長編「今度はあなたを」
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押し入れを漁りに漁って見つかった卒業アルバム。
革製の古ぼけた表紙にずしりとした重み。
その重さは六年間の辛く苦い思い出の重みともいえる。
各年の集合写真を目を皿にして彼女を探す。
卒業して10年以上経っているとはいえ、面影はあるはずだ。
転校してしまった、と彼女は言っていた。
それでも社会科見学の集合写真や運動会の写真に写っているかもしれない。
そんな思いで1枚1枚丁寧に見ていく。
このアルバムをこれほど時間をかけて読むことなど初めてだった。
クラスメイトからは誹られ、石も投げられた。
憐れな美少年……
今なら、悪霊一匹送り込んだろか!
夜中のトイレに一匹忍ばせたる!とかなんとか脅し返せるだろうに………などと、今だからこそ振り返れる。
それも美奈子先生あってこそだった。
ふと、写真から視線を逸らし左手を見た。
尋ねれば応えてくれるだろうか。
そんな思いが過る。
いや、俺の力で見つけなければ。
もしも彼女があの時、同じ場所で過ごしていたなら、苦い六年間の思い出が、少しでも輝きを放つものになるだろう。
俺は再び彼女を探す。
「道明先生………」
つい言葉にしてしまう。
あの日以来、道明先生と俺の間には見えない壁が立ちはだかっている。
俺がいけなかったんだ。
鬼の手に触れた彼女の呟きに動揺した俺は、彼女から逃げてしまった。
何故確かめなかったのだろう。
美奈子先生を知っているのですか?
昔、俺と会ったことがあったのですか?
あの時にそう尋ねていれば、彼女は何て答えたのだろう。
でも俺は彼女の心に触れることを恐れてしまっていたのだ。
「あっ」
独り部屋のなかで俺は声を上げた。
鼓動が早くなり、脳にまで響くほど喧しくなる。
それは三年生の遠足の写真。
確か昼は大きな自然公園の広場で食べたはずだ。
芝生の上にシートを広げて弁当を食べながら無邪気にピースしている三人組の女子児童の後ろ。
その三人組とシートをくっ付けているはずなのに、隠れるように彼女達の後ろにいて、困ったようにカメラを見つめている女の子。
『そんなにお腹が空いていたんですか?』
俺にお菓子をくれた時に困ったように微笑んだ彼女にそっくりだった。
間違いない。
道明先生だ。
「か………かわいい………!」
いや、そう思っている場合ではない。
これで答えは出てしまった。
彼女は俺と会っていたんだ。
クラスが違っていたから、会う機会は少なかっただろうし、彼女は転校してしまったが、間違いなく同じ校舎で過ごしていたんだ。
ならば何故「初めまして」と挨拶した時に言ってくれなかったんだ。
いや、覚えてない俺にがっかりしたのかもしれない。
「う~ん………」
がっかりだけではない…もっと何か、……他の理由もあるはずだ。
『美奈子先生……鵺野君……』
悲しそうに呟いた彼女を思い出す。
優しい彼女は虐められていた俺を心配していたのだろうし、太陽のような美奈子先生を慕っていたのだろう。
「道明先生………」
貴女を知りたい。
小さな一枚の写真の中の彼女に問いかけるように、俺は呟いた。