償いの薬師
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桜は散り、深緑が陽を浴びて輝く季節がやってきた。
裏裏山も鮮やかな緑に染まり、空の青との対比が見事であった。
実技の授業が終われば、下級生達は学園のとある一室を目指す。
怪我をしたならしめたもの。
裏山での授業で枝に腕を引っかけ切り傷を作ってしまった。
以前ならば顰めっ面を作って、傷に唾をかけてその場で終わるのだが今は違う。
この時期の実技の授業は汗だくになって、背中が気持ち悪くなる。
それでも疲れと不快感など気にもせずに、きり丸は息を切らしながら医務室へと走っていく。
「失礼しまーす!」
勢いよく戸を開ければ、先客がいたから思わず舌打ちをしてしまう。
先客もまた、きり丸を見てギクリとする。
同じ井桁模様の装束。
一年い組の左吉であった。
実技の授業で脚を痛めたのだろうか。
忍び足袋を脱いで晒された足首は赤く腫れていた。
「きり丸君。医務室の戸は静かに開けてくださいね」
山奥にひっそりと咲く野花のような声だった。
「はーい、すみませーん」
反省の色が無いきり丸の返事に左吉は何か言いたそうに口を開いたが、ちらりと彼女を見て、口をつぐんだ。
煎じた塗り薬を腫れた部分に貼り付け、包帯を巻いていく。
「痛みが引くまでこのままですよ?」
「は、はいっ……」
瞳が合って、左吉は頰を染め目を逸らした。
「はい。左吉くん。もういいですよ」
その笑顔は雲の隙間から差し込む光のような、控えめだけれど、見た者を安堵させる柔らかな笑み。
「ありがとうございます」
腫れた脚を庇いながら左吉が医務室を出れば、今度はきり丸が彼女の前にどっかりと座る。
「朱美さん!おれ、腕を切っちゃって」
傷を見るために彼女の細い指がきり丸の腕を掴む。
整った顔立ちが近づき、きり丸はまじまじと見つめる。
人形のような顔だと、きり丸はいつも思っていた。
「幸いそれほど深くはないですね。ばい菌が入らないように消毒と薬を塗っておきましょう」
彼女の名は朱美。
少し前に校医として忍術学園にやって来て、新野と交代で医務室に勤務している。
戦で里を無くし、彼女の親戚が学園長の知り合いということもあり、その伝手を頼りに学園で働くことになった、というのが学園長からの紹介。
皆、彼女に目を奪われた。
美しさだけではない。
神秘的とも高貴とも言える雰囲気を纏っていた。
新学期の朝礼で挨拶をする彼女に釘付けになる生徒たちを見て、教員達は苦笑する。
下級生の手前、忍者の三禁を破るわけにいかないと平静を装う上級生達だが、明らかに彼女を気にしているではないか。
これからきっと医務室は下級生達が足繁く通う場所になるだろうと教員達は予想した。
案の定、教員達の読みは的中し、実技の授業の後は誰がしか怪我をすれば医務室へと駆けていくのだ。
しかも朱美が当番の日に限って、だ。
新野はそんな現状に苦笑する。
「怪我を放っておくよりいいのですが……忍者としては失格ですね」
しかし、一部の生徒達もこの現状を嘆いていた。
保健委員会の面々である。
きり丸の手当てを済ませた時、ドタドタと廊下を走る足音が近づいてくる。
そして足音は医務室の前で止まり、勢いよく戸が開け放たれた。
頭巾を外していたから、ふわふわとした髪が風に揺れる。
「きりちゃん!やっぱりここにいたー!」
「乱太郎!」
「乱太郎くん。医務室の戸は静かに開けましょうね」
穏やかな口調で注意する朱美に、乱太郎は大袈裟なまでにしょげかえる。
「……すみません」
「医務室の戸じゃなかったら勢いよく開けてもいいんすか?」
「きりちゃん…」
朱美のいる日の医務室には、絶えず忍たま達がいるため、保健委員会の活動の妨げになっているのだ。
薬品棚の整理も落ち着いてできないし、包帯の消耗も激しくなった。
不運委員会と呼んで、新学期の際の委員会選挙では誰も入りたがらなかったのに、彼女が保健委員会の副顧問となった今では「次こそは保健委員会」と意気込む始末。
だが、本当に気に入らないのは
「…折角、朱美さんと二人でお話できる日なのに」
乱太郎はそっと溜息をついた。
彼女が当番の日と、保健委員の当番の日が被れば、その日は彼女と医務室で過ごせるのに。
彼女のことを知りたい、話したい。
けれども邪魔が必ず入るのだ。
「んだよ。怪我したら医務室来ちゃだめなのかよ」
「いつもは『この位唾付けときゃ治る』って言ってるじゃない!!」
口を尖らせるきり丸に乱太郎は唾を飛ばしながら怒鳴る。
「乱太郎くん、落ち着いてください。ね?」
澄み渡る泉のような声に、乱太郎は冷静さを取り戻す。
「……はい」
今度、彼女と共に薬草摘みに出かける。
その日を楽しみにしながら、乱太郎は医務室の薬草の残りを調べることにしたのだった。
裏裏山も鮮やかな緑に染まり、空の青との対比が見事であった。
実技の授業が終われば、下級生達は学園のとある一室を目指す。
怪我をしたならしめたもの。
裏山での授業で枝に腕を引っかけ切り傷を作ってしまった。
以前ならば顰めっ面を作って、傷に唾をかけてその場で終わるのだが今は違う。
この時期の実技の授業は汗だくになって、背中が気持ち悪くなる。
それでも疲れと不快感など気にもせずに、きり丸は息を切らしながら医務室へと走っていく。
「失礼しまーす!」
勢いよく戸を開ければ、先客がいたから思わず舌打ちをしてしまう。
先客もまた、きり丸を見てギクリとする。
同じ井桁模様の装束。
一年い組の左吉であった。
実技の授業で脚を痛めたのだろうか。
忍び足袋を脱いで晒された足首は赤く腫れていた。
「きり丸君。医務室の戸は静かに開けてくださいね」
山奥にひっそりと咲く野花のような声だった。
「はーい、すみませーん」
反省の色が無いきり丸の返事に左吉は何か言いたそうに口を開いたが、ちらりと彼女を見て、口をつぐんだ。
煎じた塗り薬を腫れた部分に貼り付け、包帯を巻いていく。
「痛みが引くまでこのままですよ?」
「は、はいっ……」
瞳が合って、左吉は頰を染め目を逸らした。
「はい。左吉くん。もういいですよ」
その笑顔は雲の隙間から差し込む光のような、控えめだけれど、見た者を安堵させる柔らかな笑み。
「ありがとうございます」
腫れた脚を庇いながら左吉が医務室を出れば、今度はきり丸が彼女の前にどっかりと座る。
「朱美さん!おれ、腕を切っちゃって」
傷を見るために彼女の細い指がきり丸の腕を掴む。
整った顔立ちが近づき、きり丸はまじまじと見つめる。
人形のような顔だと、きり丸はいつも思っていた。
「幸いそれほど深くはないですね。ばい菌が入らないように消毒と薬を塗っておきましょう」
彼女の名は朱美。
少し前に校医として忍術学園にやって来て、新野と交代で医務室に勤務している。
戦で里を無くし、彼女の親戚が学園長の知り合いということもあり、その伝手を頼りに学園で働くことになった、というのが学園長からの紹介。
皆、彼女に目を奪われた。
美しさだけではない。
神秘的とも高貴とも言える雰囲気を纏っていた。
新学期の朝礼で挨拶をする彼女に釘付けになる生徒たちを見て、教員達は苦笑する。
下級生の手前、忍者の三禁を破るわけにいかないと平静を装う上級生達だが、明らかに彼女を気にしているではないか。
これからきっと医務室は下級生達が足繁く通う場所になるだろうと教員達は予想した。
案の定、教員達の読みは的中し、実技の授業の後は誰がしか怪我をすれば医務室へと駆けていくのだ。
しかも朱美が当番の日に限って、だ。
新野はそんな現状に苦笑する。
「怪我を放っておくよりいいのですが……忍者としては失格ですね」
しかし、一部の生徒達もこの現状を嘆いていた。
保健委員会の面々である。
きり丸の手当てを済ませた時、ドタドタと廊下を走る足音が近づいてくる。
そして足音は医務室の前で止まり、勢いよく戸が開け放たれた。
頭巾を外していたから、ふわふわとした髪が風に揺れる。
「きりちゃん!やっぱりここにいたー!」
「乱太郎!」
「乱太郎くん。医務室の戸は静かに開けましょうね」
穏やかな口調で注意する朱美に、乱太郎は大袈裟なまでにしょげかえる。
「……すみません」
「医務室の戸じゃなかったら勢いよく開けてもいいんすか?」
「きりちゃん…」
朱美のいる日の医務室には、絶えず忍たま達がいるため、保健委員会の活動の妨げになっているのだ。
薬品棚の整理も落ち着いてできないし、包帯の消耗も激しくなった。
不運委員会と呼んで、新学期の際の委員会選挙では誰も入りたがらなかったのに、彼女が保健委員会の副顧問となった今では「次こそは保健委員会」と意気込む始末。
だが、本当に気に入らないのは
「…折角、朱美さんと二人でお話できる日なのに」
乱太郎はそっと溜息をついた。
彼女が当番の日と、保健委員の当番の日が被れば、その日は彼女と医務室で過ごせるのに。
彼女のことを知りたい、話したい。
けれども邪魔が必ず入るのだ。
「んだよ。怪我したら医務室来ちゃだめなのかよ」
「いつもは『この位唾付けときゃ治る』って言ってるじゃない!!」
口を尖らせるきり丸に乱太郎は唾を飛ばしながら怒鳴る。
「乱太郎くん、落ち着いてください。ね?」
澄み渡る泉のような声に、乱太郎は冷静さを取り戻す。
「……はい」
今度、彼女と共に薬草摘みに出かける。
その日を楽しみにしながら、乱太郎は医務室の薬草の残りを調べることにしたのだった。