25 青色つなぎ
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包帯はー
しっかり巻いてもキツすぎずー…
医務室から響く軽快で不思議な歌。
戸を開ければ伊作くんと乱太郎くんが歌に合わせて包帯を機器を使って巻いていた。
二人は向かい合わせに二機の巻き器のハンドルを回しながら歌っていたけれど、私と目が合うと立ち上がった。
「朱美さん、こんにちは」
「今日はお手伝いありがとうございます」
「こちらこそよろしくね」
今日は医務室の大掃除。
不運な生徒が集まるという保健委員会。
大掃除を予定していたこの日、伊作くんと乱太郎くん以外の保健委員は風邪を引くという不運っぷり。
お昼に伊作くんから相談を受けて、お手伝いとして加わることになった。
「年末のお忙しい時期に申しわけありません」
「大丈夫だよ」
確かに学期末かつ年末の今は目まぐるしい忙しさだ。
食堂の大掃除や事務室の書棚整理から始まり、今は各委員会に顔を出させてもらい、年末の倉庫整理やら大掃除やらのお手伝いしている。それに加え、先生方の仕事も手伝っているから、夜は疲れてぼーっとしてしまう。
鋭い半助さんに心配されまいとしているのに、早々に気づかれてしまい、昨晩は部屋に戻されてしまった。もともとその日はお話だけだったけれど、二人の時間があっという間に終わってしまったのは残念だった。
「では朱美さんは乱太郎と包帯を巻いていただけますか?ぼくは薬棚の整理をしますので」
乱太郎くんに巻き機の使い方と歌を教わり、向かい合わせで一緒に歌う。
歌を歌うと上手く巻けるらしい。
教わったとおりに歌って、そのリズムでハンドルを回す。
しかし、乱太郎くんは声が震えだし、伊作くんも肩を震わせていた。その理由は検討がつく。
「………ごめん。音痴なのは分かってる……」
「す、すみません……朱美さん………」
運動も音楽も音痴なのだ。
「そんなこと…………」
優しい保健委員長は、そんなことないですよ、と言おうとしたのだろう。言えてないけど。
「朱美さんも苦手な事があるんですね」
何て答えればいいのか分からず、私は曖昧に笑う。
「歌は乱太郎くんだけで歌って……」
こうして包帯の束が出来上がり、次は薬を煎じる作業をお手伝いすることになった。
手を消毒し、頭巾をして手拭いをマスク代わりにして、薬草を細かくするための薬研を触らせてもらった。
「やってみたかったんだよね」
「良かったですね!」
輪を両側についた棒で転がせば、薬草の独特な匂いがたちこめてくる。
乳鉢で粉末になった二種の薬草を混ぜ合わせている乱太郎くんはにっこりと笑いかけてくれた。
「朱美さんの世界には様々な薬があるんでしょうね」
「今持ってるから、これが終わったら見せるね」
調合が終わり、医務室の整理が終わる。
元から整然とした部屋だが、より綺麗になって気持ちがいい。
「これが鎮痛剤だよ」
懐から取り出した鎮痛剤の箱。
中の錠剤も見せた。
「朱美さん、どこか痛いんですか?」
自分で提供した話の話題に関わらず、心配そうに尋ねる乱太郎くんにどう答えていいものか考えあぐねていると、伊作くんが包装シートをまじまじと見ながら口を開いた。
「見て、乱太郎。この包装技術は凄いね」
「確かに凄いですね。一つ一つ完璧に外気に触れないで保存ができていますもんね」
伊作くんの気遣いに感謝した。
私達は医務室から出て、伊作くんと乱太郎くんは忍たま長屋に、私は夕飯の支度のために食堂へと向かうことにした。
「朱美さん、無理しないでくださいね。ちょっとお顔が疲れてますよ」
乱太郎くんは真っ直ぐで優しい。
その素直さが愛しくて思わず頭を撫でた。クセのあるふわふわとした髪が気持ちいい。
「まだ雪は残っていますからね。足と腰を冷やさないようにしてください。この間差し上げた湯たんぽも、ちゃんと使ってますか?」
伊作くんの具体的なアドバイスがありがたい。本当に15なのかと思ってしまうが、この世界ではれっきとした大人なのだと思い出す。
先日も陶器の湯たんぽを貰い、重宝している。
「あの時はありがとう。すっごく助かってる」
「ランニングも辛いときは控えてください」
「慣れると結構いいもんなんだよね。むしろやらないと調子が良くならないんだ」
何より、彼との時間を作りたかった。
「分かりました。では」
二人は礼儀正しく頭を下げ、忍たま長屋へと去って行った。