短編
名前変換
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「頑張れ〜!」
女子の黄色い声。男子の大きな歓声。
彼は男女問わず人気者。浪速のスピードスターなんていうちょっと変な異名も持つテニスプレイヤー。
そんな彼は体育祭でもこの通り大人気だ。
「相変わらずすごい歓声だね〜」と親友は私の隣で呟く。
「そうだね」と私が返事をすると同時にパンという音が鳴りリレーが始まった。
もちろん彼はアンカー。
「私たちも応援しに行こっ!」
大歓声の隅っこで彼を眺めていた私に親友は応援席の前の方まで手を引っ張る。
こんな盛り上がりの中、私が応援したところで彼は気づいてくれるのだろうか。そんなことを思いながらも私は大好きな彼の姿を一瞬でも見逃さないようにじっと見つめる。
そしてあっという間に彼にバトンが渡された。
彼のチームは4位だったが沢山の歓声とともにどんどん順位をあげていく。
アンカーは2周だ。1周終わったところで彼の俊足の功績で2位まで順位をあげた。
あと1周、1位まであと少しだ。
私は思いっきり空気を吸った。
「謙也ー!!!!!がんばれー!!!!」
これでもかっていうくらい大きな声を出した。もちろんこの大歓声の中、彼に届いているはずもない。
でも私が声を出した直後から偶然にも彼はスピードを上げ一気に1位を抜きゴールテープを切った。
が、
何故か彼はまだ走っている。それも応援席に向かって一直線に。
「名前っ!」
彼は私の名前を呼んでひょいっと抱き上げた。
「名前の声ちゃんと聞こえたで」
「うそ、あんな歓声いっぱいあったのに私の声聞こえるはず…「俺をなめたらあかんでー。愛しの彼女の声くらい聞こえるわ!むっちゃ大きな声を出してくれてたやん」
そう言って彼は太陽ような笑顔を私に向ける。
「名前の声聞いたら抱きしめたくなってゴールテープ超えて走ってきてもうたわ!」
後輩や同級生にヘタレと言われている彼は本当に純粋で天然でたまにこういうセリフを恥ずかしげもなく言うのだ。
「大好きやで!」
周りにこんなに人がいて、みんな私たちを見ているというのに。彼って本当によく分からない。
でもそんなところも私は好きだ。
「うん、私も謙也のこと大好きっ!」
私の言葉を聞いた彼はさっきよりも更に嬉しそうに笑った。
「本日のバカップル劇場これにて閉幕でーす」という我が親友の声を機にやっと自分たちに集まった視線に気づいた彼は顔を真っ赤にして口をパクパクさせながら私をみる。
さっきまでの威勢はどこへやら、と私が笑うと彼はバツが悪そうな顔をしそそくさと踵を返し次の出場種目へと向おうとする。
そんな彼を私は呼び止めた。
「どうした……〜っ!」
振り向いた彼の頬にキスをすると彼はまた顔を真っ赤にして口をパクパク。
「大丈夫、だれもみてないよ?」
「せ、せやからって大胆すぎるやろっ…」
さっきまでみんなの前で私を抱き上げて恥ずかし気もなく大好きだと言っていた彼とは大違い。
本当に彼はよくわからない。
くすくすと笑いながら「次の種目も頑張って!」と言うと彼は「おん」と返事をし、「体育祭終わったら覚悟しとき」と、きっと私しか知らない顔で笑った。
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