞬時に切り裂かれた体
何が起こったのか理解できないまま、体がバランスを無くして膝をつく
「また次の夢でお会いしましょ?‥出来るならね…」
それが最後に聞いた言葉だった