3 実技のお時間
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忍術学園の午後。
一年い組は裏山にて実技の授業を行っている。
「このように、敵に知られぬように罠の位置を仲間同士にしか分からぬ目印を道に置く」
厚着は木の枝を3本並べ、小石をその間に置いてみせれば、一年い組の生徒はうんうんと頷いた。
「では、これから二組に分ける。一組は、罠設置班だ。目印を決め、罠を仕掛けつつ、目印を置くこと。もう一組は追跡班だ。罠を設置した後に、いわゆる追いかけっこをしてもらおう」
罠設置班は、いかに追跡班に見つからない目印を決めて、自分達にしか分からない位置に置いておくか。
追跡班は、辺りを警戒し、僅かな異物も見落とさずに設置班を追跡することが重要だ。
「分かりました」
彼等は返事は立派だ。
そしてその後の話し合いをする姿も。
罠設置班は、身方に分かりやすく、敵側に分かりづらい目印と設置箇所を理論的に考え出している。
追跡班も、どこに気を付けるべきか熱心に話し合っている。
一年い組はとても優秀だ。
教科担当の安藤が教えた忍術は、漏れなく頭の中に入っている。
とても、とても優秀だ。
「よし、設置班。罠の設置は終わったな?」
「はい!」
班代表の左吉は手を上げた。
「では、はじ……」
「厚着先生!一年い組のよい子達!大変です!今すぐ授業を中断してください!」
茂みの中から、教科担当の安藤が顔を出した。
近づく気配に気付いていないわけではなかったし、何故、彼がここに来たのかも察しが付かないわけではなかった。
だが、彼が来たことで授業を止めたくなかったのだ。
「ドクタケ忍者隊が裏山の近くにまで来ているとのことです!授業どころではありません!」
一年い組のよい子達はといえば、安藤の言葉に顔色がさっと青ざめているので、厚着は頭を抱えたくなった。
「ほら、こちらへいらっしゃい!忍び足で学園まで帰りましょう!」
頰だけでなく額も汗で艶めいている教科担当は、茂みの中へと生徒たちに向かって手招きしている。
一年い組のよい子達はとても優秀だ。
教科のテストはいつも満点だし、知識欲もある。
そして先生の言うこともとても素直によく聞く。
「はい!!安藤先生!」
気をつけをして揃った返事をした彼等はそそくさと茂みの中に入り出したから、とうとう厚着はずっこけた。
確かに、忍者は生き残ることが大切だ。
敵を前にして立ち向かわずに逃げる勇気も必要だ。
何より大切な子ども達を預かっている身としては、安全を優先すべき時もある。
だが、しかし。
しかしだ。
ここは、忍者の学校だ。
闇に身を潜め、敵を欺き、己が任務の遂行のための知恵と技術を身につける場所ではなかったか。
ドクタケ城がまたしてもいくさを始めようと動き回っており、裏裏山まで行動範囲を広めている。
念のため低学年の実技の実施範囲は裏山までという学園長のお達しが出ている。
そのドクタケ忍者隊が裏山近くまで何故来てしまっているのか。
調査するべきではないだろうか。
安藤と一年い組の子ども達は既にここにはいない。
「はぁぁぁ」
鉛よりも重苦しい厚着の溜息は、誰にも聞かれることは無かった。