光のパレード
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これほど夏休みを満喫している者はそうそういないだろう。
かく言う私も、夏休みといえばきり丸のアルバイトの手伝いに追われる日々だったから、童心に返って遊び倒す事が楽しくて仕方が無かった。
遊園地に行きたいと言ったその次の日から、怒濤の遊園地巡りが始まったのだ。
まず連れて行かれたのが、小規模ながら歴史ある遊園地だった。
敷地に入って目に付いた大仕掛けなカラクリに私は目を奪われる。
それほど広くない敷地を囲むようにジェットコースターとレールが敷かれていて、ガタガタと大きな音を立ててコースターがその上を走っていた。
などと横文字の洪水だ。
この話をあの好奇心旺盛な学園長にすれば、駄々っ子のように悔しがり、妙な思いつきをされるに違いない。
仰天する私がよほどおかしいのか、朱美はくすくす笑いながら手を引いた。
「もっと向こうに行きましょう」
と、案内されたのはおどろおどろしい雰囲気漂うお化け屋敷。
「なかなか侮れないんですよ。雰囲気作りがバッチリで……でも、皆が作ってくれたお化け屋敷も凄く怖かったなぁ」
「私は入り口前に受付をしていた伝子さんが怖かったがな」
「そうですか?」
懐かしそうに語る彼女。
その笑顔には陰がない。
良かったと心から思う。
彼女の行程は慌ただしく、周辺の和食店で昼食をとった後は、電車を乗り継ぎ室内テーマパークとやらに連れて行ってくれた。
今度目に入ってきたのは、天井や壁があるにも関わらず、ジェットコースターが施設内に張り巡らされており、轟音と客の悲鳴が確かに響いているはずなのに、他の乗り物の稼働音や音楽に掻き消されていた。
広さはなくとも、大型液晶から流れる映像とと振動だけで川下りや密林の中を走ったような気分にさせてくれる乗り物に、私は大いに感動した。
先ほどの歴史ある遊園地といい、ここといい、知恵と工夫次第で如何様にも人を楽しませることができるのだと思い知った一日だった。
その次の日に連れて行ってくれたのは、電車とバスを乗り継いで行った広大なアスレチックが建てられた屋外娯楽施設だった。
アスレチックはかなりの規模で、命綱を付けて高所を渡り歩くものや、体を存分に使うもので、鍛練する場所がないこの世界にとって正直、かなり有難かった。
「よし、全て制覇しよう」
「ノリノリですね」
運動がそれほど得意ではない彼女は引き攣り笑顔だ。
「一緒に付き合ってくれるだろう?」
「出来る限りは」
高所に建てられたアスレチックを涙目で見上げる彼女を見て、つい嗜虐心が湧いてしまう。
「ほら行こう」
「……は、い」
固まる彼女の手を引いて、高所にあるスタート地点に立ってみれば、開けた視界と清々しい空気の気持ちよさに、私は思いきり背伸びをする。
片や彼女は今にも泣きそうな顔をして、膝はがくがくと震え、太い柱にしがみ付いていた。
「ほら朱美、手を繋ごう」
弱った表情を人に見せない彼女が、涙目を隠すことなくしている様子に、ついつい口元がニヤけてしまう。
「半助さん。絶対、私のこと面白がってますよね?……面白がってますよね?」
手を繋けば彼女の手の震えが伝わる。
「む、む室町時代にこんな高い建物とか無いじゃないですか、なん、何で平気なんですか?」
「手甲鉤で城の城壁を登っている最中にしんべヱが落とした岩から逃げるのに比べたら屁でもない」
しかも命綱まで付いている。
一年は組の授業だって、そんなものはしない。
「改めて忍者って…すごい」
「いや、朱美が怖がりすぎなんだよ」
周りを見れば、げらげら笑いながら吊り橋を渡る学生達や恋人がいる。とは言え、ここにいるということは、こういう類のアトラクションが好きなのだろうけど。
「何なら君を横抱きにして走ってゴールしてもいいんだぞ」
「いいです、係の人に止められますし」
吊り橋を渡る際は、彼女の両手を掴み、私は後ろ歩きで彼女を補佐した。
一歩一歩が遅いし狭いしで、なかなか進まない彼女の恐怖心を和らげたい気持ちと揶揄いたい気持ちで、私はついふざけてしまう。
「あんよが上手、あんよが上手」
赤子にかける声色と言葉と共に彼女を導くも、反撃する元気もない朱美は、私の手を強く握り、一歩一歩足を進めていた。
「よく出来ました」
渡りきって心底安堵した様子の彼女を思い切って抱きしめれば、よほど怖かったのか抱き返された。
「……っ」
照れさせるつもりが、私の方が照れてしまったのだから悔しい。
何本かの吊り橋を渡り終えてようやくゴールして地上に戻り、別のアスレチックへ向かうなか、朱美は無言だった。
手を繋ごうにも微妙な距離が保たれていて繫げない。
もしかして、
いや、
もしかしなくても少し
いや、
だいぶ調子に乗りすぎてしまった。
これは夕食は練り物だろうかと覚悟しながら彼女の横顔を覗けば視線が交わる。
彼女は頬を真っ赤にさせて、ふいと顔を逸らされてしまった。
「半助さん、呆れてません?」
意外な言葉に私はすぐに反応が返せない。
呆れる、とは。
「いや?」
「あの位でビビってる私を呆れてませんか?」
朱美はチラリとこちらに視線を寄越すが、その視線は私の反応を窺うものだった。
「いや、存分に可愛さを堪能できて楽しかったよ」
「は?!」
いよいよ耳まで真っ赤になる彼女に私は声をあげて笑う。
「次のアスレチックも楽しみだ」
「わ、私、見るだけにしますから!」
焦って言う朱美が新鮮で面白い。
「せっかく来たんだから一緒にやろう」
「嫌です」
距離を詰めて手を繋ぎ、真っ赤な耳元に向けて囁いてやる。
「恋人なんだから、一緒に楽しもうよ」
「ちょっ………」
びくりと体を震わせた彼女が愛おしくて、笑いが止まらない。
「半助さん、なんだか今日はテンション高くないですか?」
「どうだろう。君の新しい一面を見られて嬉しいんだろうな」
可愛い。
そう囁けば恐ろしいものを見るかのような瞳で私を見ていた。