それから
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
叔父も叔母も従兄も友達もバイト先からも「何かあったのか」としきりに聞いてくる。
何でもないよ、としか答えられないのが申し訳ない。
叔父が見たがったホラー映画を一緒に見ようと誘い、叔母が買ってきてくれた服や小物を身に付ければ二人とも喜んでくれた反面、戸惑っていた。
何かあったのか再び尋ねられたけれど「色々あった」と言葉を濁せば、もうそれ以上は聞いてこなかった。
その代わり、感謝の言葉を伝えれば、ホームドラマのように、叔父も叔母もわっと泣き出して抱きついてきた。
そういう雰囲気は苦手だけれど、半助さんときり丸を前に誓った約束が果たせて、私も涙した。もちろん涙の理由はそれだけではないけれど。
だから、大学の学費の工面をお願いすれば、叔父は「最初からそのつもりだよ」と微笑んだ。
アルバイトで稼いだお金は、とっておきなさいとも言われた。
母の代わりに…彼にとっては妹の代わりに私を育てると決めたのだからと。
傍に居た社会人一年目の従兄と目が合えば優しく微笑んでくれた。
やっぱり、私一人がみんなの手を拒んでいたことに気が付く。
改めて自分は子どもなのだと気づかされた。
そして従兄の口からは、紹介したい人がいる、と言って再び叔父と叔母を驚かせた。
受験勉強に励んだものの、第一志望には落ちてしまった。
ネットで受験番号を照会したけれど、落ちたと分かり、家族は気まずい空気が流れた。
第二志望以下は受かってるからいいじゃん、と事もなげに言う従兄に、叔父は怒り出すも、私の心境も従兄に近かった。
無論、落ちたことは悔しいし、悲しい。
しかし、安藤先生との勝負に負けたあの時、乱太郎くんのテストの採点をしたけれど、10点すら届いていなかったと分かったあの瞬間の悔しさと悲しさの方が大きいのだ。
今だって悔しい。
落ち込む様子のない私に不安がる叔父と叔母だけれど、それよりも私は一人暮らしをしたいことを話したから、更に二人を不安がらせてしまった。
「ここからだと遠いし、いいんじゃない?」と、従兄は賛成してくれた。
家を出る前日、従兄にあの日のことを尋ねた。
家族旅行の前日のこと。
叔父と叔母と従兄で話し合っていたこと。
その時の従兄の射抜くような瞳を。
従兄はポカンとしていた。
覚えていないらしい。
首を捻りながら「たぶん」と前置きし、私の疑問に答えてくれた。
病気になった私を心配していたけれど、それを悟られるのが恥ずかしいから険しい表情をしていたこと。
成績が悪いことがバレて恥ずかしかったから、つい睨んでしまったこと。
「別にお前がいたから進路の幅が狭くなったんじゃない。元から狭かったんだって」
とゲラゲラ笑う従兄に、何て返せばいいか分からなかった。
何てことは無い。従兄は優しい兄だった。
悔しいけれど、利吉さんの言うとおりだった。
少ない荷物をまとめ、引っ越し業者に預け、私も新居へ行くことにした。
「ゴールデンウィークは帰ってくるから」
「友達と遊んどけって。遊べんの今のうちだぞ」
従兄の言葉に、叔父も叔母も同時に従兄を諫めた。
「じゃあ、行ってきます」
そう言って、ドアノブを握る。
ドアの向こうの景色は、いつもより輝いて見えたのだった。
1/6ページ