黎明を走って
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休日はきり丸くんと杭瀬村に行って子ども達と遊んだり、元気になった奥さんに会いに行ったり、忍術学園できり丸くんのアルバイトを手伝ったり、宿題を(無理矢理)手伝ったりだ。
杭瀬村では元気に走り回る子ども達と鬼ごっこやお話をした。
子どもは風の子とはよく言ったものだ。
冬休みも近くなり、寒さも一層厳しくなっていくのに、彼らは薄着でよく走り回る。
キヨとは相変わらずお互いの報われない恋の話をする。しかし湿っぽい空気にならないのは、彼女がそうさせないからだろう。
忍術学園では、冬休みが近いということで、一年は組の三人組の補習授業は、日ごと長くなっていく。
食堂で見かける土井先生は少し疲れている表情を浮かべていた。
「はい。どうぞ」
「ありがとう」
それでも向けてくれる笑顔は陽だまりのようで。
お仕事、大変ですか?
手伝わせてください。
午後、お部屋に行きますから。
泡のように浮かんでは胸の中で消える言葉。
利吉さんと出かけた日のことを今でも思い出しては胸に切ない痛みが走る。
「泣かないで」
と呪文のように繰り返し、私を抱きしめた土井先生の温もりと声が、どうしようもなく私を苦しめる。
囚われないでと仰ったのなら、泣いている私のことなど無視すれば良かったのに。
土井先生がそんな事できないのは知っている。
それでも土井先生が私を抱きしめてくれたのは、迷子になって泣いている幼子をあやすような気持ちからなのだろう。
もう大丈夫ですから。
ひとしきり泣いた後で言えば、土井先生は「うん」と静かに頷いて、私の頭にポンと手を置いた。
しかしすぐにハッとして「ごめん」と謝って去って行った。
温もりは一瞬にして去って行った。
その寂しさが私の心を鈍色にする。
そんな私の心のような空のもと、学園長先生にお遣いを頼まれたから、ヘムヘムと町に行く。
「ヘムヘムとお出かけなんて初めてだね」
「ヘム!」
一緒に学園内を見回りしたり、学園長と花見をしたことはあったけれど、二人きりは初めてだった。
ヘムヘムは本当にお利口で、町までの道のりも、町の中でも私を案内してくれた。
空には真綿のような雲が敷き詰められ、鼠色の冴えない色をしていた。
冷たい風が吹き付けてきて、頬と耳が痛い。
学園長ご贔屓の高級菓子屋に入れば、菓子を包んでもらっている間、温かいお茶も用意してくれた。
湯呑みを掴めば、冷えきった指先にじんわりと熱が移る。
「へむぅ……」
ヘムヘムも正座して湯呑みを持って、その温かさにホッとしていた。
その可愛らしさに頬が緩む。
「あらやだ、雨だわ」
店主の声に、私もヘムヘムも店の入口から外を覗くと、銀色の雨が降っていた。
「困ったねヘムヘム」
鈍色の雲は面々と続いていて、雨は止みそうにない。
そして傘もない。
冬の突然の雨なんて勘弁願いたいところだ。
「よろしければうちの傘を………あらやだ、そういえばこの間他のお客様に貸したきりだったわ」
ますます困った。
ヘムヘムと私は入口から空を見上げ、雨が止むことをひたすら願った。
遠くを見れば、傘を差した一人の男がこちらに向かって走ってきた。
幾筋の銀の糸によりぼやけて見えていたけれど、次第に誰なのか分かった。
「久々知くん?!」
「やっぱり伊瀬階さんとヘムヘムだった!」
久々知くんは火薬委員会の用事でこの町に買い物に来ていたらしい。
「良かったらこの傘をどうぞ」
「いいよ、大丈夫!久々知くんこそ委員会の用事ってことは、濡れたら困る物なんじゃないの?」
「いえ、ただの消耗品の買い足しですから」
そう言って私に傘を押しつければ、久々知くんの髪は忽ち濡れていく。
「伊瀬階さんこそ、学園長のお遣いですよね?濡らしたら面倒なことになりますし」
「でも久々知くんが風邪引いちゃうよ」
「このぐらいで風邪を引いたら、木下先生に叱られますよ」
私の返事を待たずに、久々知くんは去って行ってしまった。
彼の好意を無駄にしてはいけない。
「………行こうか。ヘムヘム」
後で久々知くんに御礼をしようと決めて、傘を開く。
包みを持って学園に向かうことにした。
傘が雨を弾き、騒がしい音が奏でられる。
久々知くんの委員会の用事とは、火薬委員会の用事。
顧問は土井先生。
今頃、授業だろうか。
この雨の中、先生はどんな授業をしているのだろう。
杭瀬村では元気に走り回る子ども達と鬼ごっこやお話をした。
子どもは風の子とはよく言ったものだ。
冬休みも近くなり、寒さも一層厳しくなっていくのに、彼らは薄着でよく走り回る。
キヨとは相変わらずお互いの報われない恋の話をする。しかし湿っぽい空気にならないのは、彼女がそうさせないからだろう。
忍術学園では、冬休みが近いということで、一年は組の三人組の補習授業は、日ごと長くなっていく。
食堂で見かける土井先生は少し疲れている表情を浮かべていた。
「はい。どうぞ」
「ありがとう」
それでも向けてくれる笑顔は陽だまりのようで。
お仕事、大変ですか?
手伝わせてください。
午後、お部屋に行きますから。
泡のように浮かんでは胸の中で消える言葉。
利吉さんと出かけた日のことを今でも思い出しては胸に切ない痛みが走る。
「泣かないで」
と呪文のように繰り返し、私を抱きしめた土井先生の温もりと声が、どうしようもなく私を苦しめる。
囚われないでと仰ったのなら、泣いている私のことなど無視すれば良かったのに。
土井先生がそんな事できないのは知っている。
それでも土井先生が私を抱きしめてくれたのは、迷子になって泣いている幼子をあやすような気持ちからなのだろう。
もう大丈夫ですから。
ひとしきり泣いた後で言えば、土井先生は「うん」と静かに頷いて、私の頭にポンと手を置いた。
しかしすぐにハッとして「ごめん」と謝って去って行った。
温もりは一瞬にして去って行った。
その寂しさが私の心を鈍色にする。
そんな私の心のような空のもと、学園長先生にお遣いを頼まれたから、ヘムヘムと町に行く。
「ヘムヘムとお出かけなんて初めてだね」
「ヘム!」
一緒に学園内を見回りしたり、学園長と花見をしたことはあったけれど、二人きりは初めてだった。
ヘムヘムは本当にお利口で、町までの道のりも、町の中でも私を案内してくれた。
空には真綿のような雲が敷き詰められ、鼠色の冴えない色をしていた。
冷たい風が吹き付けてきて、頬と耳が痛い。
学園長ご贔屓の高級菓子屋に入れば、菓子を包んでもらっている間、温かいお茶も用意してくれた。
湯呑みを掴めば、冷えきった指先にじんわりと熱が移る。
「へむぅ……」
ヘムヘムも正座して湯呑みを持って、その温かさにホッとしていた。
その可愛らしさに頬が緩む。
「あらやだ、雨だわ」
店主の声に、私もヘムヘムも店の入口から外を覗くと、銀色の雨が降っていた。
「困ったねヘムヘム」
鈍色の雲は面々と続いていて、雨は止みそうにない。
そして傘もない。
冬の突然の雨なんて勘弁願いたいところだ。
「よろしければうちの傘を………あらやだ、そういえばこの間他のお客様に貸したきりだったわ」
ますます困った。
ヘムヘムと私は入口から空を見上げ、雨が止むことをひたすら願った。
遠くを見れば、傘を差した一人の男がこちらに向かって走ってきた。
幾筋の銀の糸によりぼやけて見えていたけれど、次第に誰なのか分かった。
「久々知くん?!」
「やっぱり伊瀬階さんとヘムヘムだった!」
久々知くんは火薬委員会の用事でこの町に買い物に来ていたらしい。
「良かったらこの傘をどうぞ」
「いいよ、大丈夫!久々知くんこそ委員会の用事ってことは、濡れたら困る物なんじゃないの?」
「いえ、ただの消耗品の買い足しですから」
そう言って私に傘を押しつければ、久々知くんの髪は忽ち濡れていく。
「伊瀬階さんこそ、学園長のお遣いですよね?濡らしたら面倒なことになりますし」
「でも久々知くんが風邪引いちゃうよ」
「このぐらいで風邪を引いたら、木下先生に叱られますよ」
私の返事を待たずに、久々知くんは去って行ってしまった。
彼の好意を無駄にしてはいけない。
「………行こうか。ヘムヘム」
後で久々知くんに御礼をしようと決めて、傘を開く。
包みを持って学園に向かうことにした。
傘が雨を弾き、騒がしい音が奏でられる。
久々知くんの委員会の用事とは、火薬委員会の用事。
顧問は土井先生。
今頃、授業だろうか。
この雨の中、先生はどんな授業をしているのだろう。