妖しい月
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委員長及び委員長代理の会議に出席してほしいと、仙蔵くんから教えられた場所と時間に来たはずだった。
それなのに戸を開ければ、既に話し合いが始まっていて、私は急いで輪の中に入る。
しかし皆はそんな私に笑みを浮かべながら頭だけを下げ、そして話を続けた。
委員長、委員長代理の会議と聞いたけれど、五六年生全員が集まっている。
遅刻したわけでもなさそうだが、会議自体は既に始まっていたようで、私は混乱する。
「ということで来る忍術学園ハロウィンパーティーについてだが」
そこへ涼しい顔で仙蔵くんが話し出したから私は更に混乱する。
五年も六年も皆真剣な表情だ。
「我々の衣装は決まった。後は、朱美さんの衣装だ」
「私?」
自分のことが話題に上がり、姿勢を正した。
「やはり私や兵助と揃いの猫の衣装がよいかと」
「猫耳といい肉球といい、可愛さあふれる姿にきっと土井先生もイチコロでしょう」
誰がイチコロだって?
勘右衛門君が私の前に一枚の紙を差し出してきた。
そこには猫耳と猫の手足を模した手袋と靴と尻尾を付けた忍び装束を着た人間が描かれていた。
揃いの衣装、ということは彼らもこれを着るのだろうか。色々な方が喜びそうだ。
「なら私や長次の狼男の衣装のがいいだろう」
「……土井先生への朱美さんの態度は猫と言うより、犬だ……」
真面目な顔してこの上級生らは何を言っているんだろう。
「いや、死神だろう」
「土井先生を邪魔する輩をこの鎌で」
「ザクっ…なんて実際にやりそうだ」
八左ヱ門くんと雷蔵くん三郎くんは笑顔でとんでもないことをのたまう。
でもあながち間違ってはいない。スクリームの面を付けて私はヤると思う。
「ミイラなんていいんじゃないかな」
「朱美さん、元の世界でも見たことがないと仰っておりましたから、この際、ご自分がなられては」
さっそく包帯を取り出す伊作くんと、彼らしからぬトンデモ理論を展開する留三郎くん。
それを言えば猫娘も狼男も死神だって見たことはない。
実際に着る衣装のスケッチが私の前に並ぶ。
これを私に見せて選ばせるために呼んだというのだろうか。
「ハロウィンに私に何を着せようと話してくれているのは分かったけれど、私は何も」
「猫娘だ」
「狼だ」
「死神だ」
「ミイラだ」
聞いちゃいない。
「私の意思を尊重してよ」
「それでは何も着ないのでしょう、朱美さんは」
そんなのお見通しだ、と言わんばかりの得意気な笑みを浮かべる立花仙蔵作法委員長。
「じゃあアナベルにするから」
「なんですかそれは」
「そうやって煙に巻くおつもりですね」
首を傾げる雷蔵くんの肩に手を置き、相手にするな、と首を振る三郎くん。
やはり上級生。
さすが上級生。
誤魔化しきれない。
「ではシンプルに決めよう!あみだくじだ!」
文次郎くんが白紙を取り出してさっそく筆を握るものの「待ってください!」と八左ヱ門くんが制止する。
「ここは原点に戻り、土井先生にとって一番刺激が強そうなものを!」
竹谷パイセンはとんでもないことを仰る。
「ならミイラで決まりだね。体の線が強調されるだろうから」
私を前に笑顔でセクハラまがいな発言を言う伊作くん。彼の爽やかな笑顔のせいで耳からすり抜けていきそうだった、危ない。
ちょっ、ちょっと!
と私が声をあげても蚊帳の外。
「体の線ならもう見慣れてらっしゃるはずだ。やはりここは猫耳です!普段の朱美さんが絶っっ対しなさそうな、意外性を狙いましょう!」
勘右衛門くんのとんでもない発言に空いた口が塞がらない。しかも皆が否定する部分は後半のみという。
「なら狼もいいだろう!いや、狼のがいい!たまには朱美さんから狼に変貌するのも新鮮でいいんじゃないですか」
カラカラ笑う小平太くんだが、私の何を知ってるというのだ。
「武器を持って構える朱美さんなんて、なんだかカッコイイですし、土井先生もドキリとするのではないでしょうか」
かなりまともな理由を述べる雷蔵くんに、私は、じゃあ死神だ、と言いたくなったが、ここで仙蔵くんと文次郎くんが静かに、しかし徐々に大きく笑い始めた。
「吸血鬼の女なぞ、この上なく高鳴るものではないか。なあ、文次郎」
「だな。妖艶で、土井先生をどきりとさせること間違いなしだ」
ああ。二人は吸血鬼なのか。そうか、ぴったりだ。仙蔵くんは今風のヴァンパイアって感じだし、文次郎くんは白黒映画のドラキュラって感じだなあ。
もはや主張を諦め、私は揺らめく燭台をぼーっと眺めていた。
尚も主張する上級生達。
もうどうにでもなれ。
私は紛糾する上級生会議をただただ呆然と見守るだけであった。
「なに言ってるのよ、魔女に決まってるじゃない」
屋根裏からの声に、部屋は水を打ったように静まった。
「こ、……この声。この口調…」
皆、天井を見上げ、息を飲んだ。
「伝子よぉ」
天井の板が外れ、音もなく着地した、妖艶な魔女に私を含め一同悲鳴を上げた。
おむすびころりんで、猫の鳴き真似をしたことであっという間に消えていった鼠のように、皆、大慌てに慌てて部屋を出て行った。その拍子に灯も消えてしまったが、伝子さんは「何よぉ」と不服そうにしながら、再び灯してくれた。
「おお!ルーモス、ですね」
「何よそれ」
何でもないです、と首を振った。
しかし西洋の魔女の格好をした伝子さん。
ローブではなく小袖だけれど、小袖の色合いといい、つば広で先の尖った黒の帽子が見事にハロウィンの魔女感を出している。
「素敵です。伝子さん」
「あらやだ。おだてても何もでないわよ」
「そんなこと」
真紅の口紅、ラメの入ったスカイブルーのアイシャドウ。
「もしかして私が差し上げたメイク用具をお遣いになりました?」
「ええ、そうよ。さすがに未来の化粧用具は質が凄いわね。色乗りが全然違うわぁ」
「お似合いです」
きゃっきゃっと騒ぐ私達を、障子戸の隙間から覗く仙蔵くん達。世にも恐ろしいものを見るような顔だ。
「あの、山田先生……いえ、伝子さん……」
「なにかしら」
「先程、魔女に決まっていると仰っておりましたが……」
それほど怖がらなくていいのに、文次郎くんはおずおずと尋ねてくる。
「そうよ。朱美ちゃんは魔女よ」
「顔や手を緑に塗っていいですか?」
「だめよ朱美ちゃん。何故緑に塗るの?」
「伝子さんが来てから朱美さんが饒舌だ………」
伊作くんのヒソヒソした声が聞こえてきたが、敢えて無視する。
「それで、なぜ魔女と決めているのですか?」
「そうですよ!我々が今、どうすれば土井先生を驚かせることができるか考えているというのに」
留三郎くんも小平太くんは不満げな様子を隠そうともせず、食い下がる。
しかし伝子さんは人差し指を振り、魅惑的なウィンクを投げてくれた。
「だって、魔女三姉妹にしたいんですもの」
「ひっ……」
皆、彼女のウィンクから目を逸らす。
私は伝子さんの言葉に「まさか」と思い、彼女に詰め寄った。
「三姉妹、とは?」
上級生もはっとする。
「ま、まさか」
「伝子、半子さん、朱美ちゃんの三姉妹美人魔女になるのよ」
「私もですか?ならば、ぴーりかぴりららとお着替えしますよ」
「何よその呪文」
いえ、何でも。
「さ、行くわよ。衣装合わせしなきゃ」
「はい」
そう言って私は伝子さんの後を付いていった。
それなのに戸を開ければ、既に話し合いが始まっていて、私は急いで輪の中に入る。
しかし皆はそんな私に笑みを浮かべながら頭だけを下げ、そして話を続けた。
委員長、委員長代理の会議と聞いたけれど、五六年生全員が集まっている。
遅刻したわけでもなさそうだが、会議自体は既に始まっていたようで、私は混乱する。
「ということで来る忍術学園ハロウィンパーティーについてだが」
そこへ涼しい顔で仙蔵くんが話し出したから私は更に混乱する。
五年も六年も皆真剣な表情だ。
「我々の衣装は決まった。後は、朱美さんの衣装だ」
「私?」
自分のことが話題に上がり、姿勢を正した。
「やはり私や兵助と揃いの猫の衣装がよいかと」
「猫耳といい肉球といい、可愛さあふれる姿にきっと土井先生もイチコロでしょう」
誰がイチコロだって?
勘右衛門君が私の前に一枚の紙を差し出してきた。
そこには猫耳と猫の手足を模した手袋と靴と尻尾を付けた忍び装束を着た人間が描かれていた。
揃いの衣装、ということは彼らもこれを着るのだろうか。色々な方が喜びそうだ。
「なら私や長次の狼男の衣装のがいいだろう」
「……土井先生への朱美さんの態度は猫と言うより、犬だ……」
真面目な顔してこの上級生らは何を言っているんだろう。
「いや、死神だろう」
「土井先生を邪魔する輩をこの鎌で」
「ザクっ…なんて実際にやりそうだ」
八左ヱ門くんと雷蔵くん三郎くんは笑顔でとんでもないことをのたまう。
でもあながち間違ってはいない。スクリームの面を付けて私はヤると思う。
「ミイラなんていいんじゃないかな」
「朱美さん、元の世界でも見たことがないと仰っておりましたから、この際、ご自分がなられては」
さっそく包帯を取り出す伊作くんと、彼らしからぬトンデモ理論を展開する留三郎くん。
それを言えば猫娘も狼男も死神だって見たことはない。
実際に着る衣装のスケッチが私の前に並ぶ。
これを私に見せて選ばせるために呼んだというのだろうか。
「ハロウィンに私に何を着せようと話してくれているのは分かったけれど、私は何も」
「猫娘だ」
「狼だ」
「死神だ」
「ミイラだ」
聞いちゃいない。
「私の意思を尊重してよ」
「それでは何も着ないのでしょう、朱美さんは」
そんなのお見通しだ、と言わんばかりの得意気な笑みを浮かべる立花仙蔵作法委員長。
「じゃあアナベルにするから」
「なんですかそれは」
「そうやって煙に巻くおつもりですね」
首を傾げる雷蔵くんの肩に手を置き、相手にするな、と首を振る三郎くん。
やはり上級生。
さすが上級生。
誤魔化しきれない。
「ではシンプルに決めよう!あみだくじだ!」
文次郎くんが白紙を取り出してさっそく筆を握るものの「待ってください!」と八左ヱ門くんが制止する。
「ここは原点に戻り、土井先生にとって一番刺激が強そうなものを!」
竹谷パイセンはとんでもないことを仰る。
「ならミイラで決まりだね。体の線が強調されるだろうから」
私を前に笑顔でセクハラまがいな発言を言う伊作くん。彼の爽やかな笑顔のせいで耳からすり抜けていきそうだった、危ない。
ちょっ、ちょっと!
と私が声をあげても蚊帳の外。
「体の線ならもう見慣れてらっしゃるはずだ。やはりここは猫耳です!普段の朱美さんが絶っっ対しなさそうな、意外性を狙いましょう!」
勘右衛門くんのとんでもない発言に空いた口が塞がらない。しかも皆が否定する部分は後半のみという。
「なら狼もいいだろう!いや、狼のがいい!たまには朱美さんから狼に変貌するのも新鮮でいいんじゃないですか」
カラカラ笑う小平太くんだが、私の何を知ってるというのだ。
「武器を持って構える朱美さんなんて、なんだかカッコイイですし、土井先生もドキリとするのではないでしょうか」
かなりまともな理由を述べる雷蔵くんに、私は、じゃあ死神だ、と言いたくなったが、ここで仙蔵くんと文次郎くんが静かに、しかし徐々に大きく笑い始めた。
「吸血鬼の女なぞ、この上なく高鳴るものではないか。なあ、文次郎」
「だな。妖艶で、土井先生をどきりとさせること間違いなしだ」
ああ。二人は吸血鬼なのか。そうか、ぴったりだ。仙蔵くんは今風のヴァンパイアって感じだし、文次郎くんは白黒映画のドラキュラって感じだなあ。
もはや主張を諦め、私は揺らめく燭台をぼーっと眺めていた。
尚も主張する上級生達。
もうどうにでもなれ。
私は紛糾する上級生会議をただただ呆然と見守るだけであった。
「なに言ってるのよ、魔女に決まってるじゃない」
屋根裏からの声に、部屋は水を打ったように静まった。
「こ、……この声。この口調…」
皆、天井を見上げ、息を飲んだ。
「伝子よぉ」
天井の板が外れ、音もなく着地した、妖艶な魔女に私を含め一同悲鳴を上げた。
おむすびころりんで、猫の鳴き真似をしたことであっという間に消えていった鼠のように、皆、大慌てに慌てて部屋を出て行った。その拍子に灯も消えてしまったが、伝子さんは「何よぉ」と不服そうにしながら、再び灯してくれた。
「おお!ルーモス、ですね」
「何よそれ」
何でもないです、と首を振った。
しかし西洋の魔女の格好をした伝子さん。
ローブではなく小袖だけれど、小袖の色合いといい、つば広で先の尖った黒の帽子が見事にハロウィンの魔女感を出している。
「素敵です。伝子さん」
「あらやだ。おだてても何もでないわよ」
「そんなこと」
真紅の口紅、ラメの入ったスカイブルーのアイシャドウ。
「もしかして私が差し上げたメイク用具をお遣いになりました?」
「ええ、そうよ。さすがに未来の化粧用具は質が凄いわね。色乗りが全然違うわぁ」
「お似合いです」
きゃっきゃっと騒ぐ私達を、障子戸の隙間から覗く仙蔵くん達。世にも恐ろしいものを見るような顔だ。
「あの、山田先生……いえ、伝子さん……」
「なにかしら」
「先程、魔女に決まっていると仰っておりましたが……」
それほど怖がらなくていいのに、文次郎くんはおずおずと尋ねてくる。
「そうよ。朱美ちゃんは魔女よ」
「顔や手を緑に塗っていいですか?」
「だめよ朱美ちゃん。何故緑に塗るの?」
「伝子さんが来てから朱美さんが饒舌だ………」
伊作くんのヒソヒソした声が聞こえてきたが、敢えて無視する。
「それで、なぜ魔女と決めているのですか?」
「そうですよ!我々が今、どうすれば土井先生を驚かせることができるか考えているというのに」
留三郎くんも小平太くんは不満げな様子を隠そうともせず、食い下がる。
しかし伝子さんは人差し指を振り、魅惑的なウィンクを投げてくれた。
「だって、魔女三姉妹にしたいんですもの」
「ひっ……」
皆、彼女のウィンクから目を逸らす。
私は伝子さんの言葉に「まさか」と思い、彼女に詰め寄った。
「三姉妹、とは?」
上級生もはっとする。
「ま、まさか」
「伝子、半子さん、朱美ちゃんの三姉妹美人魔女になるのよ」
「私もですか?ならば、ぴーりかぴりららとお着替えしますよ」
「何よその呪文」
いえ、何でも。
「さ、行くわよ。衣装合わせしなきゃ」
「はい」
そう言って私は伝子さんの後を付いていった。