4 壁の向こう
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伊瀬階さんが来て十日ほど過ぎた頃。
彼女の生活は規則的だった。
我々とさほど変わらない時間に起き出して、朝食の準備のために食堂に行く。
朝練後、早めに食堂に向かい、テーブルを拭いている彼女に話しかけるのが、私としても日々の日課になった。
その後、学園内の掃除をして、昼食の準備をする時間まで、学園長の話し相手か、小松田君の手伝いをしているようだ。
忍者が物語上の人物となっている彼女にとって学園長の話はこの上ない娯楽となっていた。
そして学園長にとって、聞いてもらえない自分の昔話を熱心に聞いてくれる貴重な存在。
双方の利益が一致していることにより、我々教師陣と忍たま達にとって、意外な恩恵がもたらされた。
話を聞いてくれる伊瀬階さんの存在は、退屈によって生み出される学園長の突然の思い付きが起きていない。思い付きによって、只でさえ遅れている授業が潰されることはなくなった。
と言っても、進みが加速するわけでもないのだけれど。
そして昼食後、私か山田先生により、手習い兼手伝いをしてもらっている。最近になって、安藤先生や斜堂先生の手伝いもしているようだ。彼女の字は洗練されたものでは無いが、彼女の事情を知らない者が見ても違和感の無いものとなっていた。
聞けば、就寝前に練習しているようで「油を無駄にしてしまって申し訳ないですが」と言っていたが、朝も早いのだから、体調を崩さない意味で早く寝た方がいいと諭した。
そんな日々を送る彼女。
少しずつ交流を広げ、学園内の様々な者と会話しているのを見かけるが、彼女の態度は一貫している。
必要以上に親しくならない。
世間話をそこそこして、それ以上の踏み込んだ会話はしない。
戦によって家族を亡くした者や複雑な事情をもつ者が少なくない。人によっては触れてほしくない話題もあるため、彼女の性格は嫌われるものではなかった。
しかし、特に好かれもしない。
不思議な人。大人しい人。何を考えているのか分からない人。
ここ最近忍たま達から聞いた伊瀬階さんの印象だ。
彼女に関してもう一つ。
日頃、喜怒哀楽の激しい は組のよい子達といるため余計に感じることなのかもしれないが、彼女の感情表現は乏しい。
もちろん来たばかりの頃に比べたら、彼女が纏う空気は格段に柔らかいものになったのだが…。
無理に変えさせるものではないのだが、それでも気に掛けてしまうのは、お節介なのかもしれない。
今日は休校日。
日頃溜まった雑務を、山田先生と黙々とこなしていると、鋭い悲鳴が木霊する。
彼女の声だ。
方角的に校庭だろう。
山田先生と顔を見合わせた。悲鳴の原因は山田先生も察しがついたようで、原因を作った生徒を思い浮かべ溜息を付いた。私は急いで立ち上がり、声のする方へ向かう。