星の下
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朝からアルバイトに行った朱美を見送り、私は手早く掃除と洗濯を済ませた。
今日が最後のアルバイトらしい。
場所を変えても高校時代から経験を積んだ彼女が辞めるのは、店側にとって痛いだろう。
彼女が働く姿を外から覗いたことがあるが、店の制服に身を包み、笑顔を絶やさず料理を運ぶ姿を思い出す。
今日で最後なのだ。
後でこっそりお店にお邪魔しよう。
支度をして、エアコンを切って、ドアを開ければ熱湯のような空気が私を迎えてくれた。
「ふう……」
アスファルトの照りつけにウンザリなのとは別に、私は溜息をつく。
あの頃は、懐中時計の針が時を刻む度に胸が苦しくて堪らなかった。
どうか行かないでほしい。
いつまでもこの時が続いてほしい。
そう願っていた。
彼女が帰った翌朝。
がらんとした隣の部屋を見て、彼女のいない現実を叩きつけられた。
家に帰る度に、彼女の使っていた茶碗と湯呑みが胸を揺さぶった。
夜が来れば、星々と月を見て、彼女と交わした約束を果たした。
忍務のある夜に月が出ていても愛しさすら感じた。
それがある日突然、彼女の世界に来て、二年後の彼女と再会できた。
離したくない。
その気持ちは変わらない。
公園の前を通り過ぎれば、前に見た小学生が再び水飲み場で遊んでいた。
この国には合戦場は無い。
病になっても薬が手に入る。
彼女が私達の世界に行けば、戦と隣り合わせの日々を送ることになる。
既にタソガレドキ忍軍の雑渡さんは、彼女に目を付けている。
彼女が帰った後も、尊奈門くんがちょくちょくやって来るのはいつもの事だけれど、雑渡さんが木や茂みの陰から様子を覗っていたことが幾度かあった。
生徒達からそれとなく彼女について探っていないか不安だ。
再び彼女が来たとき、彼はどう動くのだろう。
そしてドクタケ城だ。
いずれ彼らも彼女の存在に気が付くだろう。
ただの事務員としてみなしてくれればいいが、何かの拍子で、彼女の特異性を見出されなければいいが。
異世界から来た者。
その唯一無二の存在を彼らはどう見るか。
彼女を攫い、我が物にするだろうか。
心配事はそれだけではない。
学園長の暗殺を企む忍者と学園内で出くわしてしまうことも考えられる。
多くは小松田くんに発見されて、入門票を突き付けられて呆れて帰る者もいれば、強行突破してくる者もいる。
彼女が人質となる場合もある。
その度に彼女は怖い思いをするだろう。
もしも。
もしも彼女が攫われたら。
もしも命を、落としてしまったら。
真紅の溜まりに身を沈めた彼女を想像してしまい、身震いする。
温度のない肌と何も写さぬ瞳まで思い浮かべてしまい、心が千切れそうだった。
そうはさせない。
何としてでも守りきる。
守り抜く覚悟はある。
だが四六時中、彼女の傍にいられるわけではない。
大切だからこそ、
何よりも愛しているからこその恐れがあった。
私は今、
恐れ
迷っていた。