これからも続くお話
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その日は快晴で風も吹いていて気持ちの良い天気であった。
きり丸に言わせれば、まさにアルバイト日和だった。まぁ、彼にとっては雨でも雪でも嵐でもアルバイト日和なんだろうけど。
正門前で半助さんときり丸と待ち合わせをして、街に出かけることにした。
行き先は半助さんときり丸と…私の、家。
家賃の支払いとドブ掃除だ。
「付き合わせてすまない」
「おれ達だけで行くと大家さんから『引き払おうかと思ってた』とか色々言われちゃうし。すみませーん」
きり丸の謝罪は完全に建前だからいいとして、半助さんの申し訳なさそうな様子が気に食わなかった。
「へぇー……」
天気にそぐわない溜息を彼に向かって吐けば二人は不思議そうに私を見た。
「半助さんにとって、私は家族じゃないんですか……?」
「……い?!」
水くさいじゃないですか。
大家さんの家賃の支払いも、近所のドブ掃除も、家のことじゃないですか。
なのに「付き合わせてすまない」だなんて。
きり丸には普通に手伝わせてるのに…。
「朱美、違うんだ!」
「なにが?」
私達は門を出る。
外出届を受け取った小松田さんの長閑な「いってらっしゃーい」を背中に受けながら、私はスタスタと早足で歩き出したから、半助さんは慌てて追いかけて話し出す。
「今日は、くノ一教室の生徒達と約束があったはずだろう?」
「そうんなんすか?」
あ。把握していらっしゃってた。
街で評判の団子屋さんに行ったり、市で小物を見たりする約束をしていたが、こちらを優先したのを半助さんはご存知だった。
ユキちゃん達が話したのだろう。
「いいんです。また別の日にしましたから」
これをリスケって言うんだよきり丸。
なんて現代用語を言っても、変な聞き間違えをされるだけだから言わない。
「私も大家さんと隣のおばちゃんにお会いしたいし………追い出すとか引き払うなんて……二度と、言わせないために」
「あ。黒い何かが滲み出てますよ」
さすが忍者の卵。気配を察したらしい。
「分かったよ。ありがとう」
微笑む彼に私もつられて頰が緩みそうになったけど、内側を噛んで何とか耐える。
「ありがとうも、だめです」
「えぇ?!」
半助さんの大声が一本道の原っぱに響く。
「よろしく頼むくらい言ってほしい…なぁ、なんて」
「気難しいんだから」
きり丸はその辺の草を引っこ抜いてぶんぶん振り回しながら苦笑いしている。
彼に苦笑されるって、私は結構面倒な人間なのだろうか……。
「分かったよ。朱美、よろしく頼む」
「はい!」
「ついでに子守りのバイトもよろしくお願いしやーす」
「バイト代三割もらいまーす」
えぇ?!と叫ぶきり丸に私はニヤニヤする。
「学園に帰って宿題をしたら、その三割をお返しまーす」
「ひでぇ!」
「ひどくない!」
「こらこら喧嘩をするな」
今度は半助さんに苦笑されてしまう。
「そうだ、また映画やアニメとやらの話をしたらどうだい?」
「えーが?あにめ?」
「夏休み辺りに話したようなやつよ」
ふと半助さんと目が合う。
きっと同じ事を考えたに違いない。
想いが通じて、どきまぎしながら帰った夏休みの初日のことを。
「あ~。また聞きたいっす」
「血の気の多いのはやめてくれよ?」
思い出すだけで胸が高鳴る。
告白をした月の眩しさも。
月光に照らされた半助さんの凛々しさも。
気恥ずかしさから目を逸らした一本道も。
半助さんも同じ時を、半助さんの視点から振り返っているのだろうか。
「そうだなぁ」
あの時うまく話せなかったホラー映画にしようかな。それとも、いっそ古典落語にしようかな。きり丸なら時そばとか好きそうだし。
半助さんときり丸と一緒に帰る。
それが当たり前の日々になっている。
「………ところで今は何刻だい?へぇ、九つで、そうかい。十…」
きっと年を重ねて私が話すネタも尽きて…。
でも、私達の会話は尽きることはないだろう。
月を見て貴方を想う日々は、青空を見て、三人で笑い合う日々となったのだ。