3 カレーライスと蝶
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忍術学園の朝は早い。
まず生徒達は早朝演習を行う。朝練とみんなは呼んでいる。
日が昇らぬうちに先生達は起きだし、集合場所を伝える暗号の用意など、朝練のための準備を行うのだという。
そして生徒は先生達と朝練し、その後、朝食をとるのだ。
私は今、食堂でおばちゃんと朝食の支度をしている。
家事はそれなりにやっていたから、それなりに野菜を速く丁寧に斬れる一方、竃の扱い方は分からないし、ピーラーを使わずに野菜の皮むきをするのは慣れていない。そんなちぐはぐな私の料理の腕前にも、おばちゃんは何も聞かずに、私が出来ないことを丁寧に教えてくれた。
「すみません。お手数おかけしました」
「いいのよ。朱美ちゃんのおかげで早く終わりそうだわ」
勝手口から、朝練をしているであろう生徒達の声が聞こえる。
朝練って言うけど、何をしているんだろう。
いつか元の世界に帰るとしても、この世界の事にある程度の興味は持っている。学園長の昔話も私は好きだった。
そういえば昨日の手習いの時、学園長とヘムヘムはあれから怪我は無かったか、仲直りしたのか心配で、夕方頃に庵に向かったら、何事も無く将棋をしていたので安心した。
私の存在に気づくと、笑顔で迎えてくれたが、土井先生への恨み言を並べていた。
手習いとは別に、またお話聞かせてくださいと言うと、学園長は目を輝かせていた。横にいたヘムヘムは驚いていたけど。
そう。今後の手習いは土井先生にご指導頂くことになった。
「また明日もいらしてください」
と笑顔で言っていたけど…この学園の一日を、そして、は組の実態を知れば知るほど心苦しい。
昨日もプリント作りをお手伝いしたけれど、土井先生の机の脇に置かれた、採点済みの小テストの束が見えてしまった。平均点数も50点満点なのかは分からないけれど、10点代のものが何枚か顔を覗かせていた。
先生、大変だろうな。
私の手習いの時間に割くのは勿体ない。
せめてその負担が軽くなるように、早く上達しなくては。昨日みたいにプリント作りも積極的に手伝おう。
私が調理器具を洗っていると、昼食のための食材を確認していたおばちゃんが「あらやだわ」と声を上げた。
「どうしました?」
「今日のお昼に学園長がリクエストしてるカレーライス、材料が足りないのよ」
「えぇ!?」
おばちゃんの口からリクエストとカレーという単語が飛び出してきても最早驚かないけど、材料が無いのは大変だ。
「私、買いに行きますよ」
「あら、いいかしら朱美ちゃん」
申し出た後に、しまったと気づく。
この世界の物価も分からないし、まず買い物自体が初めてだ。
ヘムヘムは着いてきてくれるだろうか。
私の事情を知っていて、頼みやすい存在はヘムヘムであった。
「私も行こう」
いつの間に食堂に入ってきたのか、山田先生がカウンター越しに立っていた。
鍛練が終わったのだろうか。
「山田先生、おはようございます。いいんですか?」
「おばちゃんのカレーライスは旨いですからな」
おばちゃんはご飯やお味噌汁などを整えたお盆を山田先生に渡す。
私も洗い物の手を止め、二人の元へ駆け寄る。
「一人じゃ物騒だ。それに午前中は特に急ぎの用は無い」
「そんな。お忙しいのに申し訳ないですよ」
ちょうどその時、一年は組の皆がドタドタと食堂に入ってきて、食堂は一気ににぎやかになった。
その賑やかさに紛れて、山田先生は私に小声で話しかけてきた。
「伊瀬階くんの事情を知ってる者が付いていった方がよいだろう。勉強にもなるし。なに、気になさんな」
山田先生の顔が笑うと、厳格な雰囲気からなんとも優しいものになる。
普段は厳しいけど、個別に質問しに行った時、優しく教えてくれる化学の先生を思い出した。
「すみません…では、よろしくお願いします」
「それじゃあ、朝食の時間の後に正門前で落ち合おう」
「なら朱美ちゃん。洗い物が終わったら、朱美ちゃんもご飯食べちゃいなさい」
まず生徒達は早朝演習を行う。朝練とみんなは呼んでいる。
日が昇らぬうちに先生達は起きだし、集合場所を伝える暗号の用意など、朝練のための準備を行うのだという。
そして生徒は先生達と朝練し、その後、朝食をとるのだ。
私は今、食堂でおばちゃんと朝食の支度をしている。
家事はそれなりにやっていたから、それなりに野菜を速く丁寧に斬れる一方、竃の扱い方は分からないし、ピーラーを使わずに野菜の皮むきをするのは慣れていない。そんなちぐはぐな私の料理の腕前にも、おばちゃんは何も聞かずに、私が出来ないことを丁寧に教えてくれた。
「すみません。お手数おかけしました」
「いいのよ。朱美ちゃんのおかげで早く終わりそうだわ」
勝手口から、朝練をしているであろう生徒達の声が聞こえる。
朝練って言うけど、何をしているんだろう。
いつか元の世界に帰るとしても、この世界の事にある程度の興味は持っている。学園長の昔話も私は好きだった。
そういえば昨日の手習いの時、学園長とヘムヘムはあれから怪我は無かったか、仲直りしたのか心配で、夕方頃に庵に向かったら、何事も無く将棋をしていたので安心した。
私の存在に気づくと、笑顔で迎えてくれたが、土井先生への恨み言を並べていた。
手習いとは別に、またお話聞かせてくださいと言うと、学園長は目を輝かせていた。横にいたヘムヘムは驚いていたけど。
そう。今後の手習いは土井先生にご指導頂くことになった。
「また明日もいらしてください」
と笑顔で言っていたけど…この学園の一日を、そして、は組の実態を知れば知るほど心苦しい。
昨日もプリント作りをお手伝いしたけれど、土井先生の机の脇に置かれた、採点済みの小テストの束が見えてしまった。平均点数も50点満点なのかは分からないけれど、10点代のものが何枚か顔を覗かせていた。
先生、大変だろうな。
私の手習いの時間に割くのは勿体ない。
せめてその負担が軽くなるように、早く上達しなくては。昨日みたいにプリント作りも積極的に手伝おう。
私が調理器具を洗っていると、昼食のための食材を確認していたおばちゃんが「あらやだわ」と声を上げた。
「どうしました?」
「今日のお昼に学園長がリクエストしてるカレーライス、材料が足りないのよ」
「えぇ!?」
おばちゃんの口からリクエストとカレーという単語が飛び出してきても最早驚かないけど、材料が無いのは大変だ。
「私、買いに行きますよ」
「あら、いいかしら朱美ちゃん」
申し出た後に、しまったと気づく。
この世界の物価も分からないし、まず買い物自体が初めてだ。
ヘムヘムは着いてきてくれるだろうか。
私の事情を知っていて、頼みやすい存在はヘムヘムであった。
「私も行こう」
いつの間に食堂に入ってきたのか、山田先生がカウンター越しに立っていた。
鍛練が終わったのだろうか。
「山田先生、おはようございます。いいんですか?」
「おばちゃんのカレーライスは旨いですからな」
おばちゃんはご飯やお味噌汁などを整えたお盆を山田先生に渡す。
私も洗い物の手を止め、二人の元へ駆け寄る。
「一人じゃ物騒だ。それに午前中は特に急ぎの用は無い」
「そんな。お忙しいのに申し訳ないですよ」
ちょうどその時、一年は組の皆がドタドタと食堂に入ってきて、食堂は一気ににぎやかになった。
その賑やかさに紛れて、山田先生は私に小声で話しかけてきた。
「伊瀬階くんの事情を知ってる者が付いていった方がよいだろう。勉強にもなるし。なに、気になさんな」
山田先生の顔が笑うと、厳格な雰囲気からなんとも優しいものになる。
普段は厳しいけど、個別に質問しに行った時、優しく教えてくれる化学の先生を思い出した。
「すみません…では、よろしくお願いします」
「それじゃあ、朝食の時間の後に正門前で落ち合おう」
「なら朱美ちゃん。洗い物が終わったら、朱美ちゃんもご飯食べちゃいなさい」