頬張る君が
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ここは彼女の世界。
見るもの全てが未知のもの。
例えば私の足下に続く道は、細かな石粒を固めたような硬い道。
アスファルトというらしい。
その上に引かれた白や橙の線によって歩く場所が決められているらしい。
線の向こう側は、おぞましい唸り声を上げながら目にもとまらぬ速さで走る鉄の乗り物が引っ切りなしに通っており、自動車というらしい。
アスファルトから樹木のように生えている鼠色の細長い円筒達は、電信柱。昼も夜も光を放つための電気という力を送るため、電信柱からは黒い線が伸びている。
このように、彼女の世界には見たことのない物質やカラクリがそこかしこに溢れているのだ。
ここは私にとって未来の世界であり、技術も文化も何もかもが未知のものだった。
「…でさぁ、そしたらアイツから全然連絡来ないの。ほんっと信じられない」
「最悪じゃん」
この時代の女性の言葉遣いはかなり豪胆で、身につけている衣服は大層心許ない。
目のやり場に困り、私はそっと目を逸らす。
肩も腿もうなじも平気で晒け出しているのだ。
そこで浮かぶ考えは1つ。
朱美もそんな格好をするのだろうか、ということ。
スマートフォンというカラクリがある。これ1つで、遠くの相手と連絡も取れれば、景色も記録できるという。
彼女のスマートフォンの記録を見せてもらえば、海を背景に太股を晒して彼女の友人達と笑顔でポーズを決めていた絵があったことを思い出す。
けしからん!
彼女の四肢もうなじも…私だけのものでありたかったのに。
私と離れている間に、知らぬ男達の視線に晒されていたのだ。
心の中は見苦しいほどに嫉妬の炎が渦巻いていた。
でも、先程通りかかった女人の格好を、もし、彼女がして、私の隣を歩いていたら………。
「半助さん……」なんて笑いかけながら、腕を絡めてきたら……。
「まずいな」
口元がニヤけてしまう。
大勢の前で独りでニヤけるのは躊躇われるので、この時代の衣服で女装する伝子さんを想像して表情を引き締めた。
うふん、とウィンクする伝子さんは、焦げるほどの暑さを忘れるほどだ。
以前も同じ流れで赤面してしまったところを彼女に見られて拗ねられてしまったのだ。
私の気持ちなど知らない彼女は、通りすがりの女人の格好を見て紅くなってしまったのだと思ったのだろうが、そんな事はない。
私は忍だ。
欲になど惑わされるはずがない。
彼女を除いて、だが。
そして彼女の住むマンションに戻るのだった。
アイスが食べたいと呟いた彼女のために、近所のスーパーまで買い物に行っていたのだ。
今日も暑い。
レポートを書く彼女は、今頃、部屋でノートパソコンのキーボードを叩いているのだろう。