黎明を走って
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この娘は不満たらたらな顔で忍術学園の門を出て後を付いてきた。
反抗的な態度はやがてゼエゼエと息を切らし情けないものへと変わり、まだ歩くのかと泣きそうな顔でこちらを見ていた。
「ここが杭瀬村じゃ!そしてここがわたしの家だ!」
この子がケロちゃん。
この子がラビちゃん。
村を家を家族を紹介しても、彼女は無言で頷くのみだった。
可愛い二匹の家族を見ても笑いもしない彼女にむかっとしてしまう。
そんなわたしの気持ちを察したのか、朱美は溜息を吐きながら
「すみません。疲れすぎて早く横になりたいんです」
と、ボソボソと呟いた。
夕飯もそこそこに、彼女は泥のように眠った。
わたしの自慢の野菜も淡々と食べて、「もう限界です」と言うなり横になって寝てしまった。
相当疲れていたようだ。
体も心も。
仕方なしに隣の部屋に布団を敷いて、そちらへ移るように彼女を起こすが、何度体を揺すっても唸るだけだった。
「しょーがない奴じゃのお」
横抱きにして運べば、彼女の瞼は震え、睫毛が濡れていた。
「泣くか寝るかどっちかにせんか」
布団に下ろし、頭をがしがしと撫でてやれば、朱美は眉をひそめ、寝返りを打った。
小さな寝息と窓から注ぎ込まれる虫の音だけがこの部屋を支配していた。
「寝る方を選んだか!」
次の日の朝、朱美は起き抜けにわたしの顔をみるなり、うっすらとした笑みを作って頭を下げた。
「昨晩は失礼しました。今日からどうぞよろしくお願いします」
愛想笑いだが、完全な偽りの笑みでもなかった。
ここに連れてこられたことに納得はしていないが、不満は無いようだ。
「農業のことはさっぱり分かりませんので、御指導ご鞭撻の程、お願いいたします」
「おう!頼むぞ朱美」
さっそく朱美に朝食づくりを頼み、わたしは薪を割るために外に出る。
薪割りをしながら格子窓を覗けば、てきぱきと竈に火をおこし、汁物を作っている彼女の姿が見えた。
しかしその横顔は愁いを帯びていた。
「どこんじょー!」
窓から叫べば、朱美の体はびくりと跳ねて、こちらを向いた。
胸に手を当てて私を睨む。
「ちょ………もう、止めてくださいよ。鍋をひっくり返しちゃったらどうするんですか」
そう。その顔。
わたしは安心して薪を割る。
「あ、無視しないでくださいよ!知らん顔しないでください」
怒ったり、笑ったり、
そういう顔をしていればいい。
隣の家の子ども達も、父親がいなくてそんな顔をしている時がある。
そういうときは決まって後ろから忍び寄って抱き上げて肩車をしてやるのだ。
すると子ども達は決まって大笑いする。
「飯の準備が終わったら、こっちへ来い!ケロちゃんとラビちゃんのご飯をあげるぞ!」
間もなく陽が差す。
日を浴びて、うまい飯を食って、笑っていれば何とかなる。
たとえ迷いも悩みも消えなくとも、前を向くことは出来るだろう。