†Subsequent†
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「アクア!」
ざわつく食堂内でハボック少尉に声をかけられ、トレー片手に歩みをそちらにむけた
「ねぇ、大佐見てない?」
「いや、資料室とか?」
あぁ…そういえば篭るとか言ってた…
そんな事を考えながらトレーの中身に手をつける
「アクア、今日の夜暇?」
「ん?暇と言えば暇だけど?」
「頼む!!」
少尉が両手を顔の前で合わせて言った
「何?そんな改まって…」
「彼女への誕生日プレゼント選びたいんだけど、いまいち解らなくてよ」
「…解った。引き受けてあげるけど、あの人にバレないようにね」
席を立ってトレーを戻しに行く
ついでに何か軽い物を作ってもらって食堂を離れた
嫉妬深い彼だから
他の男と出かける
それだけで
彼の逆鱗に触れる
愛されてるな…
そう思うと自然と頬が緩んだ
「ロイ…ロイ、起きて」
資料室で眠っていたロイをやんわりと揺する
「アクア…?どうしたのかね?」
机につっぷした体を起こして、同じ位置にまで視線を下げていた私にキスをする
「ん…お昼。一緒に食べる約束だったのに、見当たらなかったから先に食べちゃった…。これ、軽い物包んでもらったから食べて」
散乱した資料を脇へ除けて、包みを置く
「コーヒーでいい?」
離れかけた体がやんわりと引き寄せられる
「ロイ?」
「…何となく…こうしてたい」
背中越しに伝わるぬくもり
前に回された腕に両手を重ね、暫く身をゆだねた
「…もういい?」
「あぁ…充電完了だ」
いつものように不適に笑ってみせるけど、どこか疲れた感じは否めない
「無理しないで」
体を離して額に唇を寄せる
「今日も遅くなりそう?」
「あぁ…片付けるべき物も多いし、査定も近いからな」
仕方ないさ
そう言って笑った
「そっか…」
仕方ないね
そう言って私も笑う
「あ…そうだ」
窓際の花瓶の水を手取り、小さな雪だるまのオブジェクトを氷で練成する
「これが溶ける頃には帰ってきて。今日は寝ないで待ってるから」
季節はずれの雪だるまを机の隅に乗せて、足を扉へと向ける
「アクア」
「ん?」
部屋を出かけて呼びとめられ、顔だけを彼に向けた
「ありがとう」
柔らかい微笑と温かい言葉に
自然と頬が緩む
彼の発する一言一言は
私に今、『生きている』のだと実感させる
「お待たせ」
定時過ぎ
先にあがった少尉との待ち合わせ場所に向かう
「いやいや。じゃ、行きますか♪」
煙草を足で揉み消して、少尉は言った
「覚えててくれたんだ?私が煙草の煙苦手なの」
「忘れる訳ない」
「ありがとう」
今なら、素直にお礼が言える
きっと
昔の私はそんな事言えない
「で、彼女はどんな人?」
「あー…ちょっと強気で、でも儚げで…あぁ…」
何かしら思い付いたように少尉が足を止める
「どうかした?」
「誰かに似てると思ったら、アクアにそっくり」
照れたように笑って
「だから、アクアに見たててもらったら良いかなって」
「私と似てるって…そんなまた、彼女に失礼じゃない?」
「それは無いっしょ」
お互い笑って
「で、アクアは、大佐から貰えるなら、何が欲しい?」
欲しい物
そんなの
決まってる
「全部」
「え?」
「ロイの全部が欲しい…『何が』じゃなくて、ロイの全部。頭の中全部を私で独占したいくらい…なんてね☆」
ポカンと口を開けたままの少尉の額をこついてやる
「あのね…カタチなんか無くていい。気持ちが篭ってたらそれで良い。どんな言葉も、どんな高価な物も、その人が込めた想いの強さには勝てない。もし、少尉が彼女に『永遠』を約束してあげるなら、指輪をあげて」
「指輪?」
小首を傾げた少尉に、私は頷く
「指輪ってね、昔は所有物の証だったの。指輪に鎖をつけて、自分の妻が、永遠に自分の所有物であることを示す。今は、そんな風習はもう無いけどね」
「へぇ…相変わらず物知りでいらっしゃる」
「安モノでいい。私だったら、あの人に永遠を約束された証が欲しいかな…。現に、貰ったしね」
そう、もうすぐ死ぬのだと解っていて
左手の薬指にはめてくれたあの指輪
嬉しくて
嬉しくて
それでも素直に言う事ができなくて
遠まわしな確認をしてから呟いた
まだ
覚えている
「…参考になった…?」
「ジューブン」
「店まで着いて行った方がいい?」
「いや、大丈夫」
言って煙草に火をつける
「一人でいけますから」
「そう」
「じゃあ、また明日」
「うん。またね」
踵を返した少尉を見送り、夕飯の買いだしに行こうと振り返って、思わず絶句した
「…ロイ…!?」
「やぁ」
「やぁ…って・・仕事は…?」
「終わらせたよ」
「査定の提出書類は?」
「それも終わった」
「ぁ……」
閉口する自分をどうにかしなければと思うのに
どうにも体は言う事をきかない
あの量をどうやって終わらせたのか…
雪だるまを置くスペースにも悩んだというのに
『ヤバイ』
直感がそう伝えている
「いつから…?」
「似てるのが失礼だとか何だとか…」
「あは・・」
思わず笑いが引き攣った
本人にも口にした事もないのに
それを聞かれていたとは…
「アクア」
言葉と同時に抱き寄せられて言葉に詰まる
「ありがとう」
「…それ…私のセリフ…」
貴方が居たから戻って来れた
貴方が居たから生きていられる
貴方が居たから
この温もりを感じる事が出きる
「アクア。もう一度、君の永遠を私に約束させてくれ」
「ぇ…?」
体を離して
左手の薬指にあたる金属の感覚
「飾りも何も無いが、気持ちは込めたつもりだ」
どうしようもない涙があふれて
また
言葉につまる
「ありがとうっ…ロイ…」
人目なんか気にせず抱き付いて
「ロイ…貴方が居てくれて本当に良かった。貴方に会えなかったら私…」
「アクア」
顔を上げて触れる唇
「貴方を愛せて本当に良かった…ロイ、他の誰も愛さないで!私だけ愛して・・」
「あぁ…。だから言っただろう?アクア以外愛せないってね」
『また…誰かを愛して…』
この言葉が
どれだけ愚かだったのかを
今
初めて知る
死んでしまう自分を引きずって欲しくは無かった
でも
忘れて欲しくなかった
「ごめんなさい…ありがとう」
今だから解る
愛したら
他の事なんか見えないって
何もかも
関係無くなるって
それくらい愛せる人がいる私は
何て幸せなんだろうかって
「アクア、愛している」
甘い口付けと
温かい言葉
この瞬間を
永遠に忘れない
END
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