忍者夢短編
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コーポウズマサ 老人と犬編
インターホンが鳴ったので、ドアスコープを覗く。
面識のない白髪のおじいちゃんと頭巾を被った白い犬が立っていた。それはそのままの意味で、おじいちゃんも白い犬も立っているのだ。
なんと芸達者な犬か。
「はい…?」
「おぉ、貴女が朱美さんじゃな」
「あの失礼ですが…」
「儂は大川平次渦正じゃ」
目の前に建つ学園と、学園の目の前に建つ私が住んでいるアパートの名前の由来であるその人と分かり、私はなんとも文字で表しがたい声を上げてしまった。
腹からでも喉からでも無い、心臓が跳ねた衝撃がそのまま声となって出た。
「どうぞ粗茶ですが」
「いやいや、おかまいなく」
「ヘム!」
行儀良く正座している頭巾を被った犬にも私はお茶を差し出した。
出した瞬間、一人と一匹は揃ってお茶を飲み干したので、私は再びお茶を注ぐことになった。
「この間はウチの生徒がすまんかった。ずいぶん好き勝手に遊んでいったようで」
深々と頭を下げる大川学園長に私は必死に首を振って否定する。
まさか学園長がそんなことで直々に出向いて頭を下げに来るとは思わなかった。しかも犬まで頭下げてるし。
「いえいえ!頭を上げてください。こちらこそ大切な生徒さんを勝手にお預かりしてしまって」
「いやいやこちらの指導不足じゃ。担任の土井も反省しておった」
土井……あの若い先生のことだと思い出し、私は更に恐縮する。日頃からあの生徒達に振り回されて苦労されている姿が思い浮かぶ。
「それで…ちょっと伺いたいのじゃが…。その……子ども達が遊んでおったげぇむとやらじゃが……」
さきほどから老人はチラチラと私の後ろに置かれているゲーム機を見ているようだ。
話題が突然ゲーム機に変わったことを不思議に思ったが、私は体をずらして、テレビ台に収納されたゲーム機を見せた。
「これですが?」
「近くで見ても?」
「どうぞ?」
「あいすまんの?」
何故かお互い語尾を上げたやりとりをして、大川さんは立ち上がり、テレビ台まで近づくと、よっこらせとしゃがんだ。
「いやぁ、今はすごいのぉ。これがげぇむというやつなんじゃな」
好奇心の強いおじいちゃんだな、と思っていると、おじいちゃんは目をキラキラさせてこちらを見てきた。
「すまんが…ちょっとやってみてもいいかな?」
突然訪問してきてゲームをやりたがるという展開に混乱中の私はどうぞと言ってしまう。
それが地獄の始まりであった。
まずは直感的な操作ができる髭の配管工のミニゲーム集をやらせてみては、
「ヘムヘム!それは卑怯じゃ!」
「ヘム!」
「なにぃ!?悔しかったら取り返してみろじゃと!?」
「ヘ~ムヘムヘム!!」
大川さんは青筋立てながら立ち上がり、隣でジョイコンを握る犬、ヘムヘムを睨む。ヘムヘムも目をつり上げ、向き合う。私はすかさず間に入った。
「すみません、リアルファイトなら外で…」
「くうぅぅぅ!やめじゃあこんなゲーム!!」
「ヘム!」
「朱美さん!他のゲームは!?」
止めたのにやりたがったため仕方がなくやらせる。次は、色々なゲームキャラクター達が戦い吹っ飛ばし合うゲームをやらせてみたのだが…
「なんじゃと!?それはワシのアイテムじゃ!」
「ヘムヘム!」
「早い者勝ちじゃと!?おのれヘムヘム…」
ジョイコンを放り投げ、立ち上がる大川さん。ヘムヘムも受けて立つ、と言わんばかりに立ち上がる。
「すみませんリアルファイトなら外で」
対戦ものはやめようと思い、協力プレイができる配管工のアクションゲームをやらせてみては
「ヘム!」
「なに!?ワシのせいでクリアできなかったじゃと!?」
「ヘムヘム!」
ならばRPGだと、日本を代表するタイトルをやらせてみては、もはや町の探索時で
「嫌じゃ!ワシはこっちを調べたいんじゃ」
「ヘムヘム!」
「嫌じゃ!ワシが操作するんじゃ!」
何で犬がゲームできるんだよ。しかも上手いし。という突っ込みをする気は、二足歩行したり正座したりと、色々突っ込みたいところがありすぎて最早無い。
この間の三人組の和気藹々とした雰囲気が懐かしい。
ジョイコンを振り回し、画面に釘付けの一人と一匹。何をやらせても険悪なムードになる。
このアパート、昼は殆どの住人が外に出ているためか、多少騒いでも苦情は来ないのだが、これでは隣のメゾン・ウズマサから苦情が来ないか心配だ。
もし来たら、苦情は渦正学園にお願いしますと言ってやりたい。
何をプレイさせれば争いは起こらないのか。
いっそ恋愛ゲームでもプレイさせようか。
だめだ。攻略対象や選択肢でケンカするに決まっている。
私は頭を抱えた。
もしかして、いや、もしかしなくても、この人とこの犬は、ゲームをやりに来ただけなんじゃないかと思えてきた。謝罪なんて、ここに来る口実にすぎなかったのではないか。
あの三人組がここでしたことを、どういう経緯で得たのか分からないが、ゲームをしたことを知り、興味が湧いたのではないか。
いや、ならばここに来なくとも、自分のとこの生徒や教師に頼ってほしい。
その時、ピンポーンとチャイムが鳴る。
一日二回も来客があったことなど一度も無かった。荷物が届く予定はないので、何かの勧誘か。
ドアスコープを覗き、その訪問客に驚いた。
「土井先生!?」
私の声に、学園長もヘムヘムも振り返った。
「なんじゃ!土井半助が何のようじゃ」
ハンスケって名前なんだ。と、土井先生への知識が1つ増えたところで、鍵とチェーンを外してドアを開けた。
土井先生は、開ける前から、申し訳なさでいっぱいの顔をしていた。辞書を編纂するとき、謝罪の項目には彼の顔をぜひ載せてほしい。
「うちの学園長が大変ご迷惑をおかけしました……」
そもそもどう聞きつけてここに来たのか。土井先生みたいな若手職員が学園長のお迎えとお詫びをしに来たのであれば、人によってはますます怒りを買いそうな対応だ。カッコイイ人が来てくれて私は嬉しいからいいけど。
ゴタゴタしたが、帰る気になった学園長とヘムヘムは、玄関口でひたすら平謝りする土井先生の隣でそっぽを向いていた。まだ喧嘩中のようだ。
先日は生徒のために、今日は学園長のために頭を下げている土井先生の胃が心配でならない。
「本当になんとお詫びしてよいやら…」
「大丈夫ですよ。そんなに謝らないでください」
「ほれ、朱美さんもそう言ってくれてるじゃろうが」
「原因作ったのはあなたでしょう!」
土井先生の言うとおりだけど、自分の職場の上司にすごい突っ込むなと私が感心していると、大川さんは私に耳打ちする。
「今度はもう一つのゲーム機をやりたいのじゃが」
この人は懲りてない。
私は苦笑して「お待ちしております」と返事をすると、目をキラキラさせた。
大変だったけど、楽しかった。
それが私の正直な気持ちだ。
今度はVRでホラーゲームをさせてみよう。
この人ならたぶん大丈夫だろう。
ーーー
大川平次渦正は、学園長室で渋めの緑茶を口にする。
応接用の革張りのソファに腰掛ける。
壁に掛けてある、自ら書いた「忍」の掛け軸を見つめ、目を細めた。
「面白い時代に生まれ変われたものじゃ。のうヘムヘム」
「ヘム!」
かつての人生と同様、彼は再び教育者となった。そして、奇妙な縁によって引き寄せられるかつての教師、生徒達。
記憶は無いが、性格や言動まで同じであることに、驚きを通り越して、とてつもなく愉快だった。
「いやいやしかし、げえむは楽しかったの」「ヘム」
ヘムヘムはソファの上で器用にタブレットを操作している。大川は画面を覗くと、目を見開いた。
「あ、こら!勝手にワシの金ですいっちを買うんじゃない!」
「ヘムヘム!」
「何?ポイント5倍だしいいだろじゃと!?」
今日はもう喧嘩をする体力は残っていない。
それは相棒も同じようだ。
お互い無言のまま睨み合うも、同じタイミングでニッコリと笑い合った。
「……ま、いいじゃろ」
「ヘム」
数日後、再びコーポウズマサ101号室を訪れた一人と一匹は、VRによってゾンビと鮫の来襲にあい、腰を抜かすも笑いながら最新技術を全身で堪能したのだった。
インターホンが鳴ったので、ドアスコープを覗く。
面識のない白髪のおじいちゃんと頭巾を被った白い犬が立っていた。それはそのままの意味で、おじいちゃんも白い犬も立っているのだ。
なんと芸達者な犬か。
「はい…?」
「おぉ、貴女が朱美さんじゃな」
「あの失礼ですが…」
「儂は大川平次渦正じゃ」
目の前に建つ学園と、学園の目の前に建つ私が住んでいるアパートの名前の由来であるその人と分かり、私はなんとも文字で表しがたい声を上げてしまった。
腹からでも喉からでも無い、心臓が跳ねた衝撃がそのまま声となって出た。
「どうぞ粗茶ですが」
「いやいや、おかまいなく」
「ヘム!」
行儀良く正座している頭巾を被った犬にも私はお茶を差し出した。
出した瞬間、一人と一匹は揃ってお茶を飲み干したので、私は再びお茶を注ぐことになった。
「この間はウチの生徒がすまんかった。ずいぶん好き勝手に遊んでいったようで」
深々と頭を下げる大川学園長に私は必死に首を振って否定する。
まさか学園長がそんなことで直々に出向いて頭を下げに来るとは思わなかった。しかも犬まで頭下げてるし。
「いえいえ!頭を上げてください。こちらこそ大切な生徒さんを勝手にお預かりしてしまって」
「いやいやこちらの指導不足じゃ。担任の土井も反省しておった」
土井……あの若い先生のことだと思い出し、私は更に恐縮する。日頃からあの生徒達に振り回されて苦労されている姿が思い浮かぶ。
「それで…ちょっと伺いたいのじゃが…。その……子ども達が遊んでおったげぇむとやらじゃが……」
さきほどから老人はチラチラと私の後ろに置かれているゲーム機を見ているようだ。
話題が突然ゲーム機に変わったことを不思議に思ったが、私は体をずらして、テレビ台に収納されたゲーム機を見せた。
「これですが?」
「近くで見ても?」
「どうぞ?」
「あいすまんの?」
何故かお互い語尾を上げたやりとりをして、大川さんは立ち上がり、テレビ台まで近づくと、よっこらせとしゃがんだ。
「いやぁ、今はすごいのぉ。これがげぇむというやつなんじゃな」
好奇心の強いおじいちゃんだな、と思っていると、おじいちゃんは目をキラキラさせてこちらを見てきた。
「すまんが…ちょっとやってみてもいいかな?」
突然訪問してきてゲームをやりたがるという展開に混乱中の私はどうぞと言ってしまう。
それが地獄の始まりであった。
まずは直感的な操作ができる髭の配管工のミニゲーム集をやらせてみては、
「ヘムヘム!それは卑怯じゃ!」
「ヘム!」
「なにぃ!?悔しかったら取り返してみろじゃと!?」
「ヘ~ムヘムヘム!!」
大川さんは青筋立てながら立ち上がり、隣でジョイコンを握る犬、ヘムヘムを睨む。ヘムヘムも目をつり上げ、向き合う。私はすかさず間に入った。
「すみません、リアルファイトなら外で…」
「くうぅぅぅ!やめじゃあこんなゲーム!!」
「ヘム!」
「朱美さん!他のゲームは!?」
止めたのにやりたがったため仕方がなくやらせる。次は、色々なゲームキャラクター達が戦い吹っ飛ばし合うゲームをやらせてみたのだが…
「なんじゃと!?それはワシのアイテムじゃ!」
「ヘムヘム!」
「早い者勝ちじゃと!?おのれヘムヘム…」
ジョイコンを放り投げ、立ち上がる大川さん。ヘムヘムも受けて立つ、と言わんばかりに立ち上がる。
「すみませんリアルファイトなら外で」
対戦ものはやめようと思い、協力プレイができる配管工のアクションゲームをやらせてみては
「ヘム!」
「なに!?ワシのせいでクリアできなかったじゃと!?」
「ヘムヘム!」
ならばRPGだと、日本を代表するタイトルをやらせてみては、もはや町の探索時で
「嫌じゃ!ワシはこっちを調べたいんじゃ」
「ヘムヘム!」
「嫌じゃ!ワシが操作するんじゃ!」
何で犬がゲームできるんだよ。しかも上手いし。という突っ込みをする気は、二足歩行したり正座したりと、色々突っ込みたいところがありすぎて最早無い。
この間の三人組の和気藹々とした雰囲気が懐かしい。
ジョイコンを振り回し、画面に釘付けの一人と一匹。何をやらせても険悪なムードになる。
このアパート、昼は殆どの住人が外に出ているためか、多少騒いでも苦情は来ないのだが、これでは隣のメゾン・ウズマサから苦情が来ないか心配だ。
もし来たら、苦情は渦正学園にお願いしますと言ってやりたい。
何をプレイさせれば争いは起こらないのか。
いっそ恋愛ゲームでもプレイさせようか。
だめだ。攻略対象や選択肢でケンカするに決まっている。
私は頭を抱えた。
もしかして、いや、もしかしなくても、この人とこの犬は、ゲームをやりに来ただけなんじゃないかと思えてきた。謝罪なんて、ここに来る口実にすぎなかったのではないか。
あの三人組がここでしたことを、どういう経緯で得たのか分からないが、ゲームをしたことを知り、興味が湧いたのではないか。
いや、ならばここに来なくとも、自分のとこの生徒や教師に頼ってほしい。
その時、ピンポーンとチャイムが鳴る。
一日二回も来客があったことなど一度も無かった。荷物が届く予定はないので、何かの勧誘か。
ドアスコープを覗き、その訪問客に驚いた。
「土井先生!?」
私の声に、学園長もヘムヘムも振り返った。
「なんじゃ!土井半助が何のようじゃ」
ハンスケって名前なんだ。と、土井先生への知識が1つ増えたところで、鍵とチェーンを外してドアを開けた。
土井先生は、開ける前から、申し訳なさでいっぱいの顔をしていた。辞書を編纂するとき、謝罪の項目には彼の顔をぜひ載せてほしい。
「うちの学園長が大変ご迷惑をおかけしました……」
そもそもどう聞きつけてここに来たのか。土井先生みたいな若手職員が学園長のお迎えとお詫びをしに来たのであれば、人によってはますます怒りを買いそうな対応だ。カッコイイ人が来てくれて私は嬉しいからいいけど。
ゴタゴタしたが、帰る気になった学園長とヘムヘムは、玄関口でひたすら平謝りする土井先生の隣でそっぽを向いていた。まだ喧嘩中のようだ。
先日は生徒のために、今日は学園長のために頭を下げている土井先生の胃が心配でならない。
「本当になんとお詫びしてよいやら…」
「大丈夫ですよ。そんなに謝らないでください」
「ほれ、朱美さんもそう言ってくれてるじゃろうが」
「原因作ったのはあなたでしょう!」
土井先生の言うとおりだけど、自分の職場の上司にすごい突っ込むなと私が感心していると、大川さんは私に耳打ちする。
「今度はもう一つのゲーム機をやりたいのじゃが」
この人は懲りてない。
私は苦笑して「お待ちしております」と返事をすると、目をキラキラさせた。
大変だったけど、楽しかった。
それが私の正直な気持ちだ。
今度はVRでホラーゲームをさせてみよう。
この人ならたぶん大丈夫だろう。
ーーー
大川平次渦正は、学園長室で渋めの緑茶を口にする。
応接用の革張りのソファに腰掛ける。
壁に掛けてある、自ら書いた「忍」の掛け軸を見つめ、目を細めた。
「面白い時代に生まれ変われたものじゃ。のうヘムヘム」
「ヘム!」
かつての人生と同様、彼は再び教育者となった。そして、奇妙な縁によって引き寄せられるかつての教師、生徒達。
記憶は無いが、性格や言動まで同じであることに、驚きを通り越して、とてつもなく愉快だった。
「いやいやしかし、げえむは楽しかったの」「ヘム」
ヘムヘムはソファの上で器用にタブレットを操作している。大川は画面を覗くと、目を見開いた。
「あ、こら!勝手にワシの金ですいっちを買うんじゃない!」
「ヘムヘム!」
「何?ポイント5倍だしいいだろじゃと!?」
今日はもう喧嘩をする体力は残っていない。
それは相棒も同じようだ。
お互い無言のまま睨み合うも、同じタイミングでニッコリと笑い合った。
「……ま、いいじゃろ」
「ヘム」
数日後、再びコーポウズマサ101号室を訪れた一人と一匹は、VRによってゾンビと鮫の来襲にあい、腰を抜かすも笑いながら最新技術を全身で堪能したのだった。