†Ripple†
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里が落ち着きを取り戻すのに約1ヶ月半
報復の報復が愚かしい事を知りながら、和平交渉に応じなかった対抗勢力を沈黙させ、望む者を里に迎えいれた上で立て直したにしては、随分短かった気がする
もう、情勢が危うくなることはない
そう言ったケイヤは、肩の荷が降りたようでもあった
「お前は、どうする…?」
ふ、とケイヤに問われて気づく
先伸ばしにした決断を今しなければならない事に
「…大陸に帰る‥でも、その前にレンヤと話を‥帰るのは、全て片付けてからだ」
そう言ってケイヤに背を向けて、あの場所へ向かう
暮れかけた陽射しに目を細めれば、木陰に腰を降ろすレンヤの姿が見えた
一瞬、心臓が大きく跳びはねたが、すぐに寝ているのだと分かった
「レンヤ‥隣……座るよ」
返事を待たずに隣へ
陽に当てられて朱く映る顔に言葉を告げなくなる
心の中で、ハヤテを求める気持ちが止まらなくなって、それをレンヤに求めてる自分が警報をならす
ゆっくりと頬に手を伸ばせば、伏せられた瞼が薄く開かれ、そして彼の手が私の手を捕らえた
「アズサ…」
耳朶をうつ声が全身に響く
「おいで」
手を引かれて、抵抗も出来ずに抱きすくめられる
ハヤテと同じ暖かさ、匂い全てがハヤテのそれを思い出させて苦しくなる
「っ‥レンヤ…」
苦しくて名を呼べば、レンヤは一層強く抱きしめられる
「アズサ、ハヤテは…お前を深く愛してた…‥それだけは忘れるな」
顔を上げれば突然のキス
問う間もなく彼は姿を消した
それ以来
彼は
一度も姿を現す事はなかった
あれが別れの挨拶だと知ったのは
大陸に戻る日の朝だった‥
レンヤとの別れ方を思えば、複雑にならざるおえなかったこちらの心境を差し置いて、あれよと言う間に大陸へ
暫く空けていた部屋は埃を被りつつあったが、気分転換も兼ねて掃除をすれば、思った程時間が経ってない事を教えてくれた
西日が沈みだした頃、やっと一息つく事が出来、コーヒーを入れたマグを片手にソファーへ腰を下ろした
明日から出勤
まだどんな顔をして会うか決めていない
殺せない、という気持ちは理解出来ても、許せない気持ちのやり場と今までの時間をどう整理したら良いか…
いっそ部屋の様に雑巾で拭いて水に流してしまえるなら楽だと思う
「ため息ばっかだ…」
冷めてしまったコーヒーを口に含むと、胸中と同じく苦みが広がった
もう一度ため息をつきかけた時、遮るように部屋の扉が叩かれた
「やぁ」
扉を開けて飛び込んできたのは見慣れた童顔の私服姿
「今日帰ると手紙を入れてくれただろう?食事でもと思ったんだが、暇かね?」
あまりにも綺麗に笑うから、言葉を数秒無くした
断る理由も無かったし、向き合うべきだとも思ったから、支度をすると言って一度扉を閉める
部下としての義務だと思い里を発つ前に入れた手紙
まさかそれ以上になると思いもしなかった、というのが本音
諦めを伴い、最低限の準備をして再び扉を開ける
「…お待たせしました」
複雑になる気持ちを抑えて彼の前に立つ
「その方がいい」
「ぇ‥?」
「キモノの君も似合うが、やはり洋服の方がいいな」
突然満足げに頷き、彼は「行こうか」と足を進めた
私の気持ちが整理されたからかもしれない
今まで見てきたこの男に
あの時に感じた悍ましさは
本当にあったのか?
今までの像が揺らぐ事に恐怖はない
ただ
それを受け入れた時
これからの私は?
就任した時に来た場所とは違い、家庭的な料理が並ぶレストラン
予め用意されていたかのような店奥のテーブル席は、愛を囁きあう恋人達の為に作られた物だとすぐに分かった
一目でオーナーの人柄が解るような優しい盛り付け
会話の邪魔にならないように見計らって出される料理に心が乗せられていく
疲れていたせいか、アルコールの回りが早い
自分が彼に聞かれるまま自分の事を話しているので気がつく
こんなに心を緩めたのは料理とアルコールのせい‥?
「…‥少し、酔ってしまったみたいです」
牽制を込めて呟くと、彼はすぐに水を店員に頼んでくれた
「…何か、ご用があったのでは‥?まさか、私の好みや知識を知る為だけに誘って下さった訳ではないでしょう?」
運ばれてきた冷たい水が胃を冷やすと同時、アルコールが浸透した頭も覚醒する
「いや、ただ食事に誘いたかっただけだ」
まさか
そう口にしようとして言葉が喉元で詰まった
真剣に
少しも揺るがない瞳が
こちらを
見ている
幾重にも重なる波紋のように
心がざわめく
「食事をしたくらいで君の気を引こうとしてる訳じゃない…ただ、こうして君と何気ない話をしたかっただけだ」
"やめて"
あの日の私が、彼の瞳に射抜かれた水面で叫んでいる
「アズサ」
守りに徹したこの心を
「君をもっと知りたい」
こじ開けられたくないのだと
「っ…」
思わず声に出かけて唇を噛み締める
でもそれは
いつかは向き合うべき
私の姿なのだ