†Cloudy sky†
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
怒号と罵声と悲鳴
それらをあげて死に至る者達は幸せだ
地獄絵図を現実世界に転写したような
神がいるなら
今救いを差し延べてもらいたい
そんな
現実
最初に母が逝った
意思を持つかのように迫る焔
しがみついた手を振り払われて
突き飛ばされた痛みと同時
文字通り消し炭になった母のカケラが頬を撫でた
どうせ死ぬならと父を追った
離れで戦う父を見つけた時、乾いた音のする焔に飲まれた
一瞬、現実を受け入れきれなかったであろう兄は
雄叫びと共に男に銃を向けて燃やされた
あたしは
足がすくんで動けなかった
遠くから
黒髪のあの男を
睨みつけていた
弾かれたように体が跳ねて荒くついた息と煩く打つ鼓動が世界を支配する
見慣れた天井に感覚を取り戻して大きく息を吸った
あの日を夢に見るのは久しぶりで、先ほど溜めた空気を吐き出すと同時に苦笑が漏れる
過去を清算する事など出来ない
でも
未来を紡ぐ事は出来る
そう思ってこちらに帰ってきたのだ
だからこそ食事にも応じた
しかし
その結果がコレとは‥
ため息と共に寝室を出れば、リビングのソファに体を預ける男の姿が見えた
食事の後、場所を変える為に自宅に戻って
自分でも何故この男を部屋に連れてきたのかよく解らない
ただ
この男の本当の心を覗きたかったのかもしれない
「…大佐、起きて下さい」
肩を揺すれば彼は小さく唸って薄く目を開けた
一瞬
一瞬だけ
心臓が強く脈打つ
「‥おはよう、アズサ」
「おはようございます」
ゆっくりと起き上がり、彼は眠たげに目を擦った
そして私を見つめると満足そうに微笑む
「‥何か…?」
「いや、何でも」
それでも口元はニヤついたまま
「…何か食べますか…?」
いごこちの悪さにそう聞き返せば、彼は黙って首を振った
「いや、一度帰るつもりだから自分で何とかするよ」
泊めてもらったのだからね
そう付け加えて彼は立ちあがった
「洗面所だけは借りるよ」
「どうぞ」
タオルを取って洗面所へ案内しながら横目で彼を追う
許そうとしていない自分
片付けてしまいたい自分
その中で一つの道しるべを見つけれたと思っていたけども
どこかで違和感を感じてる自分がいる
不安…なのかもしれない
この答えが合っているのか
答え合わせするものなど何もないというのに
貴方が・・どういう人なのか
これからどうするべきなのか
それを
私自身の目で
見定めます
そう告げた時の穏やかな瞳が何度も脳裏をかすめる
『では、私の傍にいてくれ』
―君が…
「君が・・私を生かすべき存在であると認めてくれるよう、私も努めよう…」
「どうかしたのかね?」
突然の声に体がビクリと跳ねる
無意識に昨日の言葉を呟いていたのだ
幸いにも彼に聞かれてはいなかったようで小さくため息をつく
「いえ、何でも」
「そうか…それじゃあまた司令部で」
上着を羽織って玄関口へ向かう彼の背中を見つめながら
自分でも意外に面倒な選択をしたのだと
初めて思った
それが
今後
どんな結果をもたらすのか
知るよしも無いまま
久々の司令部への出勤
大佐がうまく取り繕ったのか、特に誰からも追求はなかった
適度な雑務と訓練と大して意識するべきでもない事件の処理
そして
何かにつけて彼の回りに同伴させられ続ける日々
そんな時間だけが流れて
いつの間にか
一年の月日が流れていた
そして今日は
セントラルの墓地への同伴
私は未だに
ロイ・マスタング
という男を
見計れずにいる
「アズサ中佐」
呼び止められ
彼は一つの墓の前で立ち止まった
持ってきたカサブランカの花束をそこに置くと、奴は今までに見たことのない感傷を浮かべて静かにため息をついた
誰の墓か
そう聞くのを躊躇うような空気の中
口を開いたのは奴の方だった