†First murder†
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「Master…起きてますか…?」
「何だ」
蝋燭の光を頼りに読書をしていたハヤテのすぐ背後の襖を開けてアズサは部屋に入った。
「お前がそうして俺の名を呼ぶ時は差し迫った時だと記憶しているが…?」
振り返りもせずハヤテが問う
「……ハヤテ…私を…・・抱いて…」
「っ!?……正気か…?」
流石に驚いた様子のハヤテにアズサは尚も続けた
「ハヤテに抱かれたいの・・明日…なんでしょ…?ツイネ婆から聞いた…」
「でもお前…俺が触れただけで震えるのにか…?」
未だ軍人達になぶられたという記憶は消えていない
「ハヤテなら大丈夫だと思う…」
「……抱けない」
「どうして?…こんな身体だから…?」
「違う!」
語気を強めたハヤテのセリフにアズサの肩がビクリと震える
「辛くなるだろうが・・」
吐き棄てるように言ったハヤテの背中から
アズサは腕を回した
キスから先はくれない
愛してるといわれた事もない
「私は…構わない…」
「・・後悔…しないな…」
「しない…ハヤテは・・?」
「お前がいいなら…」
少しの沈黙
「後悔なんてしない」
「そうか」
言って蝋燭を吹き消す
「一度も…一度もいってやらなかったな…アズサ、愛してる…」
「嘘でも…うれしい…」
アズサの頬を一筋の涙が流れる
ハヤテはそれを唇で拭ってからアズサの唇に触れた
最初で最後の夜は
こうして
更けていった…
朝
静けさと冷ややかさを纏った森に
ハヤテと
アズサは立っていた
「アズサ…身体は辛く無いか…?」
「2年前の初日に比べれば何とも…ハヤテは…?」
「支障無い」
「そう…」
一呼吸だけの沈黙
それが双方にとってどんな意味を持っていたのか…
知る者は他に無い
陽が山陰から上り
鳥達が朝を告げて飛び回る
「アズサ」
「はい」
「最後の修行だ」
「はい」
「俺を殺せ」
「……」
「できなければお前を殺す」
「Yes,My master」
同時に地を蹴る
よそ者を一族に迎え
智を与えた時
正式にソレを『仲間』と見とめる為に
師を殺すという通過儀礼があった
師を殺し
師を越える事が
師に対する恩に報いる方
里の古き教えだった
―カキィン―
静かな森に刃の弾ける音が響く
アズサの左から振り上げたクナイを、ハヤテが弾き返した音だった
アズサは弾かれたクナイを素早く引き戻し
ハヤテの懐に一歩忍び込むとその咽元を狙ってクナイを刺す
「っ…!!」
その一撃を逃れる為に体制を低く落としたハヤテの掌蹄をもろに腹に受け、アズサは苦鳴を漏らした
一歩後退したアズサに容赦なく追撃をかけるハヤテ
クナイで左右に振りまわしながらアズサを追い詰めクナイを叩き落す
「っあ!?」
がら空きになった腹に向けてハヤテは回し蹴りをお見舞いした
何とかギリギリの所で肘を足の間に割り込ませるものの、勢いは殺せない
そのまま無様に転がって行くのをハヤテは酷く冷めた目で見つめていた
「その程度か…?」
眩暈を起こしながらも立ちあがったアズサに冷たく言葉を投げかける
もう一度腰に忍ばせておいたクナイを握った時、ハヤテの手から針が投げられた
暗殺用の針
それを正確に撃ち返し、狙いを変える
同時に一歩踏み出したアズサの正面にハヤテの冷たい瞳が映った
「遅い」
ボソリと耳元で告げられ右肩に激痛を感じた
ハヤテの針が右肩を貫いている
「っう…」
唸りながらも片膝を上げ、ハヤテの腹部に蹴りを返して距離を取る
右肩の感覚をマヒさせられ
アズサの右肩がだらりと垂れ下がった
利き腕を狙わなかったのはハヤテが手加減している証拠
アズサは心の内で歯噛みした
「その程度か?」
最初の質問と同じ言葉
「その程度であの男を殺せるのか?」
冷たい瞳
「笑わせるな」
「っ…!!」
クナイを棄て、背中に差した忍刀を抜く
「ほぉ…もう抜かねばならないか…?」
冷笑
アズサがもう一度地を蹴る
片手で安定しない刀を握りハヤテに向かって疾走した
一発目は低姿勢からの突き
軽々と避けたハヤテに追撃の間を与えずそのまま振り上げる
上体を逸らしてよけたその一撃にハヤテが追撃を掛け様としたその時
ハヤテの視界が一瞬揺れた
足が掃われたのだと気付いたのは次の瞬間
心臓を狙って振り下ろされた刀の機動を気配で捉え
手の甲でそれの軌道を変えた
「ッ…!!」
反れた刃が鎖骨の上に突き刺さる
刃の力を吸収しきれず篭手が鈍い悲鳴をあげている
「上出来だっ…」
ニヤリと笑って針を飛ばす
刀を引き抜きつつ、アズサは数歩後退した
「貴方を仕留めるには…自分も死ぬ気でないと無理だと…里の者が言っていました…シショウ」
「初めて呼んだな…」
少しだけ嬉しそうに笑い、右手で忍刀を抜く
―忍刀を抜くのは、それ上打つ手がなくなった時
つまり…
次の一手で仕留めれない場合は
自らの死を意味する…―
「「いざ!」」
二つの声が森に響いた