鬼の手短編
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近づいた分だけ離れた距離
この時期は何かと忙しい。
だから、休日はいつも部屋でぐーすかと眠って一日が終わってしまう。
でも。
今年は違う。
「暖かいですね」
「ええ、ええ!ほんとに、いい天気です!」
川沿いの土手を二人で歩く。
日差しを受けた穏やかな流れの川面は、光に溢れていて、眩しい。
「そこのベンチで一休みしませんか?」
道明先生の提案に俺は赤べこの如く頷く。
ここに座れば、対岸の桜を見ることができて、ちょっとした花見ができるのだ。
コンビニで買っていた缶コーヒーを袋から取り出した彼女は「乾杯」と、はにかんだ笑みを浮かべながら、俺の持つミルクコーヒーにくっ付けてきた。
「乾杯!!」
元気よく俺も声を上げた。
一口飲んだ後、缶を持ちながらも器用に伸びをする彼女をまじまじと観察する。
柔らかな素材と春らしい色の装い。
両腕を空へと伸ばし、気持ちよさそうに瞼を伏せていた。
形の良い艶めいたその唇に触れたくて、ドギマギしてしまう。
背伸びを終えた彼女は目を開けたので、ばっちりと目が合ってしまった。
「この時期は忙しいですよね」
さして気にした様子もない道明先生はニコリと笑いながら缶コーヒーに口を付ける。
「え。ええ、全くそうですね!」
「忙しいし、春だしで………眠いですよねぇ」
彼女の口調はいつもよりまったり気味だった。
「分かります。俺もいつもなら昼過ぎまで寝ちまうんですよ」
「私も。実は今も眠くて」
目を細めて微笑む彼女の瞳は重かった。
「でも寝てばっかりもだめだなぁなんて。だから今日、お誘いしたんですけど」
川面を見つめている彼女は、今にも眠りそうだ。
俺は緊張して眠くなんかないのに。
やはりこの想いは目の前を流れる川の如く一方通行なのだろうかと、気持ちは沈んでいく。
「鵺野先生といると……安心して………」
とん、と肩に乗る程よい重みが悲しかった。
そんな無防備な姿を晒さないでください!
安心って、何ですか?!
俺が何もしないとでも?!
俺の心の叫びなんて聞こえるわけもない彼女の目はそのまま閉じられてしまった。
「くぅ~~!」
肩からいい匂いがする。
睫毛が長い。
胸もとが見えそうで見えない。
なんという生殺し。
こんなのを目の当たりにして何も手を出さないなんて、悟りを開いた坊主ぐらいだろう!
穏やかな寝息を立て始めた彼女が何故か腹立たしく、俺も腕を組んで目を閉じることにした。
ーーー
ん?
俺は今は何をしている?
確か彼女と川沿いを散歩して、ベンチに座って、そしたら道明先生が眠り始めて………
もしかして俺も寝てたというのか?
だが、俺は明らかに体を横にしている。
まさか彼女の方が先に起きて、眠る俺に呆れて帰ってしまって、俺一人ベンチの上で虚しく横になっているというやつか?!
だが、俺の横顔に感じるのは堅い木の感覚ではなく、柔らかな……
柔らかな?
目を開けば視界はやはり横向きになっていて。
ふわりと俺の髪に何かが触れ、優しく撫でられる。
これは、膝枕というやつだろうか。
「あ。起きられました?」
「え?!は?!……はい……?」
上体を慌てて起こせば、くすくす笑う彼女。
「寝ちゃったと思ったら、鵺野先生も眠ってて。そのまま鵺野先生、倒れ込んできて」
「…………お恥ずかしい。起こしても良かったんですよ」
「気持ちよさそうに寝てましたから」
でも。
普通、何も思わない男に膝を貸すだろうか?
「重くなかったですか?」
「全然」
微笑む彼女の頰は桜よりも紅い。
「嫌でした?」
「嫌?い、いえ!!全然!!とんでもない!!」
思わず立ち上がって全身で返事をする俺を、彼女はまたしても可笑しそうにくすくす笑い出した。
「さて。お散歩を再開しますか」
俺の持っていたミルクコーヒー缶は足下に置かれていたらしい。
屈んで拾った彼女は、ご自分のとまとめて袋の中に入れる。
「あ……俺、捨てときますよ」
「ううん。大丈夫ですよ」
「いやいや」
彼女の持つ袋を奪おうと手を伸ばせば、触れる指と指。
その柔らかさに胸の中の何かが弾けて、甘酸っぱい想いが広がっていく。
今時小学生でも指が触れただけでこんなに動揺しないだろう。
慌てて手を戻したが、変に思われていないだろうか。
こんなに意識しているのは、きっと俺だけ。
そう思って彼女を見れば、彼女の顔も真っ赤になっていて、気まずそうに俯いていた。
「……行きますか」
彼女の声に俺は無言で頷き、ゆっくりと歩き出す。
ベンチに座る前の時より離れた距離で歩く俺達だけど、その距離の変化が嬉しかった。
この時期は何かと忙しい。
だから、休日はいつも部屋でぐーすかと眠って一日が終わってしまう。
でも。
今年は違う。
「暖かいですね」
「ええ、ええ!ほんとに、いい天気です!」
川沿いの土手を二人で歩く。
日差しを受けた穏やかな流れの川面は、光に溢れていて、眩しい。
「そこのベンチで一休みしませんか?」
道明先生の提案に俺は赤べこの如く頷く。
ここに座れば、対岸の桜を見ることができて、ちょっとした花見ができるのだ。
コンビニで買っていた缶コーヒーを袋から取り出した彼女は「乾杯」と、はにかんだ笑みを浮かべながら、俺の持つミルクコーヒーにくっ付けてきた。
「乾杯!!」
元気よく俺も声を上げた。
一口飲んだ後、缶を持ちながらも器用に伸びをする彼女をまじまじと観察する。
柔らかな素材と春らしい色の装い。
両腕を空へと伸ばし、気持ちよさそうに瞼を伏せていた。
形の良い艶めいたその唇に触れたくて、ドギマギしてしまう。
背伸びを終えた彼女は目を開けたので、ばっちりと目が合ってしまった。
「この時期は忙しいですよね」
さして気にした様子もない道明先生はニコリと笑いながら缶コーヒーに口を付ける。
「え。ええ、全くそうですね!」
「忙しいし、春だしで………眠いですよねぇ」
彼女の口調はいつもよりまったり気味だった。
「分かります。俺もいつもなら昼過ぎまで寝ちまうんですよ」
「私も。実は今も眠くて」
目を細めて微笑む彼女の瞳は重かった。
「でも寝てばっかりもだめだなぁなんて。だから今日、お誘いしたんですけど」
川面を見つめている彼女は、今にも眠りそうだ。
俺は緊張して眠くなんかないのに。
やはりこの想いは目の前を流れる川の如く一方通行なのだろうかと、気持ちは沈んでいく。
「鵺野先生といると……安心して………」
とん、と肩に乗る程よい重みが悲しかった。
そんな無防備な姿を晒さないでください!
安心って、何ですか?!
俺が何もしないとでも?!
俺の心の叫びなんて聞こえるわけもない彼女の目はそのまま閉じられてしまった。
「くぅ~~!」
肩からいい匂いがする。
睫毛が長い。
胸もとが見えそうで見えない。
なんという生殺し。
こんなのを目の当たりにして何も手を出さないなんて、悟りを開いた坊主ぐらいだろう!
穏やかな寝息を立て始めた彼女が何故か腹立たしく、俺も腕を組んで目を閉じることにした。
ーーー
ん?
俺は今は何をしている?
確か彼女と川沿いを散歩して、ベンチに座って、そしたら道明先生が眠り始めて………
もしかして俺も寝てたというのか?
だが、俺は明らかに体を横にしている。
まさか彼女の方が先に起きて、眠る俺に呆れて帰ってしまって、俺一人ベンチの上で虚しく横になっているというやつか?!
だが、俺の横顔に感じるのは堅い木の感覚ではなく、柔らかな……
柔らかな?
目を開けば視界はやはり横向きになっていて。
ふわりと俺の髪に何かが触れ、優しく撫でられる。
これは、膝枕というやつだろうか。
「あ。起きられました?」
「え?!は?!……はい……?」
上体を慌てて起こせば、くすくす笑う彼女。
「寝ちゃったと思ったら、鵺野先生も眠ってて。そのまま鵺野先生、倒れ込んできて」
「…………お恥ずかしい。起こしても良かったんですよ」
「気持ちよさそうに寝てましたから」
でも。
普通、何も思わない男に膝を貸すだろうか?
「重くなかったですか?」
「全然」
微笑む彼女の頰は桜よりも紅い。
「嫌でした?」
「嫌?い、いえ!!全然!!とんでもない!!」
思わず立ち上がって全身で返事をする俺を、彼女はまたしても可笑しそうにくすくす笑い出した。
「さて。お散歩を再開しますか」
俺の持っていたミルクコーヒー缶は足下に置かれていたらしい。
屈んで拾った彼女は、ご自分のとまとめて袋の中に入れる。
「あ……俺、捨てときますよ」
「ううん。大丈夫ですよ」
「いやいや」
彼女の持つ袋を奪おうと手を伸ばせば、触れる指と指。
その柔らかさに胸の中の何かが弾けて、甘酸っぱい想いが広がっていく。
今時小学生でも指が触れただけでこんなに動揺しないだろう。
慌てて手を戻したが、変に思われていないだろうか。
こんなに意識しているのは、きっと俺だけ。
そう思って彼女を見れば、彼女の顔も真っ赤になっていて、気まずそうに俯いていた。
「……行きますか」
彼女の声に俺は無言で頷き、ゆっくりと歩き出す。
ベンチに座る前の時より離れた距離で歩く俺達だけど、その距離の変化が嬉しかった。