シオバナとのランチは…まァ、そこそこつつがなく…といった感じにおわった。そこに、おや珍しいと友人らが「で、どうだった！？手応えのほどは！」と総攻撃を仕掛けてきたが、それもなんとか持ちこたえた。

その後の授業はなんとなァ〜く進み、いま、すべての終了のベルが鳴った。と、ここで……実は3日ほど前からずっとそうなのだが、さも当然のようにシオバナが話しかけてくる。

「あァ……やっと終わった。午後の授業ってのはどうも、気持ちがだれちまってかなわない。きみもそうは思わないかい？…今日は特に、きみとのランチがあれだけ楽しかったし。」

「ン〜…ま、まァ……確かに…今日はちと疲れたかも。なーんか色々質問されたし……」

そう言いながら、私は席を立つ。ヨシ、このまま帰ろう。まっすぐ帰ろう。今日のランチで…彼のストイックで余りに魅力的な人格のせいか、“ちと”どころか、だいぶ精神力を使ってしまった。イヤ……ま、確かに楽しかったは楽しかったけれども。

そういや、こういう時って何て言やいいんだろ。“またランチしよう”？イヤ違うな、もっとこう…

「あ、その……。楽しかった、ありがと。」

じゃあ、と手を小さく振って教室を後にする。これで良かったのかは分からないが、まァ、言えただけマシという事で。彼も手ぇ振りかえしてくれてたし。



家に帰るなり、自分の部屋に直行してベッドに倒れこんだ。ベッドってのは、こう…ちょうどよく包み込まれるような感触と、跳ねるようなスプリングの感覚がこれまた面白い……んだが、早くもと言うべきか、私は、畳の上に敷いた布団が心底恋しくなってきていた。

「はァ〜〜あ…気ィ張るなァ〜〜〜… すンごい気ィ張る…… そうだ、今度…い草のマットでもねだろうかなァ〜〜私がんばってるし。」

というか…よくよく考えたら私、なんでシオバナの前であんなに気ィ張ってんだろ。気圧されるからか？それとも良く見られたいから？

ン〜〜…分からんぞ、何でだ… 考えるたんびに、思考はこんがらがっていくばっかりだ。これは数学の問題よりたちが悪い。

ゴロゴロとベッドの上で転げ回ってたら、姿見のなかの私と目が合った。……げ、制服着たまんまだった。着替えるの忘れてた。

スカートを脱ごうとしたら、カサ、とポケットの中から紙切れが飛び出してきた。こんなの入れたっけか？……あら、なんか書いてる。

“3日後 ここのリストランテで食事なんてどうです？
シオバナ”

あとは、そのリストランテのものと思しきアドレス。

3日後。カレンダーを見る。…ヒマな日だ。しかし、これ……なまじ嬉しいもんだから、行くか行くまいか非常に悩ましいところだ。や、とは言いつつ…恐らく私のことだから……まァ…行くんだろうけどさ。